婚約披露は疲労します
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わかってなかったから、政務書類を手にしたレオン様に「そろそろ家に帰らせていただきたいのですが」と言うことに躊躇いはとくになかった。
が、
「?何故だ?」
と怪訝そうな顔で返すレオン様に流石にこちらもちょっと溜息をつきたくなる。
「ここがわたしの家ではないからです。私はローズ伯爵家の娘です」
「それはわかっているがーー…」
不機嫌そうに眉をひそめられるがここは私も引けない。この宮は嫁ぎ先ではあるが家ではないのだ。それに自分はまだ学生の身だ。婚前生活などする気はない。
「お父様も戻ってきた事ですし」
「ローズ伯は政務でほとんど城で過ごしているし会いに行けば良いだろう」
「そういう事ではなくて…家に帰りたいのです。祝祭の日に帰る予定だったのがもう夏休みに入って幾日も経つのに、1度も帰れておりません。もう黒太子も帰国した事ですし」
「…また何か仕掛けて来ないとは限らないだろう」
「そんな事を言っていてはきりがありません」
「どちらにせよ婚約式の準備で度々登城しなければいけないのだからここにいれば良いだろう?」
「私の準備は後はドレスの出来上がりを待つだけですので問題ありませんし、私は元々おまけで主役はレオン様ですよね?レオン様のお誕生日なのですもの」
「………」
そうなのだ。婚約発表を兼ねる、とはいえメインはレオン様の誕生日式典なのだ。私は当日お披露目されるだけの筈だ。
少なくとも、その時の私はそう思っていた。
それをきいたレオン様が苦虫を噛み潰したような顔になり、
「相変わらず、自分の価値に無頓着だな君は」と溜息をついた。
そうして漸くレオン様の承諾を取り家に戻った私は即リズの家に向かった。兄との仲直りはまだ済んでいなかったが兄のほうが(セイラは知らなかったが主にセイラの専任護衛の件で)城に詰めていていなかったのでそれは気にしない事にした。
勿論、祝祭当日の事に関する言い訳、ではないーほんとに知らなかったのだから説明に、だ。
披露パーティーにも当然正式招待されてはいるがそれまで放置なぞしたら友情の危機である。
「まあ、本当に知らなかったのはあの時の貴女の顔でわかったけれど」
紅茶を飲みながらひと通り私の話をきいたリズは優雅な所作でカップを置きながらため息をついた。
なんだろう、最近目の前で美形にため息をつかれる回数が増えてる気がする。
そう、美形。
私よりずっと美少女のリズやヴァニラや他のご令嬢に他国の王女様まで引く手数多のレオン様がなんで私なんだろう。未だにわからない。
が、リズ曰く
「むしろ貴女が気付いてなかった事に驚きだわ。普段は観察眼も鋭いし切り返しも早いのに。会長の言った通り自分自身の事になると鈍いタイプだったのね貴女って」
しみじみ言うさまはやっぱりレオン様と同じで。
………
…えーと?
私、そんなに鈍い?
「だ、だってレオン様もお兄様もわたしにはひと言もそんなことー…」
「でも、態度では示してたわけでしょう?」
「レオン様外国に行きっぱなしだったし、そりゃあお手紙や贈り物なんかはまめに届いてたけど」
「なんでそれで勘付かないの?」
「だって、候補の方全員にしてると思ってたのよ!」
そうなのだ。
レオン様が手紙を送ったり、行く先々から土産めいた物やアクセサリー、土地限定のハーブに希少な紅茶、その他諸々…送っていたのは私にだけだったのだ。
それすら、本人にきかされるまで知らなかった。
それをきいたリズは心底呆れた表情になり「言っとくけど、もっと長い付き合いの正式な婚約者同士だってそこまでしないからね?」と捨て鉢に言われ、返す言葉もなく落ち込んだ。
ともあれ、絶交は免れたようで良かった。学園は通い続けるのだ、リズという存在を失った学園生活なんて考えられない。
同じくヴァニラにも話に行きーーもっともこちらはリズと違ってただ発表までは私の口からは言えなかっただけと思ってるのでひたすらおめでとうを連呼されたー…違うんだけど。
夏休み、親しくなった平民の女生徒たちも含め皆で遊びに行く約束もしてたのだがそれは叶わなかった。
向こうがひたすら畏れ多い、という態度になってしまったのと、私が行けば大仰な護衛が付いてきてしまう。
友達同士で気軽に、なんて雰囲気にそもそもならないのだからそれも仕方ない。
ーーかなり残念無念だけど。私は帰りの馬車の中でため息をついた。
友人同士の行き来はあったものの、確かに城に呼び出される事も多くそもそも祝祭のあとほとんどの生徒があちこちに手紙鳥を飛ばしたのでーー報告しなくてもほとんどの人が知っていた。もうこれ 発表いらないんじゃ?
いや 発表なくても披露はされるから一緒か…
ーーいや待てよ?
どうせ婚約から式までだって2ヶ月しかないのだ。
だったら私レオン様の誕生日にはちらっと出るだけで良くない?
と試しに家のメアリにきいてみたら
「何仰ってるんですか?!お嬢様は間違いなく主役の1人であっておまけ などではございません!一体誰がそんな事を?まさか他の候補だった方々が何かー…」と凄まじい形相で迫ってきてこわかった。
「ち、違うのよ。そうじゃなくって…ただ結婚してる訳でもないのにレオン様の誕生日に私がそんなに出しゃばるのは良くないんじゃないかと思ったの。今の私の身分はあくまでいち伯爵令嬢でしかない、、でしょう?」
「っそんなご心配をされてたんですか?!」
メアリは拍子抜け、という顔だ。
「私、そんなにおかしい?」
「おかしくはないですけれど…あそこまで殿下に望まれていながらその…何というか、…」
「お嬢様は謙虚すぎますわ」
お茶を運びながらレイラが話に入ってきた。夏の祝祭の時にドレスアップと試着を手伝ってくれた2人だ。
謙虚っていうか、単に自信がないだけというかー…
「…展開が早すぎるのよね」
メイド2人は「「?」」となったが私からすれば魔法学園に入学してから、記憶が戻ったあの日からが、怒涛の日々すぎたのだ。
だからって、ゲームみたいにセーブポイントでスリープモードにして一休み、というわけにもいかない。
ーーだから、レオン様の誕生日 兼 婚約披露パーティーの日は、(私の感覚では)すぐにやってきた。
前夜、招待は受けていないがお祝い申し上げたい、という下位の貴族や商人、招待は受けたが何らかの事情で当日には列席出来ない方々 との前夜祭が開かれた。
当日広間に入れる人数は限られるからこうして調整するのだ。
前夜祭、といっても仰々しい夜会形式ではなく夜のお茶会といったところ。
午後遅くに始めて軽く挨拶して好きにフィンガーフードを摘んで、お茶でもワインでもカクテルでも、好きに手にして歓談し、暗くなったら早めに御開きにする。本番は明日なのだから当然だ。
お茶も綺麗な色のノンアルコールカクテルもフィンガーフードも、
"今日の為に"
と誂えられたカクテルピンクではあるがわたしがまだ14才である為ふわふわしたピンクのドレープで覆う事で初々しさを演出した作りになっているドレスも素晴らしかったが、こういった席で初めて横に立つレオン様が何というか…妖しすぎてあてられた。
ただでさえ迫力の美形なのにそれに王子の正装が拍車をかけていた。それに時間やこういった席のせいもあるのか、漂ってくるフェロモンが凄まじかった。横に座ってるだけでもビシバシ感じたもの、これもう妖気だ。アヤカシだ。
出席者たちは一旦レオン様の迫力にのまれはするもののにこやかにお祝いを述べては目の前を辞して行く。
みんな平気なのかな?
この妖気 (みたいなオーラ)浴びて。
ー感じてるのは私だけではない筈だ。
だって先程部屋に迎えにきたレオン様の正装姿があまりに綺麗だったから
「っ!レオン様!素敵です!」
といきなり発してしまったら目の前のレオン様が一瞬虚をつかれた顔をした。
が、すぐに破顔して
「ありがとう。君に手放しで褒められるのは嬉しいな。だが、こういう場合は私に先に言わせてくれないか?ーーとても綺麗だ、セイラ。愛しい婚約者どの。早く結婚したい」
と手を取って言われて大赤面しただけでなく倒れそうになった。
やばい。ゲームのスチル画面と違って本物の王子様の破壊力半端ない。
というか、支度を手伝ってたメイドの1人が実際に倒れた。
「まあまあこの子ったら…申し訳ありません殿下がた」
と顔色一つ変えずにこやかに頭を下げて他のメイド達に運ばせるベテランメイドに倣って生暖かい視線を投げるメイド達が普通なのか、倒れた子のほうが一般的なのかー
ーー私にはわかりかねる。
が、
とにかくヤバいフェロモンを発してたと思う。
いくら王子の正装が美しいといってもこれ、尋常じゃない。
エスコートは完璧だったし、皆私が疲れないように気を配ってくれたのだが、何だか私は生気を吸い取られたようにとても疲れた。
会場を辞した帰り、こちらからは見えない場所で見張っていたらしいユリウスに
「さすがですね、セイラ様」
と心底感心したように言われ
「?」
となったが
「いえ。…やはり無自覚なんですね。お疲れ様でした」
と珍しく(?)誠心誠意労われ部屋まで送られた。
今日はレオン様の宮でなく王宮の客室に泊めていただく事になっている。
明日の会場では最初からレオン様にエスコートされて出るのではなく、レオン様の誕生祝いの席に呼ばれてから出ていく形になってるのと、既に宮に入ってる等といらぬ誤解を避ける為だ。確かに宮には私の(知らないうちに出来ていた)部屋があるが住んではいない。この式典が終われば(たとえ寮に戻るまで数日しかなくとも)ローズ伯爵家に戻るつもりだ。
レオン様の宮に入るのは、結婚式の後。そう決めている。
補足
回復・治癒魔法の使い手→実は魔法使いの50%近くが使える魔法だがほとんどが軽い怪我や回復の手助け程度。使い手が少ないとされてるのはこれをメインにしてる魔法使いが少ない(ゲームで行ったら攻撃レベル0のまま回復レベルだけマックスにするようなものなので)からであって、魔法自体は珍しくない。故に"回復魔法師"を名乗るタイプは攻撃魔法が得意でない場合が多いがどちらにしろセイラのレベルの使い手は確認されていない。
ミラーの使い手→20%程度。相手の攻撃を跳ね返す=防御がそのまま攻撃を兼ねる為 割と重宝されるが、確実に跳ね返せるのは自分と同等かそれ以下の魔力とされているので実戦では微妙。だが実は敵の攻撃発動に完璧に呼吸を合わせてフルパワーで張ればより上位の魔法でも跳ね返す事が可能。尤もタイミングよく発動しなければまともにくらって終わりというリスキーな使い方なので普通は余裕を持って敵の攻撃より前に発動させて少しの間保つのが普通。当然だがドラゴンに対して(それも単独で)の使用例は(セイラがやった事はなかった事にされてるので)今までにない。