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4.0「じゃあイタズラしちゃおう」


   第四話



「ねえあんた、こんなんで本当にうまくいくと思ってんの?」

「さあね、そのへんは賭けだよ。やってみないとわからない」

「あんたってほんっとーにテキトーね。そういう所がスピカと気が合うのかしら……」


 ぼくとアルネヤは"ハーレムギルド"のアジトに向かっていた。

 ぼくの両腕を縛り上げ、アルネヤがほとんど引きずった状態で、だ。


 いわゆるひとつの、"捕まったフリ作戦"というヤツだった。

 アルネヤがぼくらに敗北したことはまだ"ハーレムギルド"に知られていないはずだ。

 アイナを誘拐した彼らは、追跡してくるぼくとスピカへの刺客としてアルネヤを差し向けた。

 だったら、アルネヤが勝ったことにして、ぼくを捕獲したフリをする。

 そうすれば正面から堂々と中に入れるというわけだ。


 そうしてぼくらは"柱の街"のはずれにある倉庫のような建物の前に到着した。


「きみが開けるんだ、アルネヤ。ドアを開けて、できるだけ乱暴にぼくの身体を放り込むんだよ」


 ぼくは事前に、入ってすぐの部屋に見張りが2人いるのを聞いていた。

 2人とも獣人の少女だ。

 名前はサンとルナ。

 サンは猫科の獣人で、ネコのような耳と尻尾を持つ。敏捷性と柔軟性に優れた格闘家タイプ。

 ルナは兎の獣人で、ウサギのような耳と尻尾を持つ。耳が良く索敵能力に長けた戦術家タイプ。

 幼い頃から貧民街で助け合って暮らしてきたという2人のコンビネーションは脅威であり、まともにやりあえば即席コンビのぼくらでは簡単にやられる。

 それがアルネヤの見解だった。


 普通にやったら勝てないと言ったのは自分自身だからということで、アルネヤも作戦に納得したようだ。


「アホな作戦だけど、これしかないってことか……いくわよ」

「どーんとやってくれ」


 アルネヤはガチャリとドアを開け、どーんとぼくを放り込んだ。

 術式で筋力強化したのか、女の子とは思えないすごい力で倉庫の中に放り込まれるぼくの身体。

 ずささっと床を滑った。




      4.0「じゃあイタズラしちゃおう」




「ってててて……」


「わっ、アルアル、何つれてきたのー!?」

「犬を拾ってきたら前にマサト様に怒られちゃったんだよ! ダメなんだよ!」


 サンとルナが尻尾をふって近寄ってきた。

 ぼくのに顔を近づけ、すんすんとにおいをかぐ。

 勘弁してくれ、女の子ににおいをかがれるなんて。

 ご褒美だ。


「犬じゃないわよ。あの"ハーフエルフ"を連れ出した時に追いかけてきた敵の"ニセ勇者"よ」


 アルネヤは冷静に答えた。

 やるね、たいした女優じゃないか。

 演技臭さがまるで無い。これならバレそうにない。


「わわわっ、アルアルすごーい! "ニセ勇者"って、マサト様が捕まえたがってた敵さんだよねー」

「さっすがアルアルー、つよーい!」


 アルネヤは褒めちぎられ、顔を赤くし、口元をにへら、と緩ませた。

 かなりちょろいな、きみ。


「ま、まあね。とにかくこの男をマサトのところに連れて行くわ。いまマサトはどこ?」

「マサト様は奥のお部屋だよー」

「でももしかしたら今"お楽しみ中"かもしれないねーくふふ」

「ねー。前に"お楽しみ"の時入ったらすっごく怒られちゃったー」

「私もー」


 "お楽しみ"? お楽しみ中って何だ?

 ぼくはアルネヤに目配せする。

 アルネヤは小さく首を横に降った。

 「待ってろ」という意味だ。


「一応、声だけかけてみるわよ。ほら、立ちなさい」


 アルネヤはぼくを叩き起こし、倉庫の奥に連れて行こうとした。


「ちょっちょちょっと、アルアルー。そいつは置いていっていいんじゃないー?」

「そうそう、連れてくこと無いよー。私たちが見張っててあげるからねー」

「ねー」


 アルネヤが足をとめた。

 どうする。こう言われても無理やりぼくを引っ張っていこうとすれば、怪しまれるかもしれない。

 アルネヤも少し悩んでいるようだった。


「……わかったわよ。こいつを見張ってて。あたしは"ニセ勇者"を捕まえた、って報告に行ってくるから」


 それが彼女の決断だった。

 元々の作戦は、ぼくとアルネヤが2人でマサトのところに乗り込み、倒す。

 しかしもう作戦通りにはいかない。そのへんは臨機応変に対応するよう、事前に話し合っていた。

 アルネヤは、ぼく抜きで行くことに決めたようだ。

 しかしアルネヤ一人でマサトに立ち向かうのは難しいだろう。

 万全の状態ならまだしも、今は"B・ファミリア"も全機ロストしてあるのだから。

 これは危険な賭けだよ、アルネヤ。


 そうして彼女は倉庫の奥へ消え、後ろ姿も見えなくなった。

 アルネヤがいなくなったところで、サンとルナはぼくのほっぺをぷにぷにとつつき始めた。


「ししし、人間の男だー」

「私たちをイジめた人間の男だー」

「食べちゃおうか?」

「ダメだよー、マサト様に怒られちゃう」

「じゃあイタズラしちゃおう。こちょこちょー」


「ちょ、きみたち、捕虜を拷問にかけるのは国際法違反だ! アハハ! そういうのは禁止されてるんだ! ぞ! うひひ! あはははははははは!!」


 ぼくは彼女らにわきや首を指でくすぐられ、身体をくねらせて悶絶していた。

 アルネヤの心配なんてしてる場合じゃない。

 ぼくもピンチだ!


「えっ、こくさいほーってなに? 知ってる、ルナちゃん?」

「知らないー。でも悪いことだよね。"ハーレムギルド"は正義のミカタだから悪いことはしちゃダメってマサト様が言ってたよ!」

「そっかー。じゃあダメだー、イタズラしゅーりょー」

「でもでも、武器もってないか探さなきゃだよ」


 彼女らはぼくの服の中に手を突っ込んでまさぐりはじめた。

 おい! さっきからやること変わってないじゃないか! くすぐったいよ!

 しかし、"黒水星(ブルズアイ)"をアルネヤに預けておいて良かった。

 武器が見つかれば、ぼくから武器を奪わなかったアルネヤがぼくとグルだってことがバレるかもしれないし。


「ねールナちゃんルナちゃん。なんか男の人の身体って私たちとはぜんぜんちがうねー」

「うんうん、なんかちがうねー」

「かたいしゴツゴツしてるし、なんか……ちょっとヘンな感じになるね」

「うん、ヘンな気分になっちゃうね……」


 彼女らはぼくのいろいろな所……口に出すのがはばかられるようなところまで触りまくった。

 その結果、男の身体の神秘ってやつを探り当てたようだった。

 よかったね……オトナの階段ってヤツを一つ昇ったんだよ、きみたちは。


 と思ったところでぼくの思考になにかが引っかかった。

 ん……この反応。男の身体を始めて触ったような口ぶり……。


「悪いけど、聞いていいかな」


 普通なら黙っているところだけど、彼女らの態度を見ていると捕虜の扱いをそれほど心得ていないらしい。

 それどころかぼくが"敵"だって認識も甘いようだ。ぼくが縛られているからか警戒心が低い。

 普通の調子で話しかければ、話を聞いてくれそうな相手だった。


「いいよー、ヒマだし」

「ギルドのヒミツを聞いたりするのはだめだよ?」


「きみたちはマサトの"ハーレム"じゃないのかい? それだったらマサトにその……オトナなご奉仕とかもするなじゃないのかな。さっき"お楽しみ中"とか言ってたし……"仲間"とはそういう行為をしたりするものだと思ってたけど」

「そーゆーこーいってなぁに?」


 サンは心底不思議そうな顔で返した。


「そういうってのは……その、植物でいうオシベとメシベの云々ってヤツさ。お互い服を脱いでいろいろとね、うん……」


「服とか脱いじゃうの? 恥ずかしいよ。"お楽しみ"でそーゆーことはしたこと無いよ?」

「うんうん、マサト様って優しいから、"仲間"たちとはいつも遊んでくれてるんだぁー」

「マサト様って私たちの知らない遊びもいっぱい知ってるんだぁー。"ハーレムギルド"にいるといつもたーのしー!」


 ……なるほど、ぼくは勘違いしていたようだ。

 ハーレムギルドってのは、奴隷や被差別階級の少女たちを集めてマサトが性的に充足する目的があるものと思っていた。

 だから"絶世の美女"アイナを誘拐したことにも説明がつくと思っていた。

 だけど、マサトは本当に、心の底から獣人の少女たちを「助けよう」と思っているらしい。

 ホンモノの"仲間"だと思っているから、傷つけたり、オモチャにしたりしない。

 親切にするんだ。遊び相手になってあげるんだ。

 きっと、アイナに対しても、同じように思っているのだろう。


 ユージーンさんから聞いた。ハーフエルフは虐げられる存在だと。

 アイナがハーフエルフとバレたら、さらわれて、見世物小屋に売られるかもしれないと。

 だけどマサトは、そうなる前に。アイナが不幸になる前に、自分の手で幸せにしようとしたんだ。


 それがきみの本当の目的か……。

 悪いね、マサト。きみのことは知らないし、恨みもないけど。

 それじゃますます――きみのことを止めなきゃならなくなった。


「悪いけど……悠長にやってるヒマはなくなったよ」


 ぼくは両腕を縛る縄をほどき、立ち上がった。

 固結びしているように見せかけて、引っ張るだけでほどける。

 そういう結び方がある。簡単な手品だ。


「な、なにこれ――うにゃっ!?」


 そのトリックに驚き反応が鈍ったサンの顎に、先制して掌打を喰らわせる。

 脳震盪を起こしたサンはそのままふらふらと倒れた。

 よし、格闘戦に長けたサンの方から先に潰した。

 後は――


「――うぐっ!」


 振り向きざまに、強烈な蹴りを喰らいぼくはふっ飛ばされた。


「よくもサンちゃんを……許さないよ!」


 その蹴りはルナのものだった。


「くっ……考えが甘かったか……」


 サンのほうが格闘戦が得意。そうなればルナはそれほどでもない。

 そんな甘い予測をしたぼくがバカだった。

 アルネヤの言葉を思い出す。


『獣人は武器や術式の扱いは人間より不得手だけど、単純な格闘戦ならば亜人の中でも一級品よ。間違っても武器なしで獣人と戦おうなんて思わないことね』


 聞いたことがある。

 素手の人間は犬には決して勝てない。

 人間はそもそも道具を使うことに特化した生物だ。

 獣人は人間よりも獣よりの生物であることを考えれば……武器のないこの状況ではどちらが有利か明白。


「悪いアルネヤ……すぐには追いつけそうもない」


 ぼくとウサギの獣人"ルナ"との、素手での戦いが始まった。



次回は明日3/21の23時を予定しています。

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