大人のけりのつけ方とお見送り
この辺りは先月中に投稿予定のつもりだったのに遅れに遅れてて申し訳ありませんm(_ _)m 機種変前に書けるだけ書こうと思ってます。よろしくお願いします!
時は少し遡る。
ドラゴン襲来の少し前、レオンは国王である父と秘密の場所で対峙していた。
「こんな所に呼びだして何の用だ、レオン」
「面倒なので前置きはなしです、随分私をみくびってくれたものですね父上?」
「…何の話だ」
顔色を変えずすっとぼける様はさすが為政者と云うべきだがあいにくこの時レオンの機嫌は最悪だったーーこれまでにないくらいに。
「セイラの事です。よくもまあ私がセイラを妃にする為にあらゆる手段を講じた事を知っておきながらあんな真似をしてくれましたねーーただですむと思わないで下さい」
「…国益の為にした事だ」
「単なる口約束、正式な書面もなく、あちらがもたらす情報が確実にこちらの利益になる保証など何もないのに?」
ぐっ…と国王が口を詰まらせる。
「まあ、過ぎた事を言っても仕方ありませんーーそれでセイラの機嫌がなおる訳でもなしーー私の機嫌もですがーーああそうそう、今回私の婚約者にふざけた真似をしてくれたお礼に父上のほんの数人いらっしゃる妾の方々には私から連絡しておきました。皆さん父の妾妃は自分だけだと思ってたらしくて次に他の妾妃の方にも知らせないといけない と言ったら顔をひきつらせてましたがーーあ、あとお祝いを用意しておいた方がいいとも言っておきました、じきに他の妾妃の方に子供が生まれるからと。祝祭の夜は母上がいないのを良い事に早々に会場から抜け出してお楽しみだったようでーー前夜の騒ぎを知らなかったのも道理ですよねぇ父上?」
にっこり笑いながら告げられたセリフに国王はものの見事に真っ青になった。
対するレオンの背後はブリザードだ。
「…はやく対処にはしらないと刃傷沙汰になるかもしれませんねぇ?まあ、身から出た錆ですし仕方ありませんよね」
爽やかにその場を去るレオンを前に一旦凍りついた国王は一瞬後身分柄も考えず走りだした。
レオンの前から這々の態で走りだした国王は自身の忠実なる僕がいる居室へと急いでいた。
だがーー、
「そんなに慌ててどちらへ?国王陛下」
先程のブリザードと変わらぬ冷たい声が掛かる。
「ス、ステラ…」
おそるおそる振り返ればそこには先刻まで留守だった筈の第1王妃が恐怖の魔女王然とした、…いや嫣然とした笑みで立っていた。
思わず後ずさる国王の背後でコツン、と冷たい足音が国王の足をさらに止める。
「私もお聞きしたいですなあ、何でも愚にもつかない口約束の為に我が娘を隣国に身売りしようとなさったとか?」
猛禽類を思わせる瞳をギラつかせてローズ伯が立ち塞がる。
「ひっ…」
ならば横道へと逃れようとした先にはーー
「どこへ行こうとしてるのですか?ーーダリウス」
「は、母上…」
病床に伏してるはずの王太后がこちらも凄まじい笑みで立っていた。
「レオンからの知らせをきいて耳を疑いましたわ、まさか息子の婚約者を隣国に売り飛ばそうとなさるなんて」
「一体我が娘にどのような落ち度があったのでしょうな?詳しくお聞かせ願いたい」
「もちろん私にも、詳しく説明して下さるのでしょうね?ダリウス」
三者三様、言っている言葉だけは殊勝だが声音は殊勝どころではない。横道はもうない。国王の背後にあるのはもはや壁だけだ。
それこそメデューサのごとく目力だけで射殺さんばかりの迫力で三方を囲まれ国王は真っ青になってぶるぶると震え出した。
誰か助けはいないものかーー
辺りを見回すも周囲には人影もない。
もちろんこの面子が人払いをしてないわけがないから、いる筈がない。
いても多分止めないだろう。
実際先日の出来事で国王の評判は急落している。レオンは3人いる王子の中で最も目立った実績の多い王子であるし、あれがこの3人がいない間に国王の独断専行で行われた暴挙だと皆気付いているからだ。
ーー故に数分後、弱々しく憐れな悲鳴が辺りに木霊してもーー駆け付ける者はいなかった。たまたま駆け付けられる範囲にいた者も、素知らぬ顔で聞かない振りを貫いたのである。
手綱は無事、結びなおされた。
ーー凄まじい破壊音と振動が城を襲ったのは、その直後の事だった。
翌日、良く晴れた朝も遅い時間にトラメキアの一行を見送るべく竜の森にほど近い場所に国王夫妻を筆頭に王族、貴族、騎士団が大隊を形成していた。
空飛んで帰るのになんでこんな見送りが必要なのかーー
ーーそれはここ一連の騒ぎ(婚約者横取り未遂からドラゴンの襲撃まで)はそもそもトラメキアのせいじゃないか?と見る向きがあるからだ。
求婚の意図はセイラ本人にしても全くわからないままだがドラゴンマスターはドラゴンを意図した場所に誘導出来るーーという仮説とあの襲撃時トラメキア勢は友好国の危機、それも自分達が今世話になってる城の非常事態にも関わらずーー全く駆け付けて助力する姿勢がみられなかった事からーーあの襲撃も自分の要求が通らない苛立ちと見せしめを兼ねたトラメキアの企みだったのではないか?
という説とトラメキアの歴代国王の所業を鑑みれば警戒はしてしすぎということはない。
ーーという事で見送りとは名ばかりの見張りがほとんどというーーしかしこれはやりすぎではなかろうか?
現在、私とレオン様とその従者とユリウスの周りを、騎士団の大隊が囲んでいるのだ。
見送る相手がほとんど見えない。
別に見たい訳じゃないけど。
ーいいのか、これ?
「国王夫妻が目の前で見送りの言葉を述べているのだから問題あるまい。気にするな」
「………」
そりゃまあそうですけど。
「レオン殿下の言う通りです!黒太子の狙いは姫様!我ら騎士団、姫様には指一本触れさせません!」
「………」
ーはぁ、気持ちは嬉しいですが。いつの間にか騎士団に”姫様”が定着している。前はお兄様について行っても”ローズ伯令嬢”だったんだけどな?
そう、昨日あの騒ぎがおさまって宮に戻って数時間後、宮に騎士団員が訪れ面会を求められたのだ。
一旦は「セイラ様はお疲れです」と断ったらしいのだが「どうしても一言お礼を申し上げたい、自分はこの宮には一歩も入らない、この入り口が見える場所に姿さえ見せて下されば良い」
との懇願に渋々リリベルが応じたそうなのだがーーその騎士団員ー名前は知らないがーは私をひと目みた途端「妃殿下っ!わざわざお越しいただき申し訳ありません!」と叫んだので私は「?」私の後ろに妃殿下のどなたかいらしてるのか?
と背後を振り返ったところユリウスに吹き出された。ーーなに 失礼じゃない?
とユリウスを睨むと
「し、失礼しました…」
ゲホゲホむせながらユリウスが畏る。そして、その騎士団員の耳元に何事か囁いた。
すると、
「! し、失礼しました!姫様、先程は私めの怪我を治していただきありがとうございました!姫様があの場におられなかったら私はあのまま死んでいたかそうでなくても騎士を続ける事は出来なかったでしょう。まことにー」深々と頭を下げながらの口上に ご丁寧にどうも。
とは思うがここは令嬢、いやお姫様モード?で対応するべきだろう。
「私は私の為すべき事をしただけです。礼は受け取りました。この国は貴方がた騎士がいなければ成り立ちません。これからもよろしくお願い致します」
「は…はっ!不肖ながらこの騎士カルロ、命ある限り殿下と姫様を御守りさせていただきますっ!」
いや、命ある限り仕えなくても…こういう実直な人には是非穏やかな余生を送ってもらいたいものだが騎士って定年ないんだっけ?
私のそんな考えに気付く事なく、騎士カルロはどこまでも恭しく退がっていった。
ーーなんか、水戸黄門になった気分だ。
ーレオン様の婚約者としては、間違ってなかったよね?
横でユリウス、やっぱり笑ってるけど。
書きたいエピはいっぱいあるのになぁ…時間、足りない…