悪役令嬢、無双する
主人公無双開始。
「ーーロッド殿下、確認なのですが…貴方はこちらには関与していないのですね?」
ーキャロルと共謀して私を拉致はしても。
ーー町を襲撃 なんて真似はしませんよね?
「ーーあぁ。誓って」
良かった。もしこっちにも関わってたりしたら一緒に叩き潰さなきゃいけないとこだった。
「わかりました。ーでは、参りましょうか。っと、この格好では不味いですわね。お兄様、このマントーー頂いても構いませんか?」
「構わんが、しかし…」
「ではお兄様、これでは私には長すぎるので切っていただけません?あとついでにこれのスカート丈も」
私は着せられている服の裾を摘む。
「………」「ーー動きにくいので」固まって動かない兄(ほかの殿方もだが)に有無を言わさぬ笑顔を向けて言う。
「あ、ああ…」良くわかってはいないが逆らったらまずい、という点だけは感じとっているらしい兄が跪いて私の服の裾に刃を入れる。
「まさか、行く気か?」
「はい。私もお父様に賛成です。今現在襲われている町の方が問題です。ーー王城の方々には、私はもう少し行方不明でよろしいかと」
「だが、いくらお前の魔力が強くてもー…」「説明は後です、お兄様。今はとにかくー私が行けば1番手っ取り早いです。理由はその目でご覧になって。レオン様も、ロッド殿下もです。ワイエス団長、騎士団の皆様は?」
「は。ドラゴンの群れに対し三隊に分けて事態の収拾に当たってはおりますがー…」
当然、押されているだろう。
「まだ私の捜索にあたっている者はいますか?」
「はい。姫様の護衛に任官された者の指揮のもと数名ずつではありますが」
「では、全員呼び戻して、町の人たちの避難誘導にまわらせて。王城警備の任についてる者も、門兵以外は出して。魔法を使えない者は市民達の避難場所を確保、魔法を使える者はその場所の安全確保を」
「ですが、それでは…」王宮が手薄になる。が、
「王城内にドラゴンは来ていないのでしょう?」
「は。確かに…ですが」
いつくるかー…という顔をしているが
「来る前に止めれば問題ないでしょう」
第一この状況で呑気に審議なぞしている連中なら私兵や間諜くらい個人で雇ってるだろうし、王宮近衛はいるのだし。多分それで充分なのでは?
との私の言葉にその場の全員が固まった。
が、
固まってる暇はない。
「…何か策があるのか?」「はい」
レオン様の言葉に私が確信を持って頷くとその場にいた全員の顔が引き締まる。
ーーまぁ、出たとこ勝負ですが。なにしろたった今思い出したばかりだから仕方ない。
後はーー
「ロッド殿下、私の持っていた扇子はどこですか?」
ロッドが、怪訝そうな顔になった。
ーーー
ワイエスが階段を上がり去ると、セイラはリュートが破壊した壁に近づく。この部屋は地下室かと思ったが、正確には半地下だったらしい。壊れた壁の上半分から外が見える。
その視界を何かが遮ったと思うと、
セイラの目の前に透明ーーというか夜闇に保護色のドラゴンが音もなく降り立つ。その数は五頭、ここにいる人数分。通常ドラゴンは苛烈な瞳の色をしているものだが、そのドラゴンの瞳は穏やかで敵意は全く感じられない。どころか、そのさあどうぞ、と言わんばかりの状況にレオン始め男性一同は戸惑いを隠せない。
「セイラ、これは…」
「説明は後だと言いましたでしょう?無理に とは言いませんがーこの方が早いですよ?」
セイラが言い、さっさとうち一頭に跨る。そうされてはレオン始め男性4人も躊躇するわけにもいかない。時間がないのも確かだからだ。残りの者が飛び乗るとひゅ、とドラゴンは高く飛翔した。
ーーー
あっという間に城下の町に辿り着く。
「ーー多いですわね」
空から街を見下ろしたセイラの第一声はそれだった。落ち着き払った声ではあるが、驚いてはいるようだ。
レオン、リュート、ロッド、ユリウスは別のドラゴンに騎乗しているにもかかわらずセイラの声がはっきり聞こえる。
ーーこんな上空では、風の音が耳にうるさくて大声でなくては聞こえない筈なのに?
ーなるほど大きく分けてドラゴンが密集してるのは三ヶ所。
「… 一ヶ所ずつ潰して行くしかないか」そんな呟きと共にセイラの身体から白い光が幾筋か放たれる。放たれた光は小さな白い獣の形をとってーー片っ端から近くのドラゴンに飛びかかった。
驚いた事に、白い獣は(最初早くてわからなかったが)小さいながらドラゴンのようでもっと驚く事にそれに噛み付かれた何倍も大きさのあるドラゴンはひと噛みで姿を消した。文字通りひと噛みで消滅させられているのだ、あの白いドラゴンに。音速で飛び回るそれらは一体食むとまたすぐ別の個体へと飛びかかり、ドラゴンの数を次々減らして行った。
放った当人はフードを目深に被ってるので表情は窺えないが真っ直ぐ1番大きなドラゴンの群れを見据え、その足下ー地上へと目をやる。ドラゴンが暴れまわった後の地上は既に更地だ。セイラはそこが良さそうだとあたりをつける。
「お兄様、この下の更地ーーえぇと直径200メートルくらいですかね?あの辺りを瓦礫で囲って人が出入り出来ないようにして下さい」
「ーー何をする気だ?」
「ドラゴンの落とし場所にします」
「………」もう返す言葉もなく、リュートは黙って指示に従い、魔法で瓦礫を積み上げ始めた。
「レオン様は火と土を操る魔法が得意ですよね?下の土を魔力の搔き合せでマグマみたいな温度に出来ますか?」「出来なくはないが、それではドラゴンは死なないだろう?」「翼の一部だけでも破損して飛べなくすればいいんですよ」落ちたとこにまたドラゴンが降ってくれば潰されるだろうし?
「………」
「ロッド殿下とユリウスは風魔法が得手でしたよね?落ちてくるドラゴンをあのサークル内に落ちるように風魔法で調整して下さい」
「「…ー落ちてくる?」」
「もっと上で片っ端から動きを止めて落としますので」
「いや、待てセイラ!!ドラゴンは氷雪竜だけではないだろう?火竜や水竜だって」
「跳ね返すならどれだって一緒です」
そういう問題じゃないっ!という男性全員の思いは一緒であったが発せる雰囲気でもなかった。
間違いなく、この場の指揮を執るのがこの少女だと理解はしていたからだーー納得は出来なくても。
当人もそれは理解してるので
「すみませんが質問は後にーあ、私との会話はそのドラゴンに乗ってる限りは通じますから」
どういう意味だ?
と訊く前にセイラだけがさらに高く飛翔する。それを呆然と見上げながら
「セイラは…、ドラゴンに乗れたのか?」
レオンもロッドもリュートもユリウスも、ドラゴンマスターとはいかないがライダーの資格は持っている。が、セイラはーーレオンが知る限りではーそんな訓練は積んでいなかった筈だ。
「いンや、俺が知ってる限りじゃないな」やけくそ気味にリュートが言い、
「…ほんとに読めない娘だね」
とロッドが呟く頃にはセイラはドラゴンの群れに接近し、手にした扇子を一振りしたー
ーー途端、ドラゴンの群れが吹っ飛ばされ、(この時点で形を留めていないのもいたが)翼を傷付けられたドラゴンがぼこぼこおもちゃの様に降ってくる。
同じ様にドラゴンに接近しては相手が一体だろうが数体だろうが扇子一振りで薙ぎ払っている。
ーーなんだあれは。
「なあ。素朴な疑問なんだが、殿下」
「なんだ」
「あの姫様に、護衛って必要か?」
「当然だ。魔力が強ければ強いほど、行使した分 本人の体は疲弊する。ましてセイラのあの華奢な身体付きではーー当然反動も大きい筈だ。だがあの様子では限界ギリギリまでだって行使しまくるだろう。疲れきって倒れた時、受け止めて休める場所を提供できる者が傍にいるべきだ」
そう頭上の少女から目を離さずに宣うレオンを薮蛇、とばかりにユリウスは肩を竦め、ロッドは苦笑し、リュートは何とも複雑な顔で沈黙していた。
このまま突っ走ります(予定)。