悪役令嬢と兄、笑い合う
「ロッド、お前…」
「彼女はこんな燻んだ色の僕の事も、綺麗だと言ってくれたから。ちょっとした悪戯心だったんだ。じゃあ真っ昼間から庭園で女と乳繰りあってるお前を見てどう思うのかなって」
ーーじゃあ私があの場に遭遇したのは、偶然じゃなくて…誘導したのか、この人が?
に しても、乳繰りあうって…あれ、そんな場面だったのか…いや、私刺されたレオン様しか見てないけど。
「でも、結果良かったのかな?あの時暗殺者に致命傷を負わされたお前を助けられたのは彼女だけだったわけだから」
「………」
「その後すぐ、彼女はお前の許婚筆頭候補になって」
ーーいや、候補はわかるが筆頭って??
「複雑だったけどそれだけ だったんだ、最初は」
ーー最初は?
「でも、彼女はその後度々登城して、俺とすれ違えばあの時はありがとうございました、なんて挨拶してくるし、俺が持ってる本にも興味を持って訊いてきたり」
ーーいや、珍しい本て気になるじゃないですか。単純な好奇心ですよ?
「どうせわからないだろうって専門的な話をすれば興味を持ってくるくる変わる表情で逆に質問してきたり、ほんとにこの子変わってるなって思ったよ」
ーー変な子供ですみません。
「けど、そのうちそんな事もなくなった。真っ直ぐな瞳の先はレオだけを見つめるようになって、レオの方も君に相応しくなろうと振舞いを改めてくのを目の当たりにして、あぁこの2人はやはり結婚するんだな と思った」
いやそこ私は知らなかったんですが。
「ラルが産まれてからの僕たちは似てると思ってたのに、2人とも社交的な方ではなくて、人は皆ラルの周りに集まるからむしろそういう行事を避けてわざと遠乗りに行ったり…」
ーそんなことあったんだ…
私が知ってるレオン様はいつでも自信に満ち溢れていて、魔力も体術も外交だって完璧にこなす王子様、だったから知らなかった。
「そうだな。セイラと初めて会った時も、リュートから"妹が初めて登城する"と聞いたからだ」
……へ、…え?そうなの?
「俺も、あの時はただの変わった子供だと思ってたよ」
だから、揃いもそろって
ーーなんで変わった子供 = 妃にしたい
になるんだ なに基準なんだソレ?誰か説明して下さい。
「僕と同じ人前では無表情だったお前が人好きのする笑みを浮かべられるようになって、周りに人も増えていった。そしてそのお前の横にはいつも彼女がいて変わらないきらきらした瞳でみてる。見たくなかった、もう見ないようにしようと思ったんだ、もうどうしようもないんだって、気付いた時は遅かったんだーーなのに、最低限の行事しか顔を出さないようにしても、顔を合わさないようにしても、すぐに君は僕を見つける。そうしてみせつけるんだ、初めて会った時と変わらない真っ直ぐな瞳と、どんどん美しく成長してく姿を」
ーーはい?
なんか途中から別の人の話になってませんか?
「わからないって顔だね。君の事だよ?レイディ・ローズ」
?!
「君はもう子供じゃない。正直、眠っている君を奪ってしまおうか 悩んだよ」
「っ!!」
「まあ、目覚めた時の君の瞳に耐えられる自信がなかったから結果、何も出来なかったんだけどー…レオだったらどうしたろうね?」
「何が言いたい?」
「いいや。セイラの言う事も一理あるよ。僕は第1王子とはいっても第2妃の子で王妃の子であるおまえとは違う。ラルみたいに人を魅了する笑顔を浮かべる事も出来ず、本を片手に研究ばかりしていた」
それの何がいけない。ロッド殿下の研究は立派に役立っているし政務だってちゃんとやっていたーーむしろレオン様が外交に出ていた間王の補佐だったのはロッド殿下ではないか。
「…何故、引け目など」
レオン様も同じ考えらしい。
「お前と似てると感じられたうちは良かった。上手くやっていけると思ってた…のに、今でも考えてしまうんだ。あの時、セイラをお前の元に行かせなかったら。お前より先に求婚していたら。何か変えられたのかと」
ーー本気で言ってるみたいだけど
「ーー例えどんな理由があったとしても、」
その想いが真実だったとしても。
「貴方がやった事は最低で最悪です」
「…そうだね。わかってる」
本当にわかってるのだろうか。ご自分が今どんな表情でいるか、自覚してらっしゃいますか?レオン様が王妃様の子で自分が第2妃の子であるためロッド殿下は昔からレオン様に遠慮していたフシは確かにある。
あるが、初めて言いたい事を言ってすっきりしたからか先程まで私に暴行紛いなことしてた人物とは思えない清々しい表情だ。
拉致られて監禁され婦女暴行未遂に遭ってた身としては正直ーーちょっと、いやかなり?ーー殴りたい。
とか思ってた所に兄が動いた。
ぼぐっ…という鈍い音と共にロッドが崩折れる。兄の渾身のボディブローが綺麗にヒットした。
「ったく!ーーふざっけんなてめぇ!んな理由で人の妹拉致ってこんな真似したってのか?!妹のいう通りだっ!んな話は2人でやれ!そんな風に思ってたんならさっさとぶつかれ!今のセイラみたいにな!グズグズ何年も抱えてこのザマかっ?!そもそもあの時点でてめーら今のセイラより年上だろうがっいいトシこいた野郎がなに2人していたいけな14才に迷惑かけてんだ!!」
更に王子2人の頭を両手に掴んで互いにぶつける。さすが騎士団の最年少隊長、細身なのに腕力が半端ない。
「大体、1番迷惑被ったのは妹だろうが、何でてめぇらの方がツラかった、みたいに話してんだえぇ?!兄弟揃ってどこまで他人に迷惑かけりゃ気がすむんだこのヘタレ兄弟!!」
ーあ ヘタレって言葉知ってたんですねお兄様。
それに、
言いたいことを全部言ってくれた。
「ありがとうございます、お兄様」
「おうよ。ーー漸く、だな」
と苦笑する。私もそれに笑いかえす。私は本当にここ2カ月の間お兄様とは呼んでいなかったから。
「り、リュート…私まで思いきりぶん殴ることないだろう」
「やかましいっ!お前がロッドの様子がおかしい事に少しでも気付いてりゃ少しはマシだったかもしれないだろーがっ!ーーお陰でむざむざこいつの誘導に乗っちまった」
心底忌々しそうに言う。
どうやら国王がローズ伯爵一家に内々に話があるとのロッド殿下の伝言によりあの騒ぎの少し前に広間から連れ出されていたらしい。
「…ったく、すっかり騙されちまったぜ。護衛のユリウスが"セイラ様は殿下とご一緒に王族専用通路から退出されました"って言うからてっきりレオンと一緒だと思ってたら…、気がつきゃレオンはいるのにセイラはいなくなってるし…」
ーーそういえば、レオン様に「殿下呼びは禁止」令を出されてからお兄様とはほとんどまともに会話をしていない。兄からすればレオンは呼び捨てだがユリウスからすればどっちも"殿下"なわけで。
「すまん。あの時手を放すべきじゃなかった」
「申し訳ありません!私がー…」
ユリウスが言い募ろうとしたのを兄様が遮る。
「あー…レオンはともかくお前は謝らなくていいぞ?」「その通りですユリウス」
そもそも、今回みたいに主であるレオン様不在の場合自分より立場が上の王族にユリウスは逆らえない。
あの時、一緒にいたのがレオン様なら迷わずユリウスを同行させたろう。だが、ユリウスはレオン様が個人的に雇った騎士だ。しかも外国人。ロッド殿下とは面識もほとんどない。ロッド殿下がああいった場合に王族専用通路への立ち入りを許可しないのは当然で、あの場合仕方なかったとも思う。思うが、例えばレオン様がそういった場合「騎士ユリウスの立ち入りを許可する」又は「いかなる場合でも私との別行動は禁止」とかなんとかーそういう旨の書類なり発行しておけば防げた事態でもあるのだ。
故に、ユリウスに責任は生じない。
「大体、なんでこのタイミングでこんな真似しやがった?この式典の為とそれに続くセイラの大捜索でどれだけの人員が割かれてるかわかってんのか?てめぇら」
「全くですわ。夏の祝祭といい今回の式典といい、この一日のためにどれだけの人が心を砕き走りまわったかわかってますの?あの祝祭であんな騒ぎ起こしたラインハルトも阿呆ですけど貴方もいい勝負ですロッド殿下。ーーどうも身分の高い方々というのはその辺が少々鈍すぎるのでは?」
兄妹揃っての糾弾に王子2人が気まずそうに黙り込んだ。
ローズ兄妹最強ぱーと2