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レオンside 3

 彼女のデビューには元々メルクのドレスを贈るつもりだった。早くから作らせていたので余裕をもって届けられる筈 だったのだがー…出来上がってきたドレスをひと目見た途端「ダメだ」と直しを命じた。強権発動にも程があるのはわかっていたがこれはダメだ。

 胸が開きすぎだ。

 エスコートするのが自分ならば構わないがーーセイラは胸が育っている割に小柄だ。学園の女生徒の中でも低い部類に入るだろうーーどの相手からでも胸元が覗き放題(学園の公式行事でそんな真似は普通やらないだろうが)ではないか。生徒の半分は男だ。そんな場であの胸の開き具合は絶対に許容出来ない。

 レオンは頑として譲らなかった。



 一度直させた為ギリギリなってしまい、ー…メッセージは送ったが不安にさせてしまったろう、後で謝らなければ。


 そんな事をつらつら考え、国王夫妻の名代として訪れた久しぶりの母校の祝祭。





 夜会でのセイラは誰より美しかった。会場の光に反射する煌らきらしい黒髪に用意した髪飾りは良く合っていたしやはり裾捌きが完璧な為あのドレスを完璧に着こなしていた。ーーああ このまま城に連れ帰りたい。



 なんて見惚れていたらラルのアホがセイラに対して盛大にやらかした。

 ーーバカめ。お前の頭でセイラに敵うわけがないのに。

 ラインハルトとその一味の下らぬ見せ物を一蹴する姿さえ美しくて見惚れていたら出遅れた。

 ーしまった、と思ったが

 自分が兵に指示を出すよりセイラの方が早かった。


 ーー扇術も、上達したな…母上もお祖母様も何もかや理由をつけてセイラを城に呼びつけては仕込んでいたからな。

 最早免許皆伝だろう。


 夜会の後、再び城を訪れた彼女は

 〝ー殿下の事が好きです。殿下の瞳に映るのが私だけだったらいいのにってずっと思ってました〟…


 ……そこから先は良く思い出せないが要するに俺の好みはもっと色っぽい大人の女性で自分はそこに当てはまらないから無理だと思ってたと。


 ーーそんなワケあるかっっ!

 と思ったがこれは俺にも責がある。初めて逢った時の彼女は10才で、当時15才で女性に興味深々だった俺は寄って来る女と適当に遊んでいたし、どうやら俺は彼女に惹かれてるらしいと気付きつつも身体の昂りが抑えられない事もあってしばらくは爛れた生活をしていた。

 が、母上達が俺の様子に気付き、セイラとの婚約話が出た時にリュートに言われたのだ。

「お前のような堕落した下半身の奴に妹をくれてやる気はない」ーー妹を妻にと望むならまず身辺を綺麗にしろ。

 妹が心身共にお前を受け入れる様になるまで絶対に手を出すな。

 年頃になってもセイラ本人がお前との婚約を拒否したら潔く諦めろ、それが出来ないなら今すぐ諦めろ。

 うちは別に王家との縁談など望んでないし、セイラを政略結婚の駒にするつもりも更々ない。ー 妹には普通に幸せになって欲しいからと。


 そんな経緯もあって、漸くもらった彼女からの答え。

 脳内が一気に沸騰するかと思った。


 あのまま押し倒さなかった自分を褒めて欲しい。



 ーーその夜、部屋に戻って一旦はへたり込んだものの騒動の疲れも手伝ってぐっすり眠り込んだセイラは、レオンが年頃の青年らしく悶々としたまま結局まともに眠れなかった事を知らない。


 まあ、知らない方が幸せとも言える。


 ーーだが、そんな想いが叶った翌朝、黒太子とセイラを見合わせる、などとふざけたことを国王(タヌキ親父)が言い出した。


 王太后(おばあさま)が病に臥せり、母が不在、かつローズ伯まで不在というタイミングに敢えてセイラを狙った黒太子。セイラの機転ですぐに夜会を抜け出してはきたがそこへ俺が独占欲丸出しで迫ってしまった為怒らせて、…しまいには泣かれてしまった。

 芯の強いセイラは滅多に泣かない。

 それが、あんな風に泣くところなんて見た事がなく、柄にもなく狼狽えた。慌てて謝ったが許しては貰えなかった。


 翌朝、朝摘みの薔薇を部屋に届けさせたがセイラの反応は

「薔薇はここからも見えるし香ってくるのだからわざわざ切って部屋に持ち込まなくてもいいのに、と思うのは私がおかしいのかしらね?」

 という言葉だったとメイドに伝え聞き頭を抱えた。

 セイラが機嫌を損ねた時に必要なものは


 紅茶、ドレス、薔薇の花


 という三原則は変わっていない筈だ。

 なのに、紅茶も飲みたがらないという。

 ドレスも地味な部屋着が良いと言い、夜会服など当分見たくない。新しい物も要らない。

「ひたすら白湯を飲んで何事か考えては溜め息をついておられます」

 それらが全く効果がないーー俺は途方にくれた。


 それを知ったリュートにも、ぶん殴られ、怒鳴られた。


 それでも、


 ーー帰したくない。わかっている。これは自分の我儘で許されない事だと。リュートに言われた言葉が頭をよぎる。

「じゃあ訊くがお前14、5才の時真剣に誰かと結婚しようなんて考えてたか?言われたらどうしてた?お前は自分の都合で(セイラ)にそれを押し付けてるってわかってるか?」

 返す言葉がない。

 確かにあの頃はふらふらと自分の生き方さえ定まらず、婚約者候補とのお茶会や王子の義務に嫌気がさして、適当に寄ってくる相手と適当に遊んでー…改めて思い出しても最悪だ。





 ーーそれもこれも狸親父のアホウドリっぷりのせいだーー とにかく奴を絞めあげなければ。そう思った所にドラゴンが襲来し、俺はまたも致命傷を負い、セイラに助けられた。


 そうして、それ以上魔力を使うな、手を出すなと言ったら

「だったら私の目の前でこんな怪我をしないで下さいませ!約束したでしょう?!殿下の傷は私が1番に治すと!」と胸倉を掴んで説教された。

 彼女は約束を忘れてはいなかった。

 ー不甲斐ない俺に泣きながら怒っていても、彼女は約束を忘れてはいなかった。ーーその事が、泣きたいぐらい嬉しかった。


 その後も順風満帆とは行かず、様々な邪魔が入った。

 中でも兄にセイラが拉致され奪われかけた時には本気で泣きそうになった。

 格子の向こうで、セイラが泣いているのに、助けを求めているのに。

  手が届かない。


 セイラが眠っている間に奪った事を仄めかすロッドにセイラも俺も呆然とし、セイラの頰に涙が伝う。


 やめろ、彼女に触れるな。


 傷つけるな。


 そんな風に泣かせる奴に、彼女に触れる資格はないーー!


 彼女は強い。強いけれど弱い。こんな風に汚されたら、俺や周りがどんなにセイラのせいではないから気にするな と言っても、きっときかない。俺の手も、他の誰かの手も取らなくなる。だからーー!!


 そう叫びだしそうな時、リュートが間に合ってくれて、セイラは無事俺の胸に飛び込んで来てくれた。


 兄があそこまで本気でセイラに惚れてたとは気付かなかった。リュートの言う通りだ。俺たち兄弟はセイラを傷つけてばかりだ。

 だが、反省するより先にドラゴンの群れの襲来、黒太子の悪辣な企みーーに、俺たちより先にセイラがキレた。


 キレたセイラは文字通り無敵だった。ドラゴンの群れの襲来という未曾有の危機をあっという間に収束させ、黒幕を跪かせた。自分に出来たのは後方支援だけ。それすら、セイラの魔力で出来たドラゴンに助けられながら、だ。


 情けなかったが、魔力を使い果たして倒れる時、また自分の胸に飛び込んで来てくれるならーーまだ自分の元に帰って来てくれるなら。そう思って、聖竜の(かいな)に抱かれて飛んでいく彼女を見送った。




 ーーそうして、戻ってきた王宮で、あの場で。

 彼女は言ってくれた。

 俺が好きだからやったのだと。俺が好きで、俺がこの国の王子だから、自分にとっては危険なーー聖竜の祝福を見せつけて、思い知らせて、敵を跪かせる。そこまでして、この国を、自分を2度も隣国に売り飛ばそうとした国王(タヌキじじい)の治めるこの国を、守ってくれたのだー…国王にはもちろん(祖母も母も義父上も総がかりで)罰をくれてやったが。


 そうして迎えた結婚式には、聖竜が祝福に現れた。セイラは普通に喜んでいたが俺は顔を引攣らせずにいられなかった。

 ー彼女はあの聖竜の背に乗ってどこへでも行ける。

 ーー本当に逃げたい と彼女が願ったなら、誰にも止める術はない 。

 そう、思い知らされた。


 更に ドラゴンフラワーのシャワー、城中の薔薇の狂い咲きという奇跡。


 加えて城での披露宴にはナディル公国ー…例の"花嫁攫い"にあった国だーーは、当時王国であったがこの一件以来王家を廃し公国と改める事で各国の王族との関わりを断ち、半ば周辺諸国の国交断絶状態となっていたー…必要最低限の取引以外は。もちろん、他国の王族の結婚式になぞ1度も出席した事はない。

 それが、公主夫妻と義理の息子(となる筈だった彼は後に養子に入っている)が3人揃ってとはー…ナディル公主は俺とセイラの前に来ると「ーこの度はご結婚おめでとうございます。…娘も、喜んでおりましょう」セイラがちら、と私の方を見上げる。俺を差し置いて返答するわけにいかないからだろう。

「ありがとうございます、ナディル公。長旅でお疲れでしょう。部屋を用意させております故奥方様ご子息共々、寛がれながらお過ごし下さい」

「…我らのような小国に斯様な心遣い痛み入る。ーー妃殿下」

 公主がその場に騎士の礼を取る。

「っ?!ナディル公っ…」

 セイラは慌てて止めに入るが公が跪くのをやめる事はなかった。

「此度の妃殿下の心遣いと我が娘を取り戻して下さった事、誠に感謝しております。この先、我が国はこの国に忠誠を誓います。陛下におかれては〝属国は否〟と仰せられたがー…幸い同盟には入れていただく事が出来た。この先、何があろうとも我が国はこの国に真っ先に駆け付け助けとなる事、ここに宣言させていただく」

 これに列席していた各国のトップ達は驚愕しまた 改めてこの国の王太子妃を敵に回してはならない、と心に刻んだ事だろう。


 そんな彼女が本当に聖竜に祝福されているのをまざまざと目にし、1番近くで見守ってきたが自分に彼女の守護者()が務まるのかと不安になったりもした。


 だが、それを抜きにすればセイラはまだ15になったばかりの幼さを残す少女だった。

 子供の頃から妙に冷静で、大人でも迷うような場面での判断力と行動力を存分にみせつけ自分を虜にして離さなかった小さな少女。

 自分は5才上の俺には相応しくないから と蕾のまま身を引こうとし、悪辣な方法で自分を狙った大国をとんでもないやり方で跪かせた聖竜の守護を持つ少女は昨夜の初夜では痛々しくなるくらい脅えて震えていた。それでもレオンの想いに、慣れない愛撫に必死で応え泣きながらも自分を拒否する事なく受け入れてくれた彼女はやはりレオンにとってはただただ愛しい少女でしかなく。

 慣れない行為で疲れたのだろう、瞳にうっすらと昨夜の泪を残しながらも腕の中で安らかに息を吐く妻を愛おしげに見つめ髪にキスを落とす。

「…愛しているよ、セイラ」


 もう、絶対に離さない。




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