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ユリウスの憂い(ツッコみ)

思い付き短編。憂いと書いてツッコみと読みます(笑)。


俺の名はユリウスと言う。

ミドルネームはあった気がするが忘れた。

家名はない。


因みに脇腹だが結構良い血筋の生まれで幼い頃から騎士を目指し教師に付いて鍛錬を行なっていた。

父が母に飽いて援助を打ち切るまでは、だが。

それ以降家は荒れ、母は身体も心も壊しやがて亡くなった。

騎士の修行は勿論続ける事は出来ず、それでも中途までとはいえ身に付けた事は無駄にならなかった。

フリーの用心棒で生計を立て、町の荒くれとも上手く付き合い。

時には飲み屋で派手に喧嘩もして、そういった日々の暮らしに満足していた。

見た目もそれなりに良かったから女にも不自由はしなかったし実戦で鍛えた腕はどんどん上がっていったし見た目が荒くれじゃないからちょっと身なりのいい客からの依頼も入って来るようになった、そんな頃。


ひと仕事の後一杯やってた飲み屋で声をかけられた。

「お前がユリウスか?」

一応町に合わせて誂えてはいるがどう見ても身分の高い貴族にしかみえない男に声をかけられた。

「……そう言うお前は?」

「レオンだ。丁寧な言葉遣いを御所望なら合わせるが?ユリウス卿」

男はくすくす笑いながら道化のようにお辞儀をする。

完璧に遊ばれている。

「…ーてめぇ。喧嘩売ってんのか?」

「いいや。決闘の申し込みだ」

「は?」

決闘、という物騒な言葉に周囲も二人に瞠目する。

「とはいえ、こんな場所で剣を振り回すのはよろしくない。ひとつ、腕相撲で勝負といかないか?」

それは厳密には決闘とは言えないが、


面白い。


男は身長こそ自分より高いが身体の線自体は細い。外套に隠されて見えないが腕も細いに違いない。鍛えてないわけではなさそうだがーー。

「いいぜ。んで?勝ったらアンタは俺に何をくれるんだ?」

「君の言い値を支払おう。だがもしー…私が勝ったら、無条件で私の依頼を受けてもらう。勿論報酬は支払う」

「……随分気前のいい話だな」

「そちらこそ、随分自信があるようだな?」

レオンと名乗る男は不適に笑い、外套を脱ぎ腕を捲った。やはり想像通り鍛えてはいるが細かった。

度胸は申し分ないし腕もあるのだろうが育ちの良い匂いがぷんぷんする。実戦経験は数段自分の方が豊富だ。

これに負けるわけがない。

そう踏んだユリウスは腕を組み ーー


ーーー結果、惨敗した。


「ちっくしょう!てめぇなんでそんな細っこい癖に怪力なんだよっ?!」

「……まだ言ってるのか」

三日後、町を共に歩きながら愚痴るユリウスにレオンは呆れながらため息をつく。

負けた際の依頼は自分の護衛を兼ねて町を案内しろ、だった。

「はっ…?それだけ?」

ユリウスは素っ頓狂な声をあげた。

「ああ。勿論俺も都度リクエストは出すが基本はお前のお勧めで頼む」

ーーこいつ、間諜かなんかか?

間諜(スパイ)ではないから安心していい。国の許可は得ている」

表情を読まれた、らしい。

纏う雰囲気といいこいつ、ただモンじゃない。

そう思いはしたが約束は約束である。

ユリウスは言われた通り町の明るい場所も仄暗い場所も言われるまま余さず見せてまわったが一日では周りきらずそれがもう三日目。

「まだ見足りないのかよ?あんた何が目的なんだ?」

「余さず、と言ったろう。そもそもこの契約に期限はきってない」

涼しい顔のレオンにユリウスは舌打ちした。

失敗した。

抜け目ない奴だとは思ったがまさかここまでとは……!

「てーか、アンタに護衛なんか必要ないだろ?ここ三日間ずっと誰かしらお付きがいるじゃん」

事実、この男にはそれとわからないくらい離れた場所から常に何人かが見守るように付いてまわっていた。

つまり、それなりに重要人物だということだ。

この余裕すぎる態度に水を差したくて言ったのに

「……気付いてたか」

何故か嬉しそうにされた。

なんだ、こいつ……

「彼等の事は気にしなくていい。名目上連れて歩かなければならないだけだ。余程の事がない限り私達の邪魔はしないよう頼んである」

「あっそ……」




その後、なんやかや付き合いが続いて下町の喧嘩にも一緒に加わったりしてどっかいいとこのボンボンらしいのに型にハマらず豪胆で腕もあって、、要するに俺はこいつが気に入ってたわけなんだが。

身分ある奴だとは思ったがこんな外国をフラフラしてるんだから俺と同じ脇腹なのかもしれない とか勝手に似た境遇に当て嵌めていたのだが。


全然違った。


奴は正統な王子しかも唯一正妃の子だった。


そんなんアリか。


実はレジュールの王子だと聞かされ、更には「婚約者の護衛騎士になってくれないか」と来たもんだ。

そんなやんごとないお姫様の護衛俺じゃなくてもいいだろ?

「いや、今までの付き合いで大分お前の資質は見極めたつもりだ」

見極められてたのかよ、俺。

「お前にとっても悪い話じゃないぞ?お前が望むならこの国の籍を抜いてレジュールに正式な騎士として迎え入れる。身元保証人には私がなる」

「!」

そこまで調べたのか。

「お前にとってもその家名は煩わしいものなんじゃないのか?」

お見通しかよ…


俺の父も元を辿れば王族だった。

王位には程遠いが公爵として女を取っ替え引っ替えが許される程度には金も権力もあり、脇腹の子供など何人いるかわからない。だが血筋は確かであり、国が荒れれば父かその係累の一人を擁立しようという奴が出てきてもおかしくはなく、だから母の死を機に家名は捨てた。

いや、捨てたつもりでもこの国にいる以上は巻き込まれてもおかしくはなくさらには国外に出るには自分の存在など忘れきってるその父の許可が必要だった。


それをこいつは解決してみせると言った。


有言は即日実行された。

あの女を孕ますしか脳のない男に「二度と俺の事は口にしません関わりません、したら極刑を受け入れます」という旨の誓約書にサインさせたのだ。


俺はこいつに忠誠を誓った。




こいつがこんなにも大事にしている婚約者というのはどんな女性なのだろう?

実際のとこ、興味深々だったのだが…あれ?と最初は実際のとこ思った。



最初は学園の友人と週末町に出ていた彼女を遠くからストーカー…、いや 見守るレオンに同行し姿を拝む事になったのだが驚いた。


伯爵令嬢で従兄妹にもあたるという婚約者は予想していたのとは違い、まだあどけなさの残る小柄な少女だったからだ。このレオンが夢中になるのならさぞかし出るとこ出っ張った色気溢れかえる美女だろうと思っていたのだが……



ーー聞けば、レオンより5才年下で、まだ14なのだと言う。いや、小柄な割には出るとこ出てるし腰も細いし女性らしい体型ではあるがこの長身のレオンと比べると…何というか?


……まじか……


お前、まさかロリコンじゃないよな?


だが、そんなオレの予想は当のセイラ嬢の行動に悉く見事にひっくり返される事になる。



兄王子(ロッドハルト)に拐われたセイラ様を助けに行った時もそうだ。直前までお側にいながら護りきれずむざむざロッド殿下に渡してしまった自分を兄のリュート殿もセイラ様も責めなかった。

むしろ、ユリウスの立ち位置を曖昧なままにしていたのが不味かったのだと冷静に指摘された。



ーー普通は、こんな場合まず部下の不始末に怒ったり責任を押し付けるのが王侯貴族なんだと思っていたがーー

この兄妹は、まず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


なるほど学園で ひいては国内でも中立派の急先鋒といわれるだけあるのだ、この方々は。

特権階級の頂点(てっぺん)にいるクセに、尊敬するしか出来やしねぇ。




そんなセイラ様とレオン王子は無事に結婚され、今は新婚真っ只中、、の筈なのだが。

セイラ妃殿下は結婚式とそれに伴う披露式典諸々をすませたあと学内の寮に戻ってしまい、この城(新居)にはいない。

なので、

「ユリウス!魔法学園に行くぞ!」

「今日は週末じゃありませんよ?」

「王太子妃としての公務発生だ!問題ない!」

「怒られますよ?」

こんなやり取りはしょっちゅうである。


学園に着くなり穏やかな昼下がりに友人と語らうセイラ妃殿下を抱き上げ

「王太子妃の急務発生だ!城に戻るぞセイラ!」

と友人と共にいたセイラ様を強引に連れ出す事数回。

流石に今回は

「レオン様?こういう事はおやめ下さいと前回約束致しましたわよね?」

セイラ様の声が低い。

「今回は本当に急務なんだ、問題ない」

「大有りです。私の学園生活には干渉しないと結婚前に約束しましたわよね?」

「…それはしたが、何事にも例外は、」

「し・ま・し・た・わ・よ・ね?」

有無をいわさないセイラ様の迫力に、

「ーー大人しく城に戻らないとここでキスするがいいか?」

レオンが作戦を変更した。

「なっ…!馬鹿なこと言わないで下さい!いつもレオン様が派手に乗りこんで来るから目立ってしょうがないんですよ?!」

いや、セイラ様は単体でも目立つと思う。

本人が気がついていないだけで。

初めてお会いした時よりずっと美しくなられた。



そんな風に感慨に耽っていると


「ユリウス、同乗なさい。貴方は私の護衛でしょう?」

レオン様に拉致られ…、いや抱き抱えられて馬車に乗り込む際セイラ様が言い放った言葉に俺もレオン様も一瞬固まる。

いや、この夫婦の乗る馬車に同乗する気概は自分にはな…、と思ったところに

「言う通りにしたのですから城に戻る間も戻ってからもキスしないで下さいませね?私からもしませんから」

「せ、セイラ…」

そんな、と悲壮な顔になるレオンだが セイラ妃殿下はツン、とそっぽを向いて取り合わない。


ーーだから言ったのに。


セイラ妃殿下に学園生活の邪魔はするなと

再三言われているのにしょっちゅう派手に登場しては学園を騒がせ(尤も学園の生徒には一種のイベントと化しているのか黄色い歓声が飛んでいるのだがそれがセイラ妃殿下的には公開処刑らしい)なんやかや理由をつけて強引に城に連れ戻そうとするのでキス禁止宣言されたばかりか遂には

「次の週末は実家に帰ります」と言われレオンが石になった。

「久しぶりに兄と語らう事にしますわ」

つまり、リュート隊長の鉄拳制裁確定か。いまにも砂になって土に還りそうだが自業自得だ。


全く、外交ではあれだけ辣腕を振るうのにセイラ様に対してだけポンコツになる。


まあ、これが奴の人間らしいところでもあるのだがーー…


ーーー心配はしていない。この二人が夫婦でいる限り、この国は安泰だ。



ここまでお付き合い下さりありがとうございますm(__)m。ユリウスsideも候補にはあったんですが当時は形にならず、今回書いてみました。

完結イラストでセイラが着用してるのは当時の魔法学園の制服、左のシルエットのコが着用してるのが〝isのずっと先のお話〟時代の制服です。

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