第1王子とその母后
悪役令嬢無双、続行中。
それを見送り、私は溜息をついた。
わかっている。これは強者の理屈だ。今私が聖竜の保護を受けているから言える台詞だ。
だが、だからこそできることもある。
ー目の前の出来る事をやるしかない、それは変わらない。
ーードラゴンの感情なんて 私にはわからない。会話が出来るのも聖竜だけだし、他のドラゴンーーましてや一瞬同調しただけの他のドラゴンの心なぞわかる筈もない。
私の竜眼スキルは"どのドラゴンの瞳とも同調出来る"というもの。
同時に同調する数に制限はない。初めて使った時は無数のモニターが目の前で目まぐるしく動いてるようでくらくらした。なんとか目的のドラゴンを見つけそれだけに同調を絞ると、より鮮明にそのドラゴンの視界を共有できる。その共有してるドラゴンの意識にちょこっとだが干渉も出来るーーらしい。でなきゃあんなに短時間で落としまくれなかったろうから。だが、これはレオン様はじめ誰にも言えない、言ってはいけない事だ。
祝福を授かったとき、『人間に言っても良いこと』と『言ってはいけない、知られてはいけないこと』は一緒に魂に刻まれる。
「話の途中だったけど、訊いてもいいかしら?セイラ」
「はい、王妃様」
「先程の襲撃で焼け野原になった筈の山や飛び火を受けて焼けた森が、綺麗に復活してるそうなんだけどー…」
「山や森がなくなりそこに生息する動物達が死にたえれば生態系が崩れますー…ー良い事かと」
私は済まして答えた。
そう、これが"祝福を受けた者の役目"。生態系が狂う程生き物の住処が奪われた場合速やかにその場所を復活させることーー森や山が焼ければそれだけドラゴンの巣に他のものも近寄ってきてしまうからだ。
何故聖竜本人がやらないかと言うと、「細かい作業はちと苦手での」というのと「その姿を人目に晒さないため」でもあるそうだ。
でも、これも言えない事項だ。王妃様なら今のでわかって下さったろう。
「ーそう。良い事よね。確認だけど貴女とレオンの婚約はこのまま進めて良いのよね?」
「はい」
「なら良かったわ。そうそう、言い忘れてたけどレオンには明日にも王太子として立って貰います。早急に国中に触れを出して、レオンを王太子とし、その立太子に伴うお披露目は貴方達2人の結婚式と合わせて行う事としますーー貴女には結婚と同時に王太子妃として立って貰うことになるけれど大丈夫よね?」
ーーは?
ーーオウタイシヒ?
…ーーてなんだっけ?いや、落ち着け私。
王太子ーー次に王になるひと。
王太子妃ーーは次に王になるひとの妃。
ーーて え?!
思考が停止した。
えぇと、とりあえず今言い忘れてたとか言いませんでした妃殿下?
「ーまさか、全く考えていなかったの?レオンが王太子になる可能性について」
固まってしまった私に、王妃様が面白そうに言う。
ー考えてなかったわけではない。元々レオン様は王太子の筆頭候補 という認識はしていた。だからこそお似合いの年齢の別の方と結婚するのだろうと思っていてー…でも、ラインハルトが継承権を剥奪され、ロッド殿下も今回の事で何かしら罰を受ける事にはなるだろう。だとしたら、現状王太子になるのはレオン様しかいないって事でー…あれ?
しまった。そこ失念してた。
ーー考えてなかった。
ボソッとした私の呟きに誰かが吹き出した。
王妃が溜息をついて
「ーわかっていますよ、あなたにはどうでもいいー…もとい重荷にしかならない事はね。けど、レオンは生涯あなた以外の妃を娶らないと言ってるしー…」
はい、聞いてます。再考すべきですかね?
「まあ、そういう顔もわかります。あなたに初めて会った頃のレオンはとてもみられたものではなかったしー…それでも、ローズ伯に認められる為に発起しここまでになった。ーー貴女と言う存在がいたから。感謝していますよ、王妃としても、1人の母親としても」
「王妃さまー…」
「あとは、ロッドハルトの処遇ね。貴女は極刑は必要ない と言ってたけどー…」
「はい」
「ラインハルトと同じように王位継承権は剥奪する事になるわ」
「それは容認できません」
!?
間髪入れずに発した私の言葉に場に驚愕がはしる。
ただし、王妃様本人を除いて。
「それは何故?」
「王位継承権を持つ王子がただ1人であれば真っ先に敵の標的になるからです。先程判明しましたようにこの国を狙う者は多い。そして次期王位の継承権を持つのがレオン様1人である とその国々に知られたなら、敵の狙いはレオン様に集中するでしょう」
はっ…と息を呑む音が聞こえる。
聞こえるが無視する。
「では、貴女の考えは?」
私は背後にいる方に目をやらずに問う。
「ロッド殿下、私を拉致するだけなら単独で出来たはずーわざわざキャロル嬢と組んだのは情報を得る為ーだったのではないのですか?」
「ー買い被りだよ。僕はそんなに立派な人間じゃない」
「ーーそうですか。ではそういう事にしておきましょう。ーロッドハルト殿下におかれては王位継承権はそのまま、破壊された建物や怪我人への補償などはもちろん本人の個人資産から支払わせた上で、レオン様の治世を手伝っていただきます」
「なんだと?」
目を剥いたのは国王陛下だ。
「セイラ、それは…」
父も驚いたらしい。
「軽くはありませんよ?王位継承の望みはないまま、敵国から狙われるリスクを負ったまま、王のそば近くに仕えろと言ってるのです。今回ロッド殿下がやった事は明らかなる反逆行為。それに対してはご自身がレオン様の盾となり剣となる事で償っていただきます」
「…貴女はそれでいいの?」
「もちろんロッド殿下には魔法契約に基づき私への接近禁止とほか幾つかの制約を含んだ誓約書にサインしていただきます」
「一生飼い殺し状態にするという事か?」
「いいえ?国王陛下。ロッド殿下が心から反省し国への務めを果たしもう充分 と私や皆が認めたならーーそしてその上で共に歩んで行かれる方を見つけたなら。私は契約を解き祝福致しましょう」
「ーーそう。わかったわ。この件に関しては貴女に決定権がある」
「し、しかし、王妃殿下…!」
慌てたのは当のロッド殿下だ。
「あなたは処分に対して不服を言える立場ではないはずよ、ロッド」
「…!」
「レオンも、良いわね?」
「…ええ」
「っレオン!お前までー…ーいいのか?本当に?」
「セイラがいいと言っている。それにー…確かに狙われるのが俺だけってのは割に合わない。新婚生活はちゃんと楽しみたいしな」
「………」
呆れたようなため息をついた後、ロッドはセイラへと向き直り、
「ーー聖竜の祝福を受けし未来の王妃がそう仰るなら。この身も心も次期国王の盾となって仕えましょう、レイディ・ローズ」
と臣下の礼を取った。
「なっ…!」
さすがにここまでしろ とは思っていない。
ーやめて下さい!
と叫ぶ前に私とロッド殿下の間にミリアム妃が転げるように割って入ってきた。
「?!」
「ーー息子のした事、決して許される事ではございません。それに対しての妃殿下の寛大なご処置、母として心から感謝致します。母子共々、聖竜に祝福されし未来の王妃に忠誠を誓います」
ーーへ?
聖竜からの祝福によりセイラには他にも色んな魔法が付与されてますが基本 秘密にしておくものなので明言しないものも多い&理屈より直感と本能で使ってる感じです。レオン達に貸したドラゴンも白竜と同じくセイラの魔力で出来ています。




