悪役令嬢、分析する
寒いですね。魔法学園はもうすぐ夏ですが。皆様体調にはお気をつけ下さい。
因みに何故リリアンヌの急襲にリズが相手をしないかと言うと
「私に求められてる補佐の役割とは違うから」
だそうだ。
ヴァニラは補佐ではないが身分的には対等なので言い返したって問題ない。が、筋金入りの箱入りなので迫力負けしてしまう。
で、あのヒロインなのだが。
ゆるふわな金茶色の髪と小動物じみた瞳のハーフ系美少女。わかりやすく言えばハーフ系美少女アイドルのカテゴリにいそうなタイプなのだ。
なので、ゲーム内容を把握してるのは確かなのだがぱっと見 転生者か転移者なのかがわからない。
ただ、本来起こる筈のイベントが起こらないのを不審がってる様子は見て取れる。
何しろ私はイベントが起こりそうな場所には一切近寄らないし、近寄る必要があった場合絶対友人と同行し1人にはならないからだ。
ヒロインは大抵魅了属性持ちとはきくがーー周り全部が攻略対象でないーーというか丸きり効いてない人がいる事からしてーーー万能ではないようだ。
2年には”隣国の皇太子”がいるというのに一切接触がない。
隣国の皇太子、ルキフェル・トラメキア
黄金の長髪に金色の瞳、浅黒い肌の野生味溢れる美丈夫で身長183センチ(ゲームの公式設定による)、成績も常にトップクラス、とにかく身体能力が高く魔力も強いというハイスペック皇子。
キャロルは何度か付きまとったらしいのだが鼻であしらわれ全く相手にされなかったらしい。
なので派閥騒ぎにも一切加わってない。
まあ、1年だけの留学先にそこまで興味もわかないのは当然だろう。単に傍観して面白がってる節はあるがーーー勿論、私とも接触はない。挨拶ぐらいはした事があるがそれだけだ。
強いて言えば中立派・特権派どちらでもなく傍観派の代表といったところだろうか。
どちらにも属さず、ただ成り行き見守ってるだけ若しくは関わりたくない、という生徒が当たり前だが1番多い。王子と生徒会長が必ずどちらか表明しろ、と言ったら苦しいだろうが隣国の皇太子にそんな事は言えない。トラメキアは大国なのだ。
そういう意味では一番大きな派閥と言えるかもしれない。
まあ、幸い私にもヒロインにも全く興味がない様なので嘴つっこんでくる事もないだろう。私も敵にさえならなければどうでもいい。
そしてーーー多分お花畑でないヒロイン・キャロルは早々に皇太子を諦め、下位の貴族や平民達を味方につけ出した。
平民?なんで?と思われるかもしれないがこの学園の約半数は平民だ。
そして”自分を認められたい願望”は誰でも持っている。
キャロルはそこにつけこむのが巧みだった。
まず、下位貴族をサロンに誘う。
そこで
「私も所詮は下位貴族。今私がこうしていられるのは王子始め皆様が身分問わず重用して下さるおかげ。生徒会の皆さんには何故か目の敵にされてしまってるけど差別しているつもりはないの。あなたとお友達になりたい。もちろんあなたのお友達とも」
と目をウルウルさせてやるのだ。
そして次にはそのお友達(借)のお友達(要するに知らない人)がきて…以下略。
そうして王子の1番のお気に入りの令嬢キャロルは分け隔てしない令嬢で、その令嬢を1番近くに置いてる王子も器の大きい人物だ、と喧伝している。
ーーーそしてこの行動はキャロル達に選ばれた生徒達に選民意識を持たせ、キャロルを盲信した生徒は他を見下し、特権派と同じ行動を取るようになる。
そうしてシンパの数をじわじわ増やしていた。
基本単に反っくり返るだけの特権派だが、王子とキャロルのやり方は取り巻きどもと違い秀逸だった。
例えば食堂の列などで漸く1番前にきた平民のご令嬢に王子様スマイル全開で相手がポーっとなった所で
「ごめん。僕たち急いでるんだ。君たちみたいな可愛いご令嬢を後回しにするのは気が引けるんだけどここは譲ってもらえないかな?」
などとやると相手も
「ま、まあ!もちろん!私達は後で構いませんから!」
と顔を赤らめて引いてしまう。
男子生徒の場合はキャロルの出番だ。
をい。そこのお嬢さん方。
それ普通に横入りされてるぞ?
てかそいつら別に急いでないからな?
何か役員やってるワケでもないし(残念ながらこの2人の成績は中の下だ)。
その証拠に奴ら窓際の1番良い席を取り巻きに確保させて優雅にランチしてるだろ??
これを食堂で目の当たりにした私とリズは顔を見合わせ
「あれ、誉めるべきなのかしら?」
「さあ?高圧的に怒鳴りつけるよりは平和的かもしれないけど安売りしすぎね」
「何を?」
「王子様スマイルを。あれだけで国が成り立てば苦労はないわ」
「財務大臣令嬢の意見らしいわね」
新興貴族と古参貴族の融和を図る。
これは現国王が第一に掲げてる施策だ。
新しい技術を積極的に取り上げそれの仲介を担う技術者や商人に爵位を与え国への貢献を促す。
そしてそれはこの国の生活水準を間違いなくあげている。
それに学園内だけとはいえ真っ向から反する姿勢の王子。一体どういうつもりなのか…王位簒奪でもするつもりだろうか。
などとやっていたら2人共なんだか食欲がちょっと失せた(食べたけど)。以降、食堂を利用する回数が減ったのは言うまでもない。
「まあ、中立派の宮廷での中心人物はローズ伯なんだから(セイラが中立なのは)当然といえば当然なんだけどーー」
「ど、何?」
「セイラって婚約者候補でしょう?」
「貴族の令嬢ならみんな1度くらい名前あがった事あるでしょ?私にしたって単に何人もいる1人ってだけよ」
「発表されるのはあなたではないの?」
「さあ?お父様なら知ってるかもしれないけど。私は何もきいてないわ」
ーーあの様子だと、2人目か3人目として迎えるつもりならあるのかもしれない。
その場合…やっぱり冒険者になろう。
幸いこの世界にもギルドはある。
元々私はこの国では五指に入る治癒魔法の使い手と言われている。
それだけでも有利だが、それだけでなく魔法の授業を受け始めてわかったのだが子供の頃より異常に強くなってる魔法がもう一つあったのだ。
今はそれを集中的に高める修行をしている。
4に対するプランも着々と進行中だ。
確かに父が宮廷一の発言力を持つと言われてるのは本当だ。
ローズ伯は新興貴族と古参貴族のバランスを取り、どちらかに利益が傾かないようにする天秤の真ん中。
記憶が戻る前の私なら気にせず王子側に付いてたかもしれないが、これで家族に迷惑をかける芽は減らせたと思う。
ゲームでは勘当としかなかったけどこれで家が取り潰しとかは困る。
私は追放される準備してるからいいけどさ?
元々伯爵令嬢の私はシンデレラになれないし。
この国では一部を除き死刑はあまり推奨されていません。