HAPPY WADDING 後篇
前篇が12時間前にUPされています、いつも夜にチェックして下さってる方はご注意を!
ーーー今、なんて?
と
固まる私に構わず2人ーいや、夫人も入れたら3人か。
のチェシャ猫みたいな笑いと会話は続く。
「良い名だな」
「こちらに来て妃殿下にお会いするまでは決めかねていたのですが」
「妃殿下の御名をいただけば怖いものなしですものねぇ」
…………
いや、嫌ですが。
いくらなんでもやりすぎじゃなかろうか。そう思ってレオン様を見れば
「気にいらないのか?なら、セイラローズにするか?」
もっと嫌です、レオン様。
「あの…普通、作りあげた方の名前を入れるべきなのでは?」
「もちろん。製作者には好きな名前を付ける権利がある」
「………」
なら、普通愛する妻の名前とか付けるもんなんじゃなかろうか??
夫人の方をみやれば
「私のことはお気になさらず。開発した名誉とそれによる権利金だけでお釣りが来ます」
まるきりそちらの方が大事、という調子で言われれば返す言葉もない。
「直ぐにまずは宮の周り、次に城じゅう、数年後には国中を。レイディローズでいっぱいにしてやる」
「!」
私の為の、薔薇。
手の中の花を見つめ、レオン様を見つめる。それを受けたレオン様が私に手を差し伸べる。
本当に。
この人は、どこまで私を幸せにしてくれるのだろう。
私はレオン様のそれに手を重ねた。
それを見届けてマイヤー夫妻が静かに場を退いた。
場は、レオン様が十二分に整えてくれた。あと、必要なのは私の覚悟だけだ。このブーケを持って、レオン様の手を取って踏み出す覚悟。
私達は扉の外、大勢の人々が待つ場へと歩を進めた。
城から国で1番大きな教会まで馬車(もちろん見世物仕様の。沿道は警備されてるものの民衆でいっぱいだ)で行き、これまた教会の中は正式な招待客しか入れないので教会の周りに学園の皆や入りきらない人々、さらに警備兵を挟んで民衆に囲まれた教会に入り、祭壇まで進み国教司祭のもとで誓いを済ませ教会の外に再び出ると、そこには入る前よりさらに凄い数の民衆が集まり歓声をあげていた。
それだけでも驚いたがー…民衆の歓声にレオン様と並んで手を振って応えているとひら、と何かが空から舞ってくるのに気が付く。
不思議に思って空を見上げるとそこにはーー
「ドラゴンだ!」
「白いドラゴンが上空を飛び回ってるぞ!」
聖竜が空を舞っていた。
しかも舞うだけでなく花を撒いている。ドラゴンの巣の周りにしか生息せず、七色に咲く花として楽しんだあとは根まで稀少な薬剤の材料になる幻の花である。
それを、真っ白なドラゴンが華麗に空を舞いながら撒き散らしている。
「なっ…?!」レオン様が固まるが私は
「ー来て くれたんですね。嬉しい…」と微笑んだ。隣にいるレオン様が僅かに頰を引きつらせたのには気付かずに。
そんな王太子夫妻の様子を目の当たりにして民は気付く。
ーーあぁ、やはりそうなのだ。
あの恐ろしい災厄の時、真っ白な竜の背に乗っていた人物はーーー
間近でその姿を目の当たりにした者も、
遠くから信じられない思いで目に止めた者も、
噂だけでしか知らず首を傾げていた者も。
今祝われている彼の女だということを。
そのドラゴンは青い空にその姿を見せつけるように華麗に飛び回り、やがて遥か高い場所ではあったがーー王太子夫妻の真上で一瞬停止したーーように見えた 瞬間光を放って消え、変わりに巨大な花が出現したかと思うと、盛大に弾け 飛び散った。
そのさまはまるで王太子夫妻の頭上に花びらの竜巻が出現したかのようだったが、下にいくに従って勢いを失くし、結果2人の頭上に姿を覆い尽くすかのような七色の花吹雪が暫く降り注いだ。
その派手すぎる演出(?)に見ていた人々は興奮して叫んだり 感極まって涙したり 何やら唱えながら拝んだり(?)と様々な反応を示したあと、一斉に
「聖なる祝福を受けし王太子ご夫妻、万歳!!」
「レオンハルト殿下、万歳!!」
「セイラ妃殿下、万歳!!」
と歓喜に満ちた祝福の叫びに変わった。
ーこの歴史上類を見ない"聖竜が祝福に訪れた結婚式"は後々の語り草となる。
「ーー聖竜の祝福には、こんなおまけまで付いて来るのか?」
「いいえ?あれはたぶんー…」
夫のレオンにも言ってないことがある。あの幼い日、私が出逢ったのは親子連れの白いドラゴンだったのだ。
私はその小さな子供のドラゴンが可愛くて大はしゃぎで一緒に遊んだ。
それを見ていた親ドラゴンが「この子はそなたが気にいったようだー確かに面白い魂をしているー力をあげよう」と言ったのだ。
ならば と私が「だいじなひとをまもれる力」と答えた時、「それが誰かを傷付ける力であっても?」と大きなドラゴンは問い返してきた。
私は少し考えて「まもる事がきずつけることになるかはわからない、けどー…だいじなひと や好きなひと には笑っていてほしいから、うん、いい。そのために、きず つけたひとに恨まれても憎まれても、しかたない」「…そうか」そう満足げに頷いたドラゴンは「ではもう一つ。この子に名前を付けてやってくれないか?」
「なまえ?」
「そうだ。お前が付け、お前だけが呼べる名だ」
「わたしだけ…?」
「そうだ。心配いらぬ。例えお前がこの子を呼ぶのを誰かが聞いていたとしてもその者にはききとる事が出来ない。ただの擬音ーー音 だけと言う事だよーーにしか聞こえぬ。だからこそ、誰にも教えてはいけないよ」
「ほかのひとは よんじゃダメなの…?さびしく ないの…?」
「…昔は、呼ぶ人も多かったがの。今は、認めた人間にしか呼ばせぬ。そういうものなのだ」
「ふぅん…そっか…じゃあー…」
名前を付けた時、あのドラゴンはまだ小さかった。たぶん、成人男性くらいだろうか?
「今はまだ小さいがの。すぐにわたしのように大きくなる。今お前に祝福するのはわたしだがー…その"祝福"はいずれこの子が引き継ぐ」
あの時は、意味がよくわからなかった。まあ、5才児だったし無理もない。
多分ーー人よりずっと長命なドラゴンにも寿命はあって、役割もおそらくそれぞれにあってー…あの親ドラゴンはじきに自分の役目は終わる、と言っていたのだ。あの火竜(多分火竜の長的存在の)に襲われた時来てくれたのは親のほう だったがー…今、空の上にいるのはあの時子供だったドラゴンの方だ。あの時"彼"はどうしているか きいたら「まだ修行中だ。体ばかり大きくなっても中身が幼くていかん」と言っていたのだがー…
実際今の彼は親ドラゴンの大きさと対して変わらない。レオンはじめ他の人間には区別がつかないだろう、遠目にはそっくりだ。だが、あの時名前を付けた自分にはわかる。
見せに、来てくれたのだ。己が成長した姿を。
ーーもし、其方の心が変わらず成長したならばまた会おう。
そう言って別れた白竜の親子に、また会えた。
嬉しくて、涙が溢れる。
ー私は、祝福に相応しく成長できた?
その想いが届いたとも思えないが、過剰とも言える奇跡はまだ続いた。
2人が町の祝福に応えながら城に戻り、セイラが馬車を降りた途端、1番近くにあった薔薇の茂みがぱっと花でいっぱいになった。
皆が茂みに注目していたわけではないから、たまたま目にした者は目の錯覚だと思った。だが、セイラが一歩歩き出すとまた両側の茂みが薔薇の花でいっぱいになった。
え?
とセイラが不思議そうな声を放つと、まるでそれが合図だっかのように城中の薔薇が一斉に咲き誇った。
ーそれはレオンが式の間に早速宮の庭園に植えさせたレイディローズも例外ではなく。
まだほんの小さな苗木だったにもかかわらず周りの茂みの薔薇と同じ大きさに成長し、見事な空色を見せつけるように咲き誇った。
城の薔薇は季節によって楽しめる様さまざまな種類の薔薇が植えられている。が、そんな規則性をまる無視して三日三晩の宴が続く間、城中の薔薇という薔薇が狂ったように咲き続け、3日目の夜会の終わりと共にはらはらと散りはじめ、やがて元に戻った。
レイディローズの薔薇も同じように散ったが、成長した木はそのままだった。
結婚式に聖竜が頭上から伝説の花を振りまき、季節はずれの薔薇を三日三晩咲き誇らせた。
それは人びとに伝わり、この国の王家は聖竜の祝福を受けているーーとまことしやかに伝わり(実際事実なのだが)また狙われるのを危惧した国王が「次期国王夫妻への聖なる祝福は、国民の沈黙により受ける事が出来るものである。また、未来永劫与えられるものでもない。我々が奢りを持った途端失われるものであること、ゆめゆめ忘れる事の無いよう、切に願う。次期国王夫妻とその民たる者達に祝福を!」と演説をぶちかましてちょびっとだけ威厳を回復したのは蛇足である。
ーやがて聖なる竜の加護を受けた王妃とその夫である国王が国を絶頂の繁栄に導き、長きに渡って魔法大国として名を馳せるのは、もう少し先のお話。
ーーそんな魔法大国レジェールがいつしかレジェンディアと呼ばれるようになり伝説となるのは、まだずっと先のお話。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
あれ これで終わりじゃないの?て思われるかもしれませんが(^^;;
はい、主人公目線ではこれにて完結となります。が、当然回収出来てない部分が残っています。この後別キャラ視点でのストーリーを追加予定です。本編に普通に混ぜたら良かったかもしれませんが元々このつもりで書き始めたものなので…よろしければもう少しお付き合いお願い致します!最初はもちろんあの方からです(笑)。
嘲笑う聖女〜も季節を進めないとハロウィンが来てしまう…忘れてるわけではないんです!あちらも書きかけが散らかって…(^^;;




