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キラ

 「どうしたの、兄さん。そんなところで突っ立って。…顔色悪いよ?」


 「え、あ…そうか?雛」


 難しい表情で家の前――表札を凝視している俺を見つけた妹はやけに弾んでいた足を止め、首を傾げた。


 この妹は俺とひとつ違いの年子で、何事も計画的というか真面目に取り組む努力家で、何事もぎりぎりになるまで焦って取り組まない俺とは対照的な良く出来た妹だ。


 名前は皇 雛菊。


 純和風的な容姿と見事な黒髪を腰辺りまで伸ばし、俗に言うお菊人形……じゃなくて、雪女でもなくて…なんだ?


 ――大和撫子だ!


 …そう。俺の妹・雛菊はまさしく大和撫子の様な奴で、世の男共を見事なまでに魅了し、だが、もったいないことにまだ必要ないと切って捨てる基本が必要かそうでないかで決まる落すのが困難な女である。


 俺は雛菊を一瞥して、そして、少し目線を下げればその隣に並んでいる少女とも取れる少年に気づいた。


 その瞬間、先程家の内側にいた少女が脳裏を掠り、よくよく見ずともその外見が先程の少女と目の前の少年そっくりであることに気づかされる。


 「……ぉ、お前それ、何だ?」


 掠れた声が無意識をついて出た。


 わなわなと人差し指で少年を指した動揺しまくりな俺とは裏腹に、雛菊は『ん?』と落ち着いた風情で目を瞬かせながら答えた。


 「この子はキラちゃんだよ」


 「キラ…?」


 「はい。なんでしょうか」


 繰り返された名に反応した少年が俺を見る。


 俺は信じられないという目でもう一度妹に視線を走らせるが、雛菊は笑いながら首を傾げて何も言ってはくれなかった。


 先程の少女と同じ顔の少年が俺の目に映っている。


 少年の青色の瞳には俺の間抜けな顔が映っている。


 そして、その場にしばしの沈黙が降り注ぎだした頃、やや遠慮がちに少年ことキラは俺に問うた。


 「…あの、貴方は花嫁様の兄君で在らせられますか?」


 「あ、ああ。そうだけど――今なんて言った?なんか変な単語が聞こえたんだけど…」


 兄を意味する丁寧且つ古風な言い回しに、兄の部分でほぼ条件反射で頷いた俺だが、少年の問いの中にまたなにやら怪訝な単語が含まれていたことを知ると訝しげに眉を寄せる。


 そんな俺とキラのやり取りを黙って聞いていた雛菊がそこで俺の疑問に少し味付けを施す言葉を発した。


 「…兄さんのところにも、もう来てるみたいね。キラちゃん、紹介するね。この人は私の兄さん」


 「ちゃん?」


 俺が目をぱちくりさせていれば、キラがはっとしたように頭を慌てて俺に下げた。


 「!――…申し送れました。わたくし、名をキラ・シフォンリーと申します。僭越ながら貴方様のお名前をお聞きしたいのですが…よろしいでしょうか?」


 「僭越?!貴方様!?」


 俺が吃驚仰天して裏返った声を上げれば、キラがびくっと身をすくませて困惑気に俺を見上げる。


 「あ…ごめん。驚かせたな」


 「い、いえ。その様なことは…あ、謝らないでください」


 フルフルと首を振る姿は先程までのような取り澄ました表情とは対照的で、歳相応のものが感じられ俺は何だ、やっぱりまだ子供だなとなんだか微笑ましくなって目許を和らげた。


 「俺は遥。皇 遥だ。よろしく」


 「遥…遥様。…よ、よろしく御願い致しますっ!」


 俺の名を嬉しそうに繰り返して、キラはとろけるような微笑を浮かべた。 

 


 


 

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