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カレイド・スコープ  作者: Elias
プロローグ
3/9

第三話

ややテンションと方向性が暴走気味でありますが、なにぶん文章を書くということに慣れておりませんので微笑ましく見守っていただければ幸いです。


さて、次は城の周辺環境についてだ。


気候は温暖にして湿潤。

歩いてすぐ近くに森があり、そこには毒性のない果実や穏やかな草食動物が住んで居る。

森の中央には透き通るような湖があり、そこでは水浴びや魚を釣ることができる。


…はて。

一つの言葉で表すとするなら「極めて人工的」である。

これ以上ないほどに一人で生きていける環境。

生きて居る、というよりは生かされている、という方が正しく思えるほどに。


生ぬるい風が吹く。

野原に横たわって陽を愉しむ私を包むかのように。

…心地よい…


「ふぅ…」

息が漏れた。

まぁ、何はともあれ。

生きていくのに困りはしないだろう、というのが現在の私の見解である。



そして、最後…になるのだろう、私の身体についてだ。

身体能力は上々、いや、高すぎるといっても過言にないような気もするが、こと筋肉量にかけては一般的なソレとどうやら変わらないようであるため、高め、位が丁度良いのかもしれない。


問題は魔素保有量にある。


測定器がある訳でもないので、どこまで魔法を行使できるかで試してみることにしたのだが、これはどうやら、高めなどで済ませられる量にない。


エンチャント、という魔法がある。

端的に言えば身体に働きかけて身体能力を高める魔法なのであるが、これは魔力測定に活用できるのだ。

例えば、一般人であれば1秒。

魔術師(魔法を使うための特殊な修練を積んだものをこう呼ぶ)であれば10秒。

下位の魔獣で5分、上位であれば1時間、etc…


というわけで、発動前は私も

「多くあればそれであるほどに良いが、5秒持ったら僥倖」程の気持ちで発動したわけであるが。

1分、5分、10分と待っても減った気がしない。

発動出来ていないのか、と確認するも、出来ていないどころか十二分であったようで、壁が一部分陥没するハメになった。



善意で捉えればこれからの目的…それは後述するが…において非常に役に立つ。

が、悪意で捉えれば厄介この上ない。

大きすぎる力を持った者の行く末は、歴史が雄弁に物語って居る。



そしてこれは身体…ではなく、あくまで形而下の概念における問題なのであるが、或いはこれが最も深刻かつ私の行動を決定づけるものかもしれない。



私には、内面というものがない。



どういう意味か。

読んで字のごとく、であるが、どうにも私は字を儘で解釈することを嫌って居るようで、自分で自分にこの言葉を理解することをさせなかったし、許されなかった。


だが、しかし。

考えてみれば当然の論理的帰結かもやしれない。

人間の行動や意識の形成というのは記憶の積み重ね、ひいては周囲の環境や自己認識において、雪の如く長い期間をかけて形作られるものである。


その全てが欠けて居る。

内面などできようはずもない。

私の意識は全て知識から得た人間の行動様式の模倣に過ぎない。

毛虫を見れば眉を顰め、心地よい風が来れば息を漏らす。

一見人間的この上ないその行為は、何より機械的なのであった。


ただ、その中で、たった一つだけ、金星の如く輝く、最も感情的な思いがある。

私は、内面を獲得したい。


それはもう、意識を持った生物として抗いようがないほど、どうしようもない欲望である。


しかして。

それとともに、恐怖もある。


自らのこともろくにわからぬ中で危険溢れる世界にひとり身一つで飛び込むこと。

それは、いざ目の前にしてわかる未知への悍ましき恐怖だ。

言語は通じるか。常識は通じるか。

治安はどうなのだろう。

後ろから刺されやしないか。

食糧が尽きたらどうする。

旅において懸念される壊血病は干し肉で解決できるものではない。


ここで荏苒と暮らすことは、少なくともバッドエンドを迎えることにはならないだろう。

アヴァロンに幽閉されたマーリン、かくのごとしである。


暗澹。沈鬱。我、山に向かいて目をあぐ。

我が扶助は何処より来たるや?

いや…助けは…

生きようとするものにしか、こない。

あぁ!あぁ!あぁ…!


強く、岩に頭を打ち付ける。

強く、強く!

…痛い。

血が、頰を伝い、土に滴り落ちた。

…あぁ。


私の血は、こんなにも紅い。

なれば。

私は今、生きている!

なれば。

生けるものの使命を果たさなくてはなるまい?

それは。

世界を構成すること。

自分という存在を、世界に還元すること。

内面の獲得なくして出来はしまい。


口角が釣り上がるのを感じる。

兼ねてより用意しておいた旅の荷物を背負って、立ち上がる。


さて。

私が今から行うのは世界を巡る旅だ。

宛らドン・キホーテであるが、生き様はまさにその真逆。

私が目指すのはダンテの所業にある。

地獄においても、縄の一本も投げてやらぬ。

ただ、そこにあるものを刻んで、通るのみ。


違和感を感じてふと空を見上げると、いつの間にやら曇っていたことを認識した。


いいじゃないか。

物語られるにしては、あまりに人好きのしない、まぎれもないアンチヒーローの門出には、曇天の空も「麗しく崇高なるもの」の健勝である!




お読みいただきありがとうございます。


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