…からの、断罪宣言。
断罪イベント、閉幕します。
「ああ、お前らの勘違いはそこからか?確かに彼女が初登城したのはお前の10才の誕生祝いに年の近い貴族の子弟が集まった時だがーー覚えてないのか?まあ、(脳みそが)小さかったから無理もないか。彼女はお前と一言挨拶を交わしただけでその後はずっと私と話していたんだぞ?」
「え?」
慌てたように私の方を見る。まさかほんとにあのまま私が自分の候補に混じってると思ってたんだろうか。
いくら小さかった(ていうか小さかった、だけやたら強調しましたね殿下?)とはいえーーいや、私も同じ年なんだけど。正直、いくら天使の如き美貌でもこの人あんまり好きじゃないなあ。としか思わなかったんだよね、レオン様に比べたらただの甘やかされたボンボンだし?
だからレオン様に話しかけた。あまりに綺麗な人だったから。
でも、ほんとに私が婚約者??
「それに、生徒を突き落としたのはお前達だろう」
「っ…」言い返そうとしたラインハルトを制しキャロルが口を開く。さすがヒロイン、立ち直りが早い。
「おかしな事を言わないで下さい、レオン様も見ておられたでしょうっ?彼はローズ伯令嬢に突き落とされた とはっきり証言したではありませんか!」
「この学園には王室から秘密裏に隠密が派遣されている。全寮制という閉ざされた空間で王族があらぬ危機に遭ったりまたそれに生徒や教師が巻き込まれたり、王族自身がいらぬ企みを働いたりするのを防ぐ為にな?」
「なっ」「嘘っ!」
「秘密裏だからな、当然本人にも知らされない。だが報告は常に来ていたぞ?お前が王族だという事を利用しまたその友人とやらも随分横暴に振舞っていたようだな?その隠密からの報告にあったぞ?お前達があのノーマンとかいう生徒を階段の踊り場で何やら問い詰め、それに後ずさった彼が階段から落ちたと」
「あ、あれはわざと落とした訳じゃー」
「そうです!彼が勝手に自分の不注意で落ちたんです!」
ーーー大体わかったけど。もう真相ダダ漏れだがいいのかそれで?頭大丈夫か、この2人?
「つまり、セイラに冤罪を着せようとした事は認めるんだな?」
「「ーっ……」」
ラインハルトにはばつの悪そうな、キャロルに至っては苛烈な憎悪の瞳を向けられる。
殿下がその視線から庇うように私の前に立つ。
「ついでに言っておくがーー私はこの件に関して全ての権限を国王陛下から委託されている。彼女への侮辱、冤罪、婦女暴行未遂、その他諸々すべての証拠は国王始め貴族全員に通達され、お前達の罪は白日の元に晒される。ーーー生きてるうちに贖いきれると良いな?」
その声は、地獄の使者のうたい文句のように、冷たくその場に響いた。
取り巻きは言うに及ばず、ラインハルトでさえ声を失った。
が、
「…で、…」
キャロルの押し殺した声が響いた。
「なんで、あんたなのよ…」
ヒロインの自分ではなく。
そう言ってるのが私にはわかる。
私もヒロインが怖かったから。
このゲームに逆ハールートなるものは存在しない。何人落としても卒業と共にプロポーズされるのは1人、1番互いの好感度が高く上がった相手にプロポーズされ、他の攻略対象は友として君達を支えるよ。と祝福されエンドロールとなるのだ。
攻略対象が王子以外なら悪役令嬢を断罪してもしなくてもこのラストは変わらない。
だが、攻略対象が王子の場合ラインハルトとルキフェルならこの学園が、レオンハルトと第一王子なら王城が、攻略対象との仲を深める舞台となるが、誰を対象にしても私はヒロインの邪魔をする悪役令嬢として立ち塞がるのだ。
ーー悪役令嬢、働きすぎじゃね?
と前世の私はツッコんだものだがーー
だから私はこのイベントが終わるまで登城するのを控えさせてもらったのだ。
うっかり城でヒロインと鉢合わせすればイベントが強制発動してしまうかもしれない。
それに万が一でも ーーーレオン様がヒロインに惹かれていく場面なんて見たくなかったから。
けれど、学園ではラインハルトにべったりのキャロルは城へ行ってはレオンにまとわりついているという。どちらが狙いなのかが良くわからない。気にはなったが、レオンには元々年の近い候補が周りに沢山いる。ヒロインだからといって易々と突破は出来ないだろう、決めるのはレオン本人だ。
そう自分に言い聞かせて。
私だって、必死だったのだ、ヒロインに負けない為に。
そんな事知る由もないヒロインは。
「あんたも!レオン様狙いだったんなら!早く言いなさいよ!そうすればーー」
狙ってない。幼い頃恋した相手が殿下だっただけだ。そしてそれは貴女に関係ない。
「黙りなさい」
私は一歩前へ出た。今度は私がキャロルと殿下との間を遮るように。
「先程から黙ってきいてれば殿下の事を気安くレオン様などとーー何故あなたがそれを赦されると思うのです?ただのいち子爵令嬢に過ぎぬあなたが」
「このっ…!悪役令嬢っ…!あんたさえいなければ!この学園のヒロインは私だった筈なのに!」
無理だよ、貴方には。
すごい形相で掴みかかろうとしてくるが、近衛にがっちり拘束されそれは叶わない。自慢の顔が台無しだ。
どこまで私の邪魔をするの…!
とその表情が言っている。が、次の
「もっと早くに始末しとくんだった…!」
とのセリフにはさすがに私も青ざめた。
始末?さすがにそれは考えなかった。そんな事まで考えてたの?この人?と絶句する。
「ーっ…」
「黙れ」
先程よりさらに冷たい殿下の声が割って入る。背後から腰を抱く腕に力が込められる。不思議だ。あの時と同じ仕草、同じポーズなのに。あの時はあんなに怖かったのに。今は怖くない。むしろ安心感さえ覚える。
私はキャロルを睨みかえす。力をこめて。
「私がレオン殿下の婚約者候補になったのは10才の時。貴族の方なら皆知ってる事ですわ。誰でもいい貴女の近くにいる誰かに確認する意思さえあればすぐにわかったはず」
だって隠してないもの。単純なリサーチ不足だ。
「………」
「貴女がただラインハルト様が好きなら。最初に確認すれば良かった。そして私に余計な手出しなんてしなければ」
こんな事にならなかった。
けど違った。貴女はラインハルト王子もレオン様も籠絡しそして学園の”ただ1人のヒロイン”として君臨したかった。それにはきっと悪役としての役目を果たさない私が邪魔だった。
ーーーラインハルト王子を狙うだけなら私は何の障害にもならなかったのに。
「なんでよ…なんで!なんでなんでなんでみんなあんたが…消してやる!消してやるんだからあんた達なんか!私はーー」
ヒロインだから?
「貴女には誰も消せないわ」
みんな生きてるのだ、この世界で。転生者だか転移者だか知らないがこの世界は貴女中心には動かない。
「全く…、愚かな娘だな。この場に及んで罪の上塗りをするとは」
ーーえ?という顔にヒロインがなる。多分殿下の腕に抱かれてる私もなっている。
「言った筈だ。セイラは私の婚約者だと。正式な発表がまだでも一部では正式な通達が出されている以上、その身分は王族と同等。子爵家の小娘がそのように罵倒する事は許されない…この罪、軽く済むと思うな?」
静かな声にこめられた怒りが紅いオーラとしてほとばしるような迫力にその場にいた全員が口をつぐむ。
「その娘を牢につなげ!」
殿下の号令に従いたちまち兵が彼女を拘束して連れていく。ラインハルトも取り巻きも、偽の証言をした被害者も。みんな広間からひったてられていなくなった。
ーー断罪イベントが、終わったーー?