イベントの終焉は夏休みの終わりとともに
私は漸く帰路ー…というかレオン様の宮に戻った。
本当なら実家に戻るつもりだったのだがー…雰囲気的にそうせざるを得なかったのだ、何だか。
ので、
ーー結局私が実家に帰れたのは夏休み終わりの1日だけだった。
宮に戻ると、
「少しでいい、話がしたい。着替えたら君の部屋に行っても良いか?」
と訊かれた。こんな深夜に非常識すぎる話ではあるがなんかもう今更だ。はい、と私は短く答えた。
レオン様はリリベルがお茶の支度を整えるのと同時にやってきた。
そして、リリベルが退がるのと同時に抱き締められた。
「?!」
ー話って言いましたよね!?
慌てて振り解こうにも振りほどけない。
ーー私はいくら魔力が強くても腕力が人より強いわけではない。
幸い(?)背後から手をまわされてる形なので唇は塞がれていない。
「っレオンー…!」様を付けそうになって慌ててのみこむ。"2人きりの時は呼び捨てで呼べ"ーー今下手うったらまずい。「消毒だ」
話が違うと責め立てようとした私に被せるように言うレオン様は手を緩める事はせず
「ロッドに触れられていたろう?ここも、ここもー…」言いながら髪や首すじにキスを落としていく。
いや、確かにそうですけどっ!あの後湯で流してますしっ!わかっててやってますよねレオン様?!
「一度流したくらいではダメだ。他の男に触れられた感触など、覚えてる事は許さん」
「お、覚えてなんかいません!」
どこの百戦錬磨のレディの話ですかそれっ!?
「ー本当か?」
耳元で囁かれかっと頰が熱くなる。
「本当です!だからもうー…」「嫌だ。止めない」
ーーは?
言葉の通りやめるどころか、あちこちに繰り返し落とされるキスはどんどん深くー…て、また吸われてる?!
「だ、ダメです!」
キスマークはーーー!!
「何故だ?」
「跡が付くからです」
「付けてるんだ」
「消毒はもう済みましたよね?」
「あんなものを見せられてこれくらいで済むと思うか?」
思わない。
けどそれ、私のせいじゃない。むぅと頰を膨らませる私に気付いたのか
「君のせいじゃない事はわかってる。ーーけど、これは俺の心の問題だ。考えてもみてくれ」
そりゃそうですがー…
「ただでさえお預けくって苦しいところにあんな風にロッドに先を越されたんだぞ?」
ーーはい?
「おまけにロッドの他に複数の男共に乱暴されそうになっていただと?」
「っそれはー…」
どうせあの男達を調べればわかる事だし、
「ロッド殿下が止めてくれましたし…」「それが気にいらない」
ーーは?
「ロッドだってとどのつまりは自分以外の奴を君に触れさせたくなかっただけだー…そもそもその原因だってあいつが君を拐ったからだーなのにお前は感謝している。それが腹だたしい」
当然だろう?という風にそんな事言われても…
二の句が告げない。
傷ついた、とかじゃなくお預けだとか面白くないとかー…いや、わからなくはないですよ?
だが、同じ真似してどうする。
私は無言でレオン様の腕を振り払う。
「セイラ?」
「消毒はもう結構です!レオン様がそんな風に駄々をこねてこんな真似をなさるならこの話はここまでです!私は伯爵家に帰らせていただきます!」
「っ!セイラ!」
「そもそもそれは心の問題とは言いません」
ーー対峙して腕を組む私にレオン様は速攻で折れた。
「ーー悪かった。調子に乗った。ーーお前が、あんな事言うからー…」
「?」
どれ?
「言ってくれたろう?俺がいなければ、この国などさっさと見捨てて逃げたかもしれないと」
ーー言いましたが?ほんとの事だし。
「ーーやれやれ」
気が削がれた、という風にレオン様がきちんとソファに座りなおす。
なんだったんだ今のは。
「君から見て、ロッドは敵ではないんだな?」
「ーーはい。ロッド殿下の纏う光は、レオン様ほど強くはありませんが濁ってはいないのですーー初めて逢った時から変わっていません」
「そうかーーまあ、いい。見せつけてやるとしよう」
ー素直じゃないですね、まあ、いいですけど。
レオン様は敵認定したらとことん容赦ない方ではあるが(人の事言えないが)決して兄弟に対して冷淡な人と言う訳ではない。ロッド殿下の事だって複雑ではあるが憎んではいない筈だ。
「レオン…いえ、レオン様」
「なんだ?」わざわざ言い直した事を不審に感じたらしく眉をひそめて返される。
「レオン様が私を正式に迎える為の準備をずっとしてきて下さったと知った時ー…応えないのも 逃げるのもなしだと思いました」
「…それで?」
「それでも、正直、最初は良くわかりませんでした。幼い頃の憧れの"好き"と結婚したいほどの"好き"の違いが」
「………」
「拐われた時に気付いたんですーーどうやら私はレオン様と同じ距離で、レオン様以外に近づいたり触れられたりするのは嫌 みたいです」
「…お前、また無自覚でそういう事をー…っ」
赤面したレオン様がまた襲いかかってキスの雨を降らせる。
「レオン様っ!これ以上はダメです!」
「別にいいだろうキスマークくらい俺以外みないんだから」
「さ、採寸される時にみられますっ!王妃様や王太后様が御一緒かもしれないんですよっ?!」
私の叫びにレオン様の暴走がぴたっと止まる。
「ーそれはマズイな。怒られる」
止める理由それですか…
まあ、止まったならいいですが。
先が思いやられる。
ーー休んだ気が全くしない夏休みが、終わろうとしていた。
次話が多分長くなる、と思うのですが(未定というより未知の領域…)…m(__)m




