悪役令嬢、おまじないを唱えながら眠りにつく。
王城とかお城とか王宮とか、ざっくりですが
王宮、宮廷=国王が住んでて主なメイン行事はここ、1番広大
王城=王宮を含め周りに点在する王妃の宮、王子の宮、使用人の館全部ひっくるめた城塞内
て感じで書いてます。因みにそんな区別は一般には馴染みがないのでひっくるめてただ”城”と呼ばれる事が多いです。
ーーーこんな少年のような笑顔の殿下は初めて見た気がする。
驚くと同時に見惚れる。
「どうした?」
「いえ…、」
まさか見惚れてました、とは言えず話題を探す。
「あの、隠密と風紀委員って…」
もしかして繋がってたりしませんか?唐突かもしれないが会長が口にした時から気になっていたのだ。
「あぁ、さすがに恋愛ごと以外は鋭いね?」
と苦笑される。
恋愛未満小娘に無茶言わないでください。
「君が察してる通り、風紀委員と隠密は同義だよ。あの学園は隠密の実地研修と任務先を兼ねている」
生徒も教師も使用人も誰でもアリか。都市伝説かと思ったらとんだ伏兵がいたものである。まあ、助けられたけど。
ーーーん?まさか。
ちら、と殿下の方を見やる。
「怖いな。君が逃げないと約束したら絶対逃げないのはわかってはいたけど実際連中に害される危険性もあったんだ、護衛も兼ねてだよ。ーー君が相談してくれれば大っぴらに付けられたんだけどね?」
ーーー私が王族と同等ってそういう意味か。やっぱり、抜け目なさすぎて怖い。
「さて、では君の部屋に案内させよう」
「私の、部屋?」
なんだそれは。
私の疑問には構わずに
「あぁ、その前に」
殿下は隣室への扉を開けた。
あのバルコニーの部屋だ。
前に見た時と様子が違う。家具が片付けられている。
殿下がバルコニーを開けると僅かな灯りに照らされた庭園の薔薇が香った。
「これからは好きに出入りするといい。結婚式までにはここは主寝室に改装させるから」
「?!」
「ここを挟んだ向こうの部屋が君の部屋だ。一通りの物は揃えてあるが足りないものがあったら言ってくれ」
ここを挟んで、続き間が互いの部屋、って…目眩がしてきた。
殿下が呼び鈴を鳴らすと、メイドともう1人、端整な顔立ちで黒髪の青年がドアをノックして入ってきた。殿下と同じか少し下くらいだろうか?瞳は深い青だ。
メイドは先程別れたリリベルだ。
「リリベルはわかるね?ここでの君の世話は彼女に一任してある。家から連れてきたいメイドがいたら何人でも呼んで構わない。足りない分はこちらで手配する。彼は君の護衛だ。ユリウス、挨拶を」
「お初にお目に掛かります。お会い出来て光栄です、ローズ伯爵令嬢。ユリウス・ゴートと申します。これから姫様付きの護衛長を務めさせていただきます。不安な事がございましたら何でもお申し付け下さい」
まずはその堅っ苦しい話し方と姫様扱いをやめて下さいーーと言ったら駄目だろうか。
私はいたたまれない。
「こちらこそよろしくお願いします…あの、ゴートさんは、」
「ユリウスで結構ですよ、姫様」
「ではーー、ユリウス、私の事も、」
「ダメだ。私と家族以外の男が呼ぶ事は許さん」
だからって”姫様”は嫌です殿下。
「ではセイラ様と。ご成婚するまではその方がよろしいのでしょう?」
くっく 、 と笑いながら言う。殿下が苦虫を噛み潰した顔になる。仲が良い証拠だ。
ユリウスも笑うと大分気安いお兄さんみたいになる。
察しの良い人で助かった。
「ユリウスは、お幾つなんですか?」
「22です。殿下の留学先で知り合って雇って頂いたんですよ」
「腕は保証する。性格は少々難ありだがな」
「殿下に言われたくはないですが」
お兄様以外とこんなくだけた口調で話す殿下は初めてみるかもしれない。
「おふたりとも。セイラ様が困っておいでですよ」
いや、珍しいから見入ってただけなんだけど…
「…すまない」
「申し訳ありません、セイラ様」
「…いえ」
ばつの悪そうな2人にリリベルは容赦がない。
「では、殿方はここまでです。セイラ様はお疲れなんですから早く休ませて差し上げなくては」
リリベル…強い。もしかして彼女も隠密だろうか。
「そうだな。ではおやすみ、セイラ」
「は、はい。…おやすみなさい、いえ失礼します殿下」
軽く礼を取ると
「ペナルティ1」
「え?」
「名前で呼べと言ったろう?殿下は禁止だ」
禁止って…
「すみません、レオン様」
「おやすみ婚約者どの」
と額にキスをおとされる。
「っ!!」
ひ、人前でいきなりなんて事してくれるんですかっ⁉︎
羞恥で真っ赤になるこちらに構わず
「次間違えたらこんなもんじゃすまないからね?」
不敵な笑みを浮かべて自室に戻っていく。
調子が戻ったようでなによりだが、注目されて当たり前の殿下と一緒にしないでほしい。
そしてリリベルに促され部屋に入ってすぐ、再度私は固まった。
必要なものを揃えてある ーー どころではない。実家の自分の部屋よりずっと広く格調高い家具で埋められた部屋はどうみても私好みのもので固められている。カーテンの色や小さな置物ひとつに至るまで。
「ーーーー」
驚きに固まる私の心境を知ってか知らずかリリベルは
「こちらが衣装室です」
衣装ーー室?
なんだかヘンな単語をきいたような?
「セイラ様はまだ成長期なので数は随時揃えると仰って、まだ少ないのですが」
というリリベルについて行くと巨大ウォークインクローゼットみたいな部屋にほんとになっている。
「部屋着はこちら、お茶会用はこちらです。小物類はーー」
ちょ、ちょっと待って!既に結構な数あるような気がするんですけどっ!
て、いうかそれ以前に。
「あの、これ、ほんとに私用、なんですか…?」
「勿論すべてセイラ様用にオーダーメイドで誂えたものでございます。あの…、お気に召しませんでしたか?」
気遣わしげに言われてしまう。
「い、いえ。ただ…びっくりして」
「殿下がセイラ様がいつこちらに滞在される事になっても不自由がない様にと。こちらが夜会用でございます。サイズは今のセイラ様に合わせてありますので問題ないかと思いますが着てみて窮屈なところなどございましたらすぐお申し付け下さい」
採寸に何度も来てたのってこれの為か…!
か、帰りたい…ドレスはどれも素晴らしい出来映えだがもう目眩しかしない。
”何がなんでもここに迎えるつもりだった”というあの言葉の本気さが嫌でもわかる。確かにこれならいつ閉じ込められても不自由はない。いや、閉じ込められたいワケじゃないけど。
とにかく1人になりたい、でもってベッドにダイブしたい。
「ありがとう、リリベル。でも、もう休みたいから1人にしてもらえるかしら?」
「畏まりました。では、夜着はどれをお召しに?」
忘れてた、このドレスは1人じゃ脱げないし着替えないとダイブも無理だった。
そんな私の心中に気がついたのか
「…こちらの部屋の物は全て殿下が手ずから選ばれたんですよ」
「っ……」
「セイラ様がこちらのバルコニーから眺める薔薇を特にお気に召したから とこの宮を買い取られ、ご自分の宮にと改装されて」
「え…じゃあお茶会がいつもここだったのって…」
私がここの薔薇を好きだってだけじゃなくて、
「ここの宮に使用人以外で入れる女性はセイラ様だけです。あのバルコニーも」
驚きすぎて声も出ない。
確かにあのバルコニーでの最初のお茶会は他にも人がいたのに次からは殿下と2人きりで、最初はびっくりしたけど殿下は他のご令嬢がたは都合が悪いから気にするなってーー
「殿下はセイラ様をここにお迎えする日を心待ちにしていたんですよ。今日だって、セイラ様に危険が迫ってたとはいえ自ら出向かれたのは実はセイラ様のデビュー姿が見たかっただけだろうと…」
とリリベルは苦笑する。
「………」
わざわざ王宮近衛連れてきたんだからそんなこったろうとは思ったけど。どうせ夜会の後会う予定だったのに。
どう返したものかわからず沈黙してしまう。
私はかなり情けない顔になっていたと思う。
「…おしゃべりがすぎましたね。申し訳ありません」
リリベルに夜着を一揃い出してもらい、ドレスを脱ぐのを手伝ってもらってから湯浴みの手伝いは固辞して下がってもらった。
疲れてはいたが先程殿下…いやレオン様に付けられたキスマークだらけの(ドレスを脱ぐだけでも充分見られただろうが)身体は人に見せられたものではない。
鏡にうつして見るとどれだけ容赦なく付けられたかよくわかる。
「結婚式までは手を出さない」宣言と共にされる行為がこれってどうなんだろう。
王族はあれが普通なのか??
そんなワケはないが前世今世含め恋愛だの婚約者だの、さらには王族との結婚 なんてものは縁遠いものと決めてかかってきたセイラには正解がさっぱりわからなかった。
とにかく、殿下、でなくてレオン様に余計な口実を与えないよう、私はひたすら「レオン様、レオン様…殿下は禁止」と呪文のように唱えながら眠りについた。
やはり緊張が続きすぎて身体は疲れていたらしく、ベッドの寝心地の良さも手伝ってすぐに寝付いてしまった。
このまま終わりません。
因みにレオンは個人資産持ちです。




