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家の中の少女と家の外の少年

 それは黄昏時たそがれどきのことだった。


 「お帰りなさいませ、婿様」


 俺は玄関の扉を開けて、固まった。


 何故固まったかといえば、一点に定められた視線の先にいたのはハートマークを語尾につけた少年のようにも見える少女で、俺を見てうやうやしくこうべをたれた姿があったからだった。


 「お早いお帰りで……――?!」


 「……――」


 少女が笑顔で朗らかに声をかけてくるにもかかわらず、俺はふっと扉を持つてから力を抜き、そして、パタンと乾いた音が数秒後、俺の鼓膜に響いた。


 先程俺が開けた扉の向こう側では、見ず知らずの少女のものと思われるショックを受けた声が轟いている。


 『ちょ…ッ!?何でですか?どうして閉めちゃうんですかっ?!』


 その叫びは外にまで漏れてきていて、俺は再び扉を開きかけたがはっと我を取り戻す。


 流されるな。流されては駄目だぞ、俺。


 あまりにも寂しい叫びに聞こえたから、つい開きかけてしまった。


 まだ聞こえる叫びに再び惑わされぬよう、俺は自分自身に言い聞かせる。


 「俺は家を間違ったんだ、きっと。うん。そうだ。そうに違いない。も〜、俺ってばドジなんだから!テヘ★☆★」


 扉を開けて見たものが多かれ少なかれ衝撃的だったのか、軽く『皇 遥』という人間の性分が破損してしまったらしい。


 ニコニコしながら俺は表札を見に行った。


 「……………………」


 その家にかけられてあったのは『皇』という字で、それが紛れもなくこの家が自分の家であると告げている。


 俺は今度こそ冷静になれと思った。


 そんなことを思う時点で既に冷静ではないということに、残念ながら俺は気づけていなかった。


 一つ、ふぅと息を吐いた。


 少しずつ冷静になってきているのか、そこでふと浮かび上がってくる疑問があった。


 そういえば、家にいていいはずの母さんがいない――?


 俺は首をひねった。


 今現在、この家にいるのは恐らくあの見るからに怪しい少女ひとりだ。


 では、俺の母さんはどこへ行ったのか。


 それに思い当たれば、俺は尚更首をひねる破目になった。


 家に入るか否かを悶々と扉の前で考え込むという名の逃避を図っていると、幸か不幸か…今の俺にはのんきとしか取れない(実際、そうなのだが)ずれた鼻歌が聞こえてきた。


 これは…――このずれた鼻歌を歌っているのは間違いなく俺の妹。


 俺はその人物をおもむろに振り返った。 


 「やっほっ!兄さん。どうしたの?そんなところに突っ立って。家、入らないの?入れないの?」


 俺は矢継ぎ早に聞いてくる妹を一瞥して、ぎょっと目を見開いた。


 妹の隣にいてる人物…――先程扉の向こうで見た少女そっくりの愛らしいポニーテールの少年を見て。

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