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魔王にして婚約者エニス

 「こんにちわ、遥」


 そういって少年はにこりと微笑んだ。


 一瞬、その美しい微笑に見惚れたが、俺は頭をぶんぶんと振って我をすぐさま取り戻した。


 俺をここまで引きずってきたルルがその少年の姿を認めるなり、目を驚きにこれでもかというほど見開き、そして青い顔で叫んだ。


 俺が「なんだ、突然…」と呆然と見つめる最中さなか、そのやり取りは突如繰り広げられた。


 「陛下!!何故こちらに…てか、まさか勝手に城を抜け出してきたんですか?!」


 リビングにまで届いたルルの叫声にも似た声を聞きつけたキラが血相を変えて、そして好奇に満ちた雛菊までもが駆けつけてくる。


 「どうしたんですかっ!?兄様…って魔王陛下!?何故ここに…」


 「なになにぃ〜あれが魔王様?」


 リビングから出てきた二人に少年は一瞥をくれ、雛菊と視線が合うとにこりと笑った。


 「嫌だな、人聞きの悪い。ちゃんと置き手紙を書いてきたよ。きっと今頃読んでるさ」


 ルルの驚愕の声も視線もさらりととても神々しい笑顔で受け流しながらいう少年にルルは今度こそ顔色をなくした。


 「な…それを無断で出てきたというんです、陛下!!何のために今僕がここにいると思ってるんですか?!」


 「僕の婚約者を迎えに?」


 「…お解りになられているのならおとなしく城で待っていてくれても良いでしょう!あー…もっと御自分の立場を御自覚ください、頼みますから…」


 額を押さえる姿は実に痛々しく、そしてこの陛下と呼ばれる少年にいつも手を焼いていることがそれとなく知れた。


 「みんな、もう絶対慣れたって!僕が城抜け出しても驚かないよ」


 「そうかもしれませんが、呆れます。貴方って人は…」


 はぁと呆れてため息をつくルルに、とりあえず話しの収拾がついたとみたところで俺は声をかけた。


 「なぁ…あれ誰?さっきから陛下陛下って言ってるけどなんなの、一体」


 「ああ…すみません。御本人が勝手に現れてくださったのであちらへ行く手間が省けました。ので、ここで御紹介させていただきます。あの方が貴方の婚約者で魔族を纏める魔王エニス・クラウン様です。性格はどうであれ、ね♪美人さんでしょう」


 「え、ああ…美人だな。一応聞くけど、あれ女だよな?男の格好してるけど」


 お前達双子も性別と真逆の格好してるしなー、と笑う俺にルルは玄関で立つエニスに視線を向けて「よく見てください」と苦笑しながら告げた。


 「あの方は正真正銘のおのこにあられます。僕たちの場合は特別です。あらぬ思い違いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」


 そういって頭を下げるルルのやけにフリルの多い服の裾(ゴスロリ系の服か?)を引っ張って、俺は言われた言葉を上手く消化できずに頬をひきつらせた。


 「……じゃあさ、おかしくないか?俺も男、あいつも男。それで婚約者…ましてや結婚なんて出来ねーぞ…?」


 俺の頭は正常に働いているよな…。


 あいつらがおかしいんだよな…。


 あいつらがあまりにも堂々としすぎていて自分を疑ってしまいそうになるが、俺は正常だ。


 ちゃんとした考えで、ごく普通の反応をしているのだ。


 なら、やはりこんなことは有り得てはならない。


 俺の心は今激しく嫌な予感を覚えながらそう叫んでいた。


 「はぁ、それですが…――」


 言いにくそうにするルルを遮って、いつの間にか勝手に家に上がっていたエニスは俺の前まで来ると、高らかと誇らしい顔でとんでもないことを言ってのけた。


 「愛があれば性別なんてカンケーない!!」


 さぁ、飛び込んで来い!と言わんばかりに広げられた腕をはたいて、気持ち悪いという言葉とともに俺は後ろへ飛び退った。


 「あるってーのっ!!それにそもそも今日初対面な俺とお前の間に愛なんて物騒なものはない!!」


 「――初対面じゃないよ、遥と僕は。もう、会ってるよ夢で。ほら聞き覚えない?この声の響きに」


 「はぁ?……――」


 「あるんでしょう?」


 勝ち誇ったように、にぃと口角を吊り上げるエニスに俺はうっ、と言葉に詰まった。


 「遥、遥…会いたかった。僕の運命の人!!」


 感極まったふうに瞳を潤ませたエニスが今度は逃がさない!と、ものすごい勢いで突進してきたかと思えば、がばりと俺に抱きついた。


 「っ!!」


 その瞬間、俺の体がぞわわぁ…と鳥肌を立てたのをあいつ(エニス)は知らない――…。

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