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3.7「お前に、俺の気持ちはわからない!」


「それがあたしたちの出会いだった」


 アルネヤは言った。


「最初はちょっと気弱で頼りない勇者だなって思った。だけど心配はしていなかった。マサトの"祝福の書"を見れば、あいつの能力がズバ抜けて高いことは一目瞭然だったから」

「アルネヤちゃん、マサトさんってどのくらい強いんですか?」


 スピカは興味津々といった様子で聞いた。


「そうね。初期の勇者レベルは4」

「よ、4ですか!?」


 スピカは大声をあげた。

 4という数字には大げさな気がするけど。


「スピカ、レベル4ってどのくらいなの?」

「勇者さま、ヤバいですよ! レベル4だと上級モンスターを片手でひねり殺せるくらいの強さなんですよ!?」


「冒険者ランクで言うとAよ。初期状態でね……」


 アルネヤが補足した。


「他には剣技スキルがレベル3、術式スキルがレベル2」

「初期状態でですか!?」

「初期状態よ。今は全部1ずつくらいは上がってるわ」


 彼女たちが話すレベルやスキルについて、ぼくはいまいちピンと来なかった。

 なぜなら、ぼくはレベル0だからだ。


「勇者さま、剣技スキル3は10年修行したベテラン剣士並みの技術が付加されるんですよ! 術式レベル2は5年修行したのと同じくらいです!」

「術式を5年修行って、スピカと同じくらいだよね。そう思うとそれほどヤバそうには思えないな」

「失礼ですよぉ!」


「スピカを基準にしないで。なんの努力もしないでそれほどの技術が付加される……それが勇者の恐ろしさなの。今は勇者レベル5、剣技レベル4、術式レベル3……他にもいろんなスキルがある。端的に言えば、人間で勝てるやつはいないわ……今のマサトとまともに戦えるのは"階層王"くらいね」


 アルネヤはそう言ってため息を付いた。

 もはやマサトに逆らうのは諦めてしまったのだろう。

 彼女は巫女。願いを叶えるにはパートナーの勇者に付き従うしか無い。


「――肝心なところはこれからだよ、アルネヤ」


 ぼくが言うと、アルネヤは後ろめたそうに目を伏せた。

 そう、全部これからだ。

 なぜマサトが変わってしまったのか。

 そして彼を変えてしまったものとは何か……。


「そうね、これからが大事なところよ。マサトの"祝福"の能力と、あいつが変わってしまった話……」




      3.7「お前に、俺の気持ちはわからない!」




 マサトとアルネヤが出会ってから少しの間は、今のような状態ではなかった。

 マサトは他人と打ち解けようとしなかった。

 弱気で、常に遠慮がちだった。

 それはそれで、少しずつ打ち解けて仲間になっていけば良いとアルネヤは考えていた。

 確かに、積極性に欠けるところはあるが、マサトは勇者として優れた資質を有していたし、悪人でもなかった。


 そう、マサトは悪人ではなかった。


 2人が"柱の街"に入ってからは、クエストをこなし、いろいろな人助けをして、モンスターを倒した。

 すぐに二人共ランクがAまで上がり、様々な階層を移動できるようになった。

 モンスターの支配する上の階層は戦いの日々だったが充実していた。

 充実したクエストの日々をともに過ごすうちに、アルネヤとマサトには信頼関係が生まれようとしていた。


 それが打ち砕かれたのは、彼らが下の階層に行ったときだった。

 まずは第十一階層"剣の国 セラエティア"。

 ここは人間が支配する王国だ。

 "亜人"や"怪物"は絶対に入れない。

 この世界は強烈な階級社会であり、貴族が民衆を支配していた。

 奴隷制度も残っていた。


 マサトは愕然としていた。

 

「こんなの、俺の世界にはなかった……」


 目を見開き、嫌悪感をむき出しにした。

 幼少期に第十一階層に住んでいた経験があり、貴族の血も引いているアルネヤにはその感覚がわからなかった。


「奴隷たちには奴隷としての立場が保証されているわ。奴隷は市民としての権利を有さない代わり、有事の際戦闘に参加する義務は負わない。逆に市民は様々な権利が保証される代わりに、有事の際は戦闘に参加する義務を負う……セラエティアは剣士の国。市民である限り剣をとって戦う世界なのよ」


 セラエティアには確かに奴隷制度がある。

 奴隷には市民の権利は与えられないし、市民の身の回りの世話をする義務がある。

 しかし、義務を果たしている限り衣食住は保証されているし、奴隷を虐待することは犯罪だ。

 奴隷という存在が、徹底的な差別を受けているわけではなかった。

 ただ、社会的な立場の違いがあるだけだ。

 そのことでセラエティアは円滑に運営されていた。


 しかし、マサトは納得しなかった。


「人間が人間を使役するなんて間違ってる」


 マサトはセラエティアじゅうを見てまわった。

 セラエティアは人間だけの国。

 確かに、人間である限り奴隷でも幸せに生きていた。

 しかし、"人間"でなければ違う。

 "亜人"や"獣人"たちは、人間たちに虐げられている実態があった。


 耳や尻尾があるだけで、全ての権利を奪われ売り払われ、ひどい扱いをうける獣人たち。

 その存在をマサトはつきとめてしまった。

 アンダーグラウンドの世界を覗いたのは、アルネヤも初めてだった。


「……赦せない。こんな世界、こんな世界を作った奴らも、こんな世界を赦すやつらも赦せない! 全部、全部俺が変えなきゃならない!」

「ちょっとマサト、あんた落ち着きなさいよ!」

「お前だって、貴族出身で人の上にたってきた"エリート"なんだろ、アルネヤ! そんなお前に、俺の気持ちはわからない!」


 その瞬間だった。

 マサトの眼に、"野望"と"怒り"が宿ったのは。

 そしてその時からだった。

 彼が宿した"祝福(エウロギア)"の真の力が目覚め始めたのは。


 その時から、マサトは上層に行きモンスターと戦うことをやめた。

 人間の住む下層を活動の中心とし始めた。

 戦う相手も変わった。

 人間と戦うようになった。人身売買を行う組織。

 奴隷商人。

 マサトは容赦なく彼らを殺し始めた。

 迷宮を攻略するために与えられた力を、人殺しに使ったのだ。

 誰もマサトには勝てなかった。為す術もなく倒れていった。

 マサトの大量のスキルと、そして"祝福"の前に。


 アルネヤはマサトの暴走を何度も止めようとした。

 しかし、マサトはアルネヤを完全に拒絶するようになっていた。

 マサトにとって、アルネヤは"仲間"じゃなかった。

 才能があり、努力し、報われてきたエリート。成功者だ。

 マサトにとっての仲間とは、奴隷商人たちを殺し開放した奴隷たちだった。

 そして開放した奴隷や、差別を受けて隠れて行きていた獣人たちの中から若い少女たちを選び出し、自分のそばに置き始めた。

 それが"ハーレムギルド"の創設であった。



明日3/19は16時に更新予定です。

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