#零二「惨劇と狂人」
テッスト前!はい、テッスト前!
わはははは!
テストだ!試験だ!終末だ!
嘗ては学業ブロックと呼ばれ、多くの学生や研究員が切磋琢磨していたその場所は、今では瓦礫の山だった。
いや、厳密に言えば、高層ビルの骨組みは残っているし、その中にいた人間も、僅か1%にも満たないが生存していた。
最も、生存しているだけで、動ける状態には無いものが殆どなので、その数も確実に減って行くのだが。
◇
学業ブロックで生き残っていた僕は、ルドラが消えた後、取り敢えず建物を出てみた。しかし、……
「……あの攻撃で、皆死んだのか?」
街だったものには、最早誰の姿も見えず、それでも人の存在を感じられるのは、自分の傷の痛みと、微かに鼻腔をくすぐる鉄錆の香り。これは、確実に血の匂いだ。
道路の真ん中を歩く。そこかしこに自動車があるが、その中に乗っていたであろう人は、皆息絶えている。
具体的に言えば、何かの破片が首を貫通した者、外に出て爆風に飲まれてバラバラに弾け飛んだ者、人の破片が当たり頭蓋骨が陥没した者……
気分が悪くなり、道端に嘔吐する。
何だこれは。まるで地獄じゃないか。
しばらく進んで、リニアの駅に辿りついた。しかし。
「また、血の海か。何も。このフロアにはもう、生きてる奴は……。!」
その時、コンタクト型デバイスに、反応があった。それが示すものは……
「人の……声?」
まさかルドラが戻ってきたのではないか?そう考えた僕は、近くの車 (もう廃車だが)の陰に隠れた。
デバイスが反応した声は、次第に大きく近くなり、自分の耳でも聞き取れるようになった。
その声は、ルドラのような大人の女性の声ではなく、少女のものだった。
だが、聞こえてくる声は、狂っていた。
「アハハハハ!みーんな死んでる!鉄の匂い!血の匂い!ちゃんと死んでる?ちゃんと死んでる!アハハハハ!だーれもいない!生きてない!あるのは肉塊!血の匂い!おいしそう!ちから!力を頂戴!いのちを頂戴!」
デバイスがその声の主を見付ける。
声から想像できるように、小学四年生くらいの女の子。
私立の小学校なのか、制服を着ていて、メガネ型のデバイスを付けている。
本来なら可愛らしいと言っても過言では無いのであろうその顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの上、満面の笑みを浮かべているので、非常にアンバランスに感じた。
今もボロボロと涙を流しながら、狂った表情で狂った言葉を並び立てている。
可哀想に親しい人を目の前で失ったのだろうか、と考え近寄ろうとした僕のデバイスに、-Danger!→の文字。
何かと思い矢印の先、少女の右手を注視する。その手には、彼女には似つかわしくない存在―――――――真っ赤な拳銃が握られていた。
「っえ?」
思わず漏らした小さな声。しかしそれは、狂人と化した小学生の鼓膜を微かに、そして確かに震わせた。
刹那、背後から狂った声が聞こえる。
「見っけ」
僕は、意識を失った。