第九話
ボリバニからヘミングに向かうには、一つの都市を経由する必要がある。
それがここ、ラトスだ。
退廃しているわけでも、大都市であるわけでもなく、なんの特徴もない都市である。
ただ、大都市が近いために、少しばかり近郊農業が盛んである、と言うのが、特徴といえば特徴と言えるかもしれない。
…浪漫を求めるものにはつまらない街である、などと言ってはこの街の住民に失礼かもしれないが。
しかし、物語やなんやであれば、往々にして、こんな所にこそ革新的出来事が潜んでいるものだ。
少しだけ、足取りが軽くなる。
あれから、歩くこと九日間。
エディとは、良い関係を築けている。
景色について語り合ったり、有り得ない「if」の話についでだったりと、第三者からすれば取り留めもないような話題であったが、それでいて、話が途切れることは無かった。
私があの時に感じた感情とは、あるいは、このことを指していたのかもしれない。
…などと、考えに耽っていると、街の城門が目と鼻の先に迫っていた。
昼間だからか。私たちには、幸いなことに、荷物と身体の検査以外のことは行っていないようである。
それにしても、情報より人の行き交いが激しい。
何か、イベントでもあるのだろうか。
検問の、最後尾に並ぶ。
すると、当然であるが、周囲の喧騒も詳らかに聞こえ出すものだ。
無論、その殆どは他愛もない話であったが、中には、興味をそそられるものもいくつか存在していた。
曰くに、「突如として、人が消える」
…きな臭い話である。
詳しく話を聞いてみたくも思ったが、生憎、どう話しかけたら良いものか、見当もつかない。
ちらり…と隣を見る。
美しい茶色の髪が目に入った。
年下の人間…私において、その表現が正しいのかは定かではないが、少なくとも相手は子供である…頼る、と言うのは年長者の責務を果たしていないような気もする。
とは言え、私があの時エディに対して掛けた言葉…「交渉事は任せたい」ということも、半ば事実である。
私の思考も然る事乍ら、この身体、非常に無愛想なのだ。
初対面の相手の話しに割り込むのは至難の技である。
悩ましいところだが…ここは…
「人が消える、との噂について…ちょっと、話を聞いてきてもらってもいいか?どうにも気になってね…」
這般の事情を鑑み、頼むことにした。
エディは上機嫌で首肯したかと思うと、今度は少し起こったかのような口調で
「でも、少し悩んでました、おねえさま。
わたしにお任せくださるって…仰ってたのに。
同行は、契約、というお話のはずです。
頼ってくれないようでは、わたしも…少し、怖いです」
なるほど、道理である。
利用価値がない、とは、本人にとって、それだけで恐怖に値するのだ…状況も状況であることだし。
「…すまなかった。」
言葉を紡ぐ。
少女は、微笑んでそれに応えると、集団へと向かっていった。
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