お茶とドレスと溜め息と
ここまで生徒会を掘り下げる予定ではなかったですが楽しいです(笑)
「すっかり噂の的ねえ」
あれ以降、すっかり”王妃様の1番のお気に入りはセイラ様” ”婚約者筆頭候補はローズ伯のご令嬢”という噂が(尾ひれどころの話ではなく)背ビレ胸ビレをつけて泳ぎまくっている。
「人ごとだと思って」
「あんなエピソードが出てくるのはそもそも貴女だけでしょ」
間違っていないが
「上回るエピソードで黙らせるのが1番手っ取り早いと思ったのよ。他にどうしろっての、お城の庭園に植わってる花の名前どっちが沢山言えるか対決でもすれば良かった?」
「…それはそれで見てみたいけれど」
などとやっていると後ろからクスクス笑う声がきこえた。
補佐の負担度は半端ない。
ゆえに、恩恵が全くないかと言えば少しはある。
まず、一般生徒立ち入り禁止区域でも補佐含む生徒会役員はフリーパス、門限の延長可能、生徒会室の他に専用の休憩室(要するにVIPルーム)が二つあり、好きに使って良い。設備も調度品も常備されてるお茶やお菓子も素晴らしい。
ランチもここでとったって良いのだが、多少なりとも役員の出入りがないと食堂が特権派の天下になってしまうのと、休憩室と食堂は離れてるので運ぶのが面倒というのがある。ここの食堂は美味しいのだ。
だが、疲れた時はここに愚痴りにくる。防音魔法も完璧だし例え役員が誰か招待したくても役員全員の許可を得て申請し許可が下りなければ絶対入れない。リッツがキャロルを招待しようとしたがもちろん許可は下りなかった。
なので背後から笑い声をかけてきたのはもちろん役員だ。
「…楽しそうですね、生徒会長」
「ごめんごめん、でも、君のお陰で特権派は日々落ち込んでるからね、助かってるよ」
「会長ご自身がやった方が、効果的だと思いますよ?」
「僕はあんな場であんな風に意見は出来ないよーー君ほど頻繁にお城に行ってもいないし?」
「そんなに頻繁に行ってませんよ?」
「王妃様の私室までフリーパスな女生徒なんて他にはいないよ」
「………」
痛いとこを突かれた。だが、自分も知らなかったのだ。学園にきてああいった話を耳にするまで。
自分の登城回数はどうやら多いらしいーーという事に。候補の令嬢は皆似たようなもんだと思ってたから。
「あの方達も、ここが使いたいなら成績あげれば良かったのにねえ?」リズが言う。
「…出来ないからああするしかなかったんじゃない?」
先日、王子から直々に寄越された抗議文によると一部の生徒だけが特権を享受するのは良くないので自分達にもこの休憩室を開放するよう言ってきたのだ。
「彼らは生徒会が激務だって知らないからねぇ」
会長が飄々と笑う。
その点は同意だ。
ここの成績はペーパーテストと魔法実技の合計で競われる。
王子もキャロルも魔力は決して弱くない。それで合計が中の下というのが残念すぎる。
補佐は成績関係ないとはいってもただし勉強に影響が出ないレベルに限るという注釈がつく。
要するに、生徒会の仕事が成績に影響しない、または多少下がっても問題ないレベルが求められる為実際は中の上以上が求められる。
リズも私も成績は上位だ。生徒会役員は最初の成績で決まってしまうが補佐は交代がきく。特権が欲しいならせめて補佐に何人か送り込む くらいの根性は見せて欲しい。
それに、この国の王太子はまだ決まっていない。我が国は長子継承ではなく、現国王の指名制である。国王自身もまだ若い為か、王太子を指名する様子はない。
が、ラインハルトを見てる限り新興貴族は不安しかないだろう。
「風紀委員が動いてくれればいいんだけどねえ」
「「え?」」会長の言葉に私とリズの声が揃う。風紀委員というのはこの学園にはいない。というかいないとされている。その役目は生徒会の手に余る事態を可及的かつ適切に処分する事。だが、そのメンバーは極秘とされ、教師にすら知らされないとか…てっきり、都市伝説の類かと思っていた。
「会長、知ってるんですか?」
堪らずきくと
「いや?まさか。いたらいいなーと思っただけ」
「………」
私とリズはジト目になり、会長のお茶も入れずに自分達の分だけ片付け部屋を辞した。会長は苦笑いしていた。
夏の祝祭が近付くにつれ、生徒達もざわつきだす。特に女生徒達からはドレスの話題が頻繁にあがるようになった。
平民の生徒にはレンタルドレスもあり、申請は自由。だが選ぶ順番は抽選だ。皆申請書にサイズと希望の色を書き込み、後日何日の放課後レンタルドレスルームに来る様にと指定された通知書が渡される。友達と被らない様に皆情報交換に必死だ。
ーーー私やリズは勿論オーダーメイドだが。
「貴女は何色にするの?」
「一揃い、贈って頂く事になってるのだけど…、」
殿下から。とは言えない。
実際あの後何度か採寸師も来て詳細にサイズを測っていき、
「髪飾りからドレス、小物まで全て調えてお届けします。髪型については当日手伝いに寄越すメイドに詳しく伝えておきますので。では」
と頭を下げて帰って行ったのだが、出来上がりを楽しみにお待ちください、と言われ色は教えてもらえなかった。至れり尽くせり過ぎてちょっと不安だ。
そんな任せきりでいいのか?
一応お父様にきいてみたが
「ああ、私もお母様も殿下からきいている。問題はないよ」
と言われてしまっては自分でこっそり予備を用意するわけにもいかない。
「…見てのお楽しみだって、色は教えてもらえなかったの」
「へえ?」リズが面白そうな顔になる。
まさか、バレてないよね?贈り主が殿下だって。
「届いたら真っ先にリズに教えるわ」
「いいわよ、別に。私にも当日サプライズってことで。色が多少被ったってデザインは被りようがないもの」
さばさばした口調で言われ、まあ、そりゃそうか。と思う。
金髪のリズと黒髪の私ではそもそも似合う色が違う。
というか、黒髪は金髪と違って似合う色が限定されがちなのだ。下手に淡い色だと黒髪に負けてぼんやりした印象になってしまう。
殿下はそれを良く知っている筈だがーーー最近、キャロルのシンパが私の周りをうろつく頻度が高い。何か企んでるのは確かだが、忠義に厚い隠密とかが味方にいるワケでもない私は、いつも通りを装うだけで精一杯だった。
祝祭まであと数日、と迫った頃に漸くドレスが寮に届いた。
「すまない。ちょっと届けるのが遅れる」という旨のメッセージが届いてはいたがやはり不安だったのでホッとした。私は屋敷に使いを送った。試着するのにメイドの手を借りなければならなかったからだ。
寮に使用人を連れて来るのは禁止だが、祝祭の準備に限り来てもらうのは許可されている。さすがに全員のドレスアップに寮の使用人だけでは手がまわらないし、むしろ寮仕えは平民達の支度にまわし、貴族令嬢がたは実家から使用人を寄越してもらうのが慣例となっている。
私は実家で私付きだったメアリとレイアに来てもらう事になっていた。
メイドが来る少し前に、ドレスの箱を開けて見、私は息を呑んだ。
これって………
私が呆然としてる間に、メイド2人が到着し慌ててドアを開け、部屋に入ってきた2人も開いた箱を見て同じく息を呑んだ。
「まあ…!お嬢様!素晴らしいドレスですわね!」メアリが心底感動したように言う。
「本当に…お嬢様にぴったりですわ。なんて鮮やかな色合い…これなら絶対、夜会で1番美しいのはお嬢様ですわ!」レイアも興奮気味だ。
「…本当に。でも、なんだか気後れしてしまうわね…」
メイド達は口を揃えてそんな事はない、これはお嬢様にしか着こなせないなどと言ってくれるが。
確かに素晴らしいドレスだ。誰かと被ることはまずない。というか多分あり得ない。
ーーでもって、すっっごい悪目立ちしそうだ。うぅ、大人しめなデザインでって言っといたのに…
いや、確かにデザインそのものは肌の露出も少ないしシンプルに仕上げられてはいるのだがーー私には大人っぽすぎやしないだろうか?
鏡に映った自分を見る。
155センチ、全体的に瘦せ型、足も別に短くないしウエストも細い。ただ、胸が標準体型の女性なら普通なのだろうが小柄な自分にしては大きい。制服の時はそんなに気にはならないが、夜会用のドレスでは無駄に目立つ。バランス悪いなあ、と憂鬱な溜め息を一つついたら、お嬢様!なんでこのドレスを前にしてその溜め息なんですかっ!と怒られた。ごめんなさい。
さっ、試着しますよ!
とメイドに急き立てられて着てみたドレスは私にぴったりで、私はさらに気後れした。
ーーーだって、幾らなんでも。
セイラのBサイズは(推定)Dカップ(ついでに未だ成長期。身長もあと少ーし伸びる予定)です。
休憩室は一般生徒立ち入り禁止区域にある為移動に時間がかかります。
それに話してる最中に他の役員(↑会長みたいに)が休みに入って来る事もあるためセイラとリズは二人きりで利用出来る図書館の個室の方がお気に入りです。なのでどうしても使いたい時は、どちらかが早起きして予約にダッシュします(笑)