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性転換

 「と言うわけで、今日からよろしくお願いします」


 キッチリとそろえられた指をついて、エニスはすっと目を閉じると俺の向かいで頭を下げた。


 その数秒後に、俺の頬がひくりと引き攣った。


 「…何がよろしくだ…。何が嬉しくて男と婚約せにゃならんのだ、俺はっ!!お前らもニコニコ笑うな、むかつく!」


 悲観にうなる俺に、だが、目の前のエニスは無邪気に笑う。


 「えー…だって僕は嬉しいもん」


 そいつの周りに花が飛んで見えるが、それは俺の幻覚だ。


 …俺、危ない…。


 「私もだよ、兄さん。これで将来が安定したんだからいいじゃん、ねー!お嫁探しせずに済んだんだし」


 「相手探しするほどまでに俺の結婚が絶望的みたいに言うな。これでも女にそれなりにモテてるんだぞ、俺は」


 隣にいた雛菊がニコニコ笑うエニスに合わせて、俺を間違った世界へ陥れようとするかのように言った。


 それに対し、俺の頬はまたひくりと引き攣ったが、そんなことこの場にいる誰一人として気づいてくれない。


 いや、気にしてくれない。


 話しの中心あるべき俺を隅においやって、二人は和やかに俺にとって嫌な会話をしだした。


 何も知らない奴が傍から見ているとただ華やかな美少女二人が和やかに話しているように見えるが、生憎俺の目には悪魔二匹が悪巧みを立てているようにしか映らなかった。


 ただ愛でいているだけならどんなに目の保養になって幸せなことだろうか…俺は今それをとても痛感していた。


 「わー、僕好いお義兄さんになるからね、雛菊ちゃん」


 「そこ、馴れ合うな!」


 「もー…ヤキモチ妬かなくたって僕は遥一筋だよぉ」


 「あら、ま。羨ましいこと…!」


 「もうお前は黙ってろ、雛菊…。てか、お前はそれでいいのかよ。実の兄が突然やってきた意味の分からない…しかも男と結婚させられて何で笑って応援するの!?」


 「エニスさんが美形だから。」


 真顔で当然でしょうとでも言いたげに即答されてしまった。


 逆にそうあっさりと、簡単な答えを突きつけられてしまうと反論しにくいではないか。


 「わーよかった!僕、美形で。生まれて初めてこの容姿に感謝しちゃうよ」


 「お前もそこで納得するな、馬鹿。暗に容姿しか見られてないってことだぞ」


 「いった…!何するんだよぉ…婚約者に手をあげるなんて」


 「うるさい」


 俺に軽く小突かれた頭をさすりながら、エニスは上目遣いで口をとんがらせて言った。


 「それでもこの顔も僕の一部だもん。それで認められたんならそれで喜んだって別にいいでしょ」


 「…前向きだな」


 「当たり前だよ、馬鹿だね。王が後ろ向きでどうして国を引っ張っていくんだよ」


 「エニスさん、たくましいぃ!頼りになるね、兄さん」


 「うっさい。ンなこと今は全然関係ないだろーが。それよりも…」


 「あ。結婚式のこと?いつにする?」


 今からでも準備さえ整えればOKだよ♪と、エニスは首を愛らしくかしげて破顔したのを俺はすぐさま全力で否定した。


 「ち・が・う!勝手に話し進めんな、変態。いいか、よく聞け。俺はお前とは結婚しない。たとえむこうの国がよくても絶対に男とは結婚しない。絶対だ!」


 「…どうして?」


 「お前が男だから」


 「男じゃなきゃいいわけ?」


 「……少しは考えるかもな」


 「…じゃあ、僕のこの容姿はタイプなんだ?」


 「中身が女ならな」


 その答えに、しょんぼりと落としていた肩をあげて、エニスはあからさまに顔をぱぁぁと輝かせた。


 「じゃあ、僕女になるっ!!」


 「はッ?何言ってんだ、お前」


 俺の当たり前の反応とルルの素っ頓狂な声が衝突した。


 「エニス様っ?!」


 「止めるな、ルル。これもひとえに遥に好きになってもらうため…それならこの命散っても構わない!!」


 首をぶんぶん振ってわざとらしく目尻に涙を浮かべて、両目を眇める俺の目の前でルルは怒りを抑えたような静かな声音で言い放つ。


 「……何言ってるんですか、陛下。そのようなことをされては困ります。お止めになってください」


 「何故?」


 「ふざけないでください…!そのようなこといくら強大な魔力を持ち合わせた貴方様でも寿命が半分は縮まります。ましてや最悪の場合は死んでしまうんですよ…!軽々しくお決めにならないでくださいませ、貴方は魔王なのですから」


 「…なぁ、それってやばいことなのか?」


 厳しく言い諭し、何とか思い留まってもらおうと必死な形相をさらすルルに俺は確信に近いものを感じながら口を挟んだ。


 「………」


 愛想の良いルルから返って来る答えはなく、押し黙るところからしてその術はかなり危険なものだということは魔術やら魔力やら持ち合わせておらず勝手のわからない俺にも十分判った。

 

 けれど、エニスは俯き加減でぎゅっと唇を引き結ぶと、真剣な声音で呟くように零す。


 そのとき、伏せ目がちにされた瞼から覗く翡翠の瞳が微かに揺れたように見えた。

 

 「僕はたとえ一日の命になったとしても女になることで遥に愛されるのなら、別に死んだって構わない。僕は愛に生きる人だからね…」

 

 口元に仄かな淡い微笑を浮かべて、エニスは俺を見た。


 「女になれたら、たとえ先が短くても絶対に好きになってもらうからねっ!」


 そう言って立ち上がったエニスは精神を落ち着かせ、集中力を高めるために深呼吸を何度か繰り返すと、女になるための魔術式に用いる呪文を詠唱しようとする。


 それを傍観しているうちに、警鐘が鳴り出した。


 止めろ、と…止めさせろ、と。


 エニスを見守るルルの顔色がだんだんなくなって土気色になっていく。


 その兄に寄り添うかのようにいるキラも同様に不安げな表情でエニスを見上げていた。


 その瞬間、俺の中で警鐘がひときわ大きく鳴り響いた。


 ドクリと心臓が冷え、喉が渇いていく。


 視線がエニスの口元に集まって、鼓動がドクドクと刻む音を早めていく。


 「…すぅ…」


 深呼吸最後の息を吐く音が小さく聞こえた。


 精神を研ぎ澄ますため、深呼吸の間は閉じられていたエニスの目が開かれた。


 据わった翡翠の眼が空中を睨みつけ、失敗は許されない、という小さなささやきが俺の耳に届く。


 エニスの薄く紅を引いた唇が開かれていくのがスローモーションの如く、ゆっくり俺の目に映る。


 「我は…――」


 エニスの言葉が不意に途切れた。


 誰もが目を瞠る中、いつのまにか俺はエニスの眼前に立ちはだかっていて、エニスの細い両手首をつかみあげていた。

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