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悪役令嬢、拉致される

 

 もちろん、国内にはまだ流通してないメルクで作られたセイラのドレスは広間の淑女がたの熱心な視線を浴びておりこれほど効果的な宣伝もないーー取引先である王族も勿論招待され来席しているが"妃殿下のお披露目"ときいて敢えてメルクでの礼装を避けて出席していた。

「彼女が着れば我が国の誰が着るより宣伝効果がある」

とレオンに言われていたからだ。

そして実際にメルクのドレスを纏った可憐な姫君の着こなしに(いた)く感動していたーのはレオンだけが気付きほくそ笑んでいたのだが、、


 ーー確かに、メルクの輸入が開始されたら、誰よりも早くドレスをオーダーしてお披露目しなければっ…!と考えてる御婦人がたは少なくないだろう。

 ーーだが、いざ自分もあんなドレスを着たらさぞかし…いや、絶対美しく映えるに違いない!と思い脳内シミュレーションしてはみるものの、…どうしても上手くいかない。自分にはあんな青は似合わないから赤で、いやピンクかしら?でも、それだと目立たないし、今の彼女(セイラ)みたいに会場で1番眼を引くにはーー?

 とそこまで考えて思考が止まってしまう。


 これには、幾つか理由がある。


 一つには、メルクは薄色染めには向いていない。軽い素材であるが故に踊りやすいが、お茶会用のサマードレスなら良いかもしれないが夜会のドレス生地として使うなら濃紺や真紅というくらい濃くしないと夜会映えしないことーまた、セイラのドレスは今流行りの胸元をざっくり開けたデザインでなく 胸元は僅かに開いているもののどちらかといえばクラシックなデザインに近い形であること。

 ーどちらも若い女性が着こなすのは難しい。


 もう一つは、セイラのドレスはグラデーションを付けてるだけでなく合わせてラインストーンも数多く散りばめられており半端なく手間のかかった逸品であること。


 ーー故に、自分でこんな感じに と思っても上手く脳内シミュレート出来ないのは当然と言えた。これから"あの生地を使って自分に似合うドレスを"と求める女性達はそれこそ数々のデザイン画と首っ引きでかなり頭を悩ませる事になるだろう。


そして上手く似合うドレスが出来上がったとしても、セイラのように踊るのは9割がた無理だろう。

 このドレスで踊るにあたって尤も重要なのがーーダンスのステップやドレスの縫製に詳しいごく一部の人間だけが気付いた事だがーこのドレスは軽い故に少し脚を動かしただけで舞い上がってしまう為裾さばきが何より重要なこと。

 通常の夜会服であれば多少乱暴な動きをしたところで見た目にはわからないが、メルクだと少しの動きでもふわりと浮いてしまう為ごまかしがきかない。

 浮かないように裾の布を二重に取って重くする などの対策を取れば通常の夜会服のように着こなす事は可能だろう。

 だが、セイラのように「どんなドレスよりも軽くて踊りやすい」「まるで水の上を滑っているよう」なドレスにはならない。

 ー裾さばきが美しくないとこのドレスは着こなせない。

 ーー結果、あのドレスはセイラ様以外着こなせないし似合わない。

 そう気付いた一部の人達は改めてレオンハルトの手腕と婚約者セイラへの熱愛っぷりに呆れると同時に落ち込んだ。




 そんなこんなで密かに「セイラ様より目立ってやろう」「あわよくば第2妃に!」などと気負って半端なくめかしこんできたご令嬢がたも、粗探しをして悪口の口実をみつけようと一挙手一投足に注目していた特権派の口うるさい公爵夫人も(あまりの隙のなさに)一方的に叩きのめされた形で完敗宣言をし、2人にお祝いを述べて早々に広間を辞した。

 セイラ本人は全く気付いてないが逆もまた然り。初めて見た次期王子妃の美しさに見惚れた子息がたがあわよくば一曲お相手を、と挨拶がてら手を伸ばすのを悉くレオンが撃破していた。セイラとレオンの身長差ではセイラが踵の高い靴を履いてもまだ20センチほどレオンの方が高い。目線が高いぶんセイラより先にレオンが気付きセイラをその視線から隠してしまうのでセイラは全く気付いていないのだがー…

 ー戦場じゃないんだぞ。射殺(いころ)してどうする。

 ーーまるで戦場ね。セイラは全く気付いてないところがかえって凄いけど。


 兄と親友の思いはさて置いて、セイラ本人も気になってはいた。


 ーーほんとにこのまま離さない気だろうか。

 腰にまわされたレオンの手が全く弱める気配をみせない。

 通常、こういった夜会ではファーストダンスとラストダンスは婚約者とだが、その間は別の方と次々踊るものの筈だ。招待した側としての義務でもある。これでは外交上失礼にあたるのではなかろうか?

 こんなこと、レオン様が気付かない筈がないのに。

 訝りながらレオンの方を見るも当の本人からは甘い笑みしか返ってこない。

 ー単純にレオンの独占欲が半端ないだけだということにセイラは気付いていない。


 やがて、見かねてというかやっぱりというか、ー王妃様がやってきて声をかけた。


「おめでとうレオン。念願叶って良かったわね。今日は一段と綺麗よセイラ…レオン、少し良いかしら?」

 優しげな祝いの言葉についでのように付け足された言葉だけが何か異様に冷たい。レオン様の頰がぴくっと引き攣る。


 よくよくみると王妃様の後ろに生徒会長が控えている。

 ーーそっか。公爵家の子息だもんね。

 自分にとって又従兄弟なら王妃様にとっても当然血縁者だ。

「セイラはカインと踊ってらっしゃい?ーー私はレオンとちょっと話があるの。

「ーーはい。王妃様」

 レオン様が渋々手を放す。私は生徒会長の差し出された手に指先を乗せてその場を離れたー頑張って下さいレオン様。と心の中で呟いて。


「ー驚いたよ。ほんとにすぐ結婚するんだね?」話しながらもステップのリードは見事なもの。流石公爵家のご子息。

「…ー私も驚いてるんです。婚約者候補だという自覚はしてたのですがーまさかこんなにすぐ結婚式まで決められてるなんて」

 まさか

 知らなかったんです。

 とは言えないが"戸惑い"というオブラートにくるんで軽く愚痴ってみるが、

「………」

 返ってきたのは沈黙だ。

 まあ、

 ーーそりゃ突っ込みようないですよね。



 やがて膨大な予算と人手と食材(?)を要した夜会もお開きとなり招待客達が帰路につき始めた頃ー…

 突如としてそれは起こった。


 突然、広間に稲妻がはしり広間の出入り口の扉が吹き飛ばされたのだ。

「襲撃だ!」「武器を持ったならず者達が!」

 怒号が飛び交い、広間は悲鳴と轟音に満ちた。


 さっとユリウスが私の前に庇う様に立ち、同じく背後にレオン様が守る様に立つ。護衛団として任官された者達は明日より任に就く、との事で既に退出していたからだ。

 だが、

 出ていこうとした出入り口に衝撃波が来たので人々がこちらに逆流してきていた。

 ーー不味い。

 国王夫妻は既に退出しており、私とレオン様だけが招待客を見送っていたのだ。


「レオン殿下っ!大変です!」人混みの向こうから声があがる。発している人物の顔は見えない。

「何事だっ?!」

「奴等の狙いはー…ぐっ」「殿下!力をお貸し下さい!殿下の魔法でないとここはーー!」

 どちらも言い切らずにくぐもった悲鳴に変わる。ーあの向こうで何が起こっているのか?


「殿下」どうします、というユリウスの問いに

「セイラの避難が先だ」躊躇なく即答する。「レオン様…」

「心配するな。ワイエス!リュートはどこだっ?!」

 だが、お兄様はおろか団長の姿も見えない。どころか、逆流してくる人は増えている。


 衝撃波は出入り口に集中砲火されてるのだ。

 兵もそちらに集中してるようだ。レオン様が舌打ちする。

「レオン様。この場で怪我人を出すわけには参りません」

「だがー…」

「私にはユリウスが付いております。こういう時の為に付けて下さったのでしょう?」

「っ…後からすぐに行く。ユリウス」

「はっ」


 ーそして私はレオン様と離れ、反対方向にある貴族専用の非常用通路へと向かった。

「こちらも、混雑してますね」

 無理もない。身分高い人専用といっても会場にいた人々のほとんどが王族かそれに準ずる身分の人ばかりなのだ。そこへ、

「こっちだ。王族専用通路がある」

 と声がかかる。

「これはっ…殿下!」

「君なら使っても問題ないだろう。だがー…」

「心得ております」

 ユリウスが私から一歩下がって礼を取る。

「お願いいたします」

「こっちだ」

 私は殿下に手を取られて薄暗い通路へと歩を進める。一抹の違和感と不安の区別がつかないまま。



 ーーそう、私はわかっていなかったのだ。この夜会の有り(よう)の本当の意味を。

 あまりにも大事にされすぎて、お姫様扱いされすぎて。

 忘れてしまっていたのだ。

 ーー自分が悪役令嬢だという事を。



 王族専用通路に入ってすぐ、強い香りが鼻をつく。

 気がついた時は遅かった。たゆたっていた香は人の意識に作用する効果があったのだろう。

  一瞬後に、私の意識はブラックアウトした。



 ーーそして目が覚めた時、私は牢の中にいた。後ろ手に魔力封じの枷をつけられた状態で。それを待ち兼ねたように、目の前、つまり牢の外にいる人から声がかかる。

「お目覚め?ーー牢の中へようこそ。悪役令嬢・セイラ様」

 それは得意げに 嬉しそうに告げたのは追放された筈のヒロインーーキャロル・ステインだった。「とても素晴らしい婚約披露パーティーでしたわねーー悪役令嬢と王子の政略結婚とは思えないくらい」と とても悪役らしく宣うヒロイン。

 だが、そのキャロルの存在よりも私の視線は先程まで一緒にいた背後の背の高い人物へと向いた。

「殿下…」

魔法封じ…罪人に使う枷に魔力を込めて使われる。枷を付けるだけなら誰にでも出来るので牢番が行うが解除は込めた魔法使いにしか出来ない。

漸くここまで来ました。この後の展開も纏めて更新したいので少し書き溜め時間をいただきたいと思います。なるべく早くと思ってますので引き続きよろしくお願い致します٩( 'ω' )و

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