白い竜と悪役令嬢
無双続行中。
そんな下でのやりとりに気付いていたかどうかーーセイラは知識はあってもこの力を行使するのは初めてだ。だからひたすら手にした扇子に感動していた。
これは王妃様から婚約の祝いにと贈られた異国のオーダーメイド品だ。意匠も細工も素晴らしいがもう一つ、これには隠された機能がある。
作成の過程から丁寧に魔法が組み込まれているのだ。
「相当強い魔法機能でも耐えられるし、丈夫で軽い」うえに"魔力増幅"効果魔法が組み込まれた特製の扇子。
これをキャロルに奪われた時はさすがにちょっと焦った(尤も魔力増幅効果が高い分使い手の消耗だって激しいしキャロルに使い方がわかっていたとも思えない)が、ちゃんとロッド殿下がキャロルから取り上げて保管してくれていた。
使ってみようと思っていたわけではないがさっき咄嗟に思いついたのだーーもしかして、扇子にミラーの魔法を乗せて振るったら(前世で見たアニメみたいに)芭蕉扇みたく使えるんじゃない?
と。
ちょっと前世の中二病が発動してしまった感は否めないが、ヤバいコレ楽しい。
と次々薙ぎ払うのが快感になってしまうのを感じていた。
ーーー
どういう仕組みなのか、レオン達が乗っているドラゴンは落ちてくるドラゴンは勝手に避ける。
避けるし、襲いかかってくるドラゴンからも回避して守ってくれる(その間にあの白いのが屠る)し本当にセイラに言われた指示通りの魔法だけを行使していれば良いらしい。
いや、それだけでも魔力をくうし普通はそもそもドラゴンに騎乗しながらそこまでは出来ないのが普通なのだがーーそのドラゴン自体は(当たり前だが)しゃべらないがそのドラゴンの喉元あたり(正解は触覚にあたる部分なのだが)から直接セイラの声で
「ここの上空はほぼ完了。次に多い場所のそばに同じサークルを作れそうな場所はありますか?お兄様」
「あぁ、もうあの辺りの地上は更地だからな。おそらく問題ない」
「では先程と同じように皆様お願いします」
「「「わかった」」」「畏まりました」
そうやってセイラが片っ端からはたき落としている間も白いドラゴンは縦横無尽に飛びまわってドラゴン達を屠っている。
白いドラゴンは10体程で、動きが速く小回りがきくため図体のでかいドラゴンには捕捉出来ないようだったが、ドラゴンに噛み付いてる間に後ろから鉤爪で攻撃を受けている個体もいた。 その際、パシッと光を放ち弾けはするものの直ぐに形を取り戻し再度ドラゴンに襲いかかる。
セイラといい、あの白いドラゴンといい何なんだ?
ーーこの問いに対する答えは一つしか思いあたらない…が、訊いても答えてくれるかどうか。
などと考えを巡らせる兄や王子を尻目に当のセイラはサークル内に落とすだけでは飽きたらずーもう地上の住民の避難が完了し建物も崩壊してるのがわかっていたからこそではあろうがーードラゴン本体を消火に使い始めた。火竜に襲われた一帯は当然火の海だ。そこへ、火を白竜に消させ、水竜ないし氷雪竜を凍らせるか水浸しにして火元に落っことしている。
確かにそれで火は消えるが滅茶苦茶だ。
滅茶苦茶だが、一石二鳥には違いない。延焼や消えきらない場所はこちらで対応した。
大量のドラゴンをはたき落とし、そろそろ終わりかと妹の方に目をやると同時に夜闇が空を覆ったーーいや、今はまだ昼だ。という事はあれはー真っ黒なドラゴンの広げた翼が空の一隅を覆い隠しているのだ。
ーーバカな。
なんて大きさだ。
それも、火竜でも水竜でも氷雪竜でもない。
だが、風竜にも見えない。
湛える気配があまりに邪悪だからだ。
あの色は本来なら風竜の色、の筈なのだがー…と一瞬思うがその目は赤黒い。更にはよくよく見ればあの巨体も、黒ではなく赤黒い。
ということはあれはーー火竜だ。燃えすぎて焦げた黒を纏った火竜、それも恐ろしく巨大な。それこそ広げた翼がこの距離でも空を覆い尽くす程ーーしかも、巨竜の目は明らかにセイラを凝視している。
ーーマズい。
「セイラ!離れろ!」リュートが叫ぶのと同時に巨大なドラゴンがセイラに牙を剥く。
ーー瞬間、リュートは、いや地上空中問わずその場にいた者はみた。セイラとそのドラゴンの間に立ちはだかる様に真っ白なドラゴンの影が揺らめいたのを。
ーーー
一方、王宮でローズ伯が立ち去った後数名の者が伯に倣い部屋を出て行った。
それを咎め立てする者はいなかった。
やがて、城下からの報告が次々入りはじめた。
「じ、城下の街を襲っていたドラゴン数体が殲滅されました!」
「な、何だと?!」
「なんでも、風竜に乗った者数名が次々とはたき落としているとかー…」
「は、はたき落とす、だと?」
何とも珍妙な顔で訊き返す国王の元に次の伝令が駆け込んでくる。
「も、申し上げます!城下を襲うドラゴンの群れを殲滅している一団にレオンハルト殿下並びにロッドハルト殿下、騎士団隊長リュート、騎士ユリウスの姿が確認出来るとの事」
「何じゃと?あの者達はセイラ嬢の捜索に当たっていたのではなかったのか?」
「セイラ姫についての報告は上がっておりませぬ」
「ふぅむ…」
では既に見つけてどこかに預けているのか?
それとも諦めたのかー…
いずれにせよ、ローズ伯より先に手の内に入れてしまえば打つ手はある。
などと(的外れ極まりない)思案にくれていた国王の元に次々と伝令が駆け込んだ。
城下のドラゴンの群れ、一角が殲滅され住民の避難が派遣された騎士団の誘導のもと開始された。
ドラゴンの群れ、現れた殲滅隊により半数以上が殲滅。
王宮からの指示により王城の兵士も門兵以外は民の救出と避難誘導に当たって民は次々と避難完了との事。
「な…?!そんな指示、出してはおらんぞ!」
そりゃそうだろう。
と場にいる何人が思ったかは知らないが王城の護りが手薄になっている ときいて顔色が変わった者は割といた。
「どういう事ですかな」
「そんな異例の指示を、一体誰がー…」
伝令を詰問すると
「は?我々は騎士団長より勅命あり とのーー」
「何だと?」国王が目を剥く。騎士団長はレオンへの説明と説得を兼ねて使いに出しただけだ。だが、当のレオンもリュートも、更にロッドやユリウスまでが今はドラゴンの討伐に当たっていると言う。
それは構わない。
構わないが、ならばセイラ嬢は今どこにいるのか?
どこか避難させているなら城のどこかにいるのだろう。
これは騎士団長に命じ連れて来させるべきだろう。
などと、甚だ的外れな検討をしていたところに新たな報告が入る。
「申し上げます!ドラゴンをはたき落としているのは長いマントとフードで顔を隠した正体不明の人物とその者が放った白いドラゴンらしい、との報ー…」
「「「白いドラゴン?!」」」
続いて、
「東の空に巨大なドラゴンが出現しました!広げた両翼が空を覆いつくし昼間の空をあの一角だけ夜にしてしまうかのような大きさのーーお、おそらくこちらからでも視認が可能かと」との言葉に皆が窓に駈寄った。
一瞬白い光に視界を奪われた後にレオン達の目に入ったのは先程の火竜と同じくらい大きな真っ白いドラゴン。
火竜の姿は消えていた。
入れ変わるように現れた目の前の白いドラゴンの瞳に邪悪さは無く、澄んだ光を讃えた瞳は神々しささえ感じさせる。纏う鱗も鬣の一筋さえ白く輝き、それが空に翼を広げて佇む様は一枚の宗教画のようー…なのだが。
少し違う。
宗教画ならその手ともいうべき鉤爪に宝玉を握っているのが常なのだがーそのドラゴンの掌とも言うべき場所に納まっているのはフードを目深に被った小柄な少女だった。
誤字脱字その他 後に修正(予定…)…




