4.2「ネーミングセンス悪くないかな?」
4.2「ネーミングセンス悪くないかな?」
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃー!」
怒涛の勢いで繰り出される連続パンチ。
ぼくは両腕で頭を守りながら身体を縮めた。
くそ、マジで防戦一方だ。ナメていた。
ウサ耳とウサ尻尾を持つファンシーな獣人少女ルナ。
一見、ふざけた外見(失礼)だけど、実力はホンモノだ。
高い身体能力から繰り出される格闘攻撃に、ぼくは完全に翻弄されていた。
「サンちゃんをよくもぉー!」
ぼくは大きく体勢を崩しながら蹴りをかわした。
不格好だしガードがとけるし反撃もできなくなるけど、仕方がない。
なによりこの蹴りの威力がやっかいだからだ。
卓越した脚力で、ガードの上からでもぼくを数メートルは吹っ飛ばせる威力。
これを何度もくらえば先に倒れるのはぼくのほうだ。
ここは倉庫の入り口近くにある広めの空間だ。
どこかに逃げ隠れするには少し見通しが良すぎる。
ガチでやるしかない。
とは言っても、武器は。"黒水星"はアルネヤに預けてある。
ナイフさえあれば、ガードしたと同時に手足を傷つけて無力化できそうなんだけど……。
なにか武器になりそうなものは……。
ここでぼくは思いだした。
今は夜だ。なのにこの倉庫の中は明るい。
ということは、明かりがあるはずだ。
天蓋迷宮はぼくの世界と違って"電気"は普及していない。
しかしそのかわりに、術式回路という発明が近代化と文明化の役に立っているらしい。
術式を使えないぼくにとっては縁遠い話だけど。
何にせよ、この倉庫にもどこかに光源があるはずだ。
ぼくは倉庫の天井を見た。
ビンゴだ。
薄い曇りガラスのような素材の球体の中に、小さな術式回路基盤が収まった"灯り"がある。
蛍光灯やLED電球なんかと比べても遜色ない明るさを放っている。
だけど倉庫特有の高い天井だ。ここからは手が届かない。
だったら……!
「なにをぼーっと、してるのかなぁー!」
一瞬停止していたぼくに警戒して攻撃をやめていたルナが、何もないと判断したようで再び攻撃をしかけてきた。
ぼくはポケットを探り、コインを引っ張り出す。
ハイゼンベルグと戦ったときに得たお金の一部だ。
いざってときのために必要になるから、金貨は身につけるようにしている。
そしてルナはぼくの顎を蹴り上げるような軌道で接近し、脚を引いた。
引いた脚を繰り出される軌道をぼくは予測し、その瞬間。
「ここだ!」
コインを手から離した。
バリン!
頭上からガラスの割れる音がした。
ルナの蹴りがコインをふっ飛ばし、天井の灯りを割った音だ。
「ニセ勇者! い、いまいったい何を……!」
「わからないのかい? これだよ」
ぼくは頭上から降り注ぐガラス片のうち、大きめで鋭く尖ったものを指先で挟むように掴んだ。
「武器を得た。知ってるかい、人間は武器を使うことに特化した生き物なんだ」
「それがどうしたの!?」
「ま、こういうことさ」
ぼくはガラス片を持ったまま腕を振り上げる。
ルナは警戒し、そちらに視線が吸い寄せられた。
足元への注意が疎かになった。
その瞬間――ぼくは足元ちらばったガラス片を足ですくい上げるように。
ルナが立っている方向へ、宙に向かって蹴り上げた。
「なっ――!?」
破片が顔に向かって飛んできたことで、反射的に目を大きくつぶったルナ。
すかさず前に出たぼくの蹴りが、ルナの腹部を捉えた。
「あぅ……!!」
腹部を抑え、ルナはしゃがみこんだ。
獣人といっても内臓に強く衝撃を与えられれば、ピンピンしてられないだろう。
「さすがに可愛い女の子を切り刻む趣味はないからね。それくらいで勘弁しといて欲しいな」
「案外紳士的なんだなぁ――"ニセ勇者"」
「――っ!?」
倉庫の奥から、男の声がした。
ぼくはそちらを見る。
カツカツと、音を立てて。廊下を置くから歩いてくる人影が一つ。
徐々に、姿を現していく。
「はじめましてだな。先に自己紹介しておこう」
ぼくと同じような格好――あっちの世界の高校生が着る制服。
その上から冒険用のローブを羽織っている。
まさに異世界からの冒険者といった風貌だ。
こいつが――
「俺が――勇者マサト」
マサトはニヤニヤと余裕の表情で一歩一歩接近してくる。
「俺のアジトで好き勝手やってくれたな。まず名乗ってもらおうか、ニセ勇者」
ふぅ、ぼくは息を吐き。
「わるいね、礼儀知らずだったよ。ぼくはニセ勇者のニセ。名前は覚えなくてもいいよ。どうせ、ニセモノだからさ」
「ふざけてるのか?」
「ふざけてなんかないよ。それよりぼくからもきみにずっと聞きたかったんだ」
「なんだ?」
ぼくは言った。
「ハーレムギルドってさ、ネーミングセンス悪くないかな?」
「あ……?」
その瞬間。
マサトの余裕の表情が。
崩れ去った。
「何か目的があるのかと思ったが、どうやら俺をコケにしたいだけらしいな」
「やっと気づいたのかい? 笑ってやりに来たのさ、きみのことを」
「死ぬぞ、お前」
「先に言っとくけど、きみには無理だ」
殺気がみるみる高まっていく。
部屋全体に、倉庫全体に充満して。
もう、爆発寸前だった。
「俺の"仲間"を傷つけ、俺を侮辱した罪……償ってもらうぞ"ニセ勇者"!!」
カッコイイなぁ、そのセリフ。
勇者っぽいよ、きみは。
勇者VS"ニセ勇者"。
どっちがホンモノかなんてわかりきっている。
不毛すぎる戦いが、こうして始まった。
次回は明日3/23の16時に更新します。




