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3.2「昔っからあんたのこと、嫌いだった!」




      3.2「昔っからあんたのこと、嫌いだった!」




「アルネヤ……ちゃん……?」


 スピカは現れた少女をそう呼んだ。

 アルネヤ、そう呼ばれた紅い瞳の少女は、スピカを"落ちこぼれ"と言った。

 スピカと似たような服装をしていることからもわかる。

 彼女もまた"ネリヤ神殿"の巫女ということだ。


「アルネヤちゃん!」


 スピカはいきなり物陰から飛び出して彼女と相対した。

 まずい。

 ぼくはアルネヤという女の子を知らないけど、相手には攻撃の意思がある。

 無警戒に出ていくのは危険だ。


「アルネヤちゃん、どうしていきなり攻撃なんか……。わたし、友だちを探してるんです! ふざけてるならやめて――」

「――ふざけてなんかいないわよ。あんたの友だち、あたしが奪ったんだから」

「え……」

「"残響器(クリロノミア)カルブ・ル・アクラブ"、起動」


 アルネヤの腕輪が光り輝くと、次の瞬間彼女の身体を覆うように"鎧"が出現した。

 ただの鎧というにはやや特殊だ。

 六角形の装甲板が彼女のローブに何枚も張り付いているような。

 まるで甲殻や外骨格のような鎧だ。

 何より目立つのはアルネヤの肩甲骨辺りから装甲板が連なって伸びた2本の"機械腕(マニピュレーター)"だ。

 その尖端には巨大な(ハサミ)が装備されている。


 同じ"巫女"とは言っても、スピカの杖"残響器アークトゥルス"とは全く違う。

 どう見ても術式で戦うタイプじゃない、物理的な破壊力を重視した武装だ。


「アルネヤちゃん……どうして残響器なんか起動して……」

「まだわからないの? それとも認めたくないの?」

「わたし、アルネヤちゃんが何言ってるのかわからない……全然わからないです……! だってわたしたち、仲間じゃないですか。同じ"ネリヤ神殿"で学んだ仲じゃないですか!」

「だったらわからせてあげるわよ。あたし――昔っからあんたのこと、嫌いだった!」


 まずい!

 アルネヤの殺気を感じたぼくは、物陰から飛び出しスピカにタックルした。

 スピカの"心臓"があった位置を、高速で伸びてきたアルネヤの"鋏"が通過する。

 スピカとぼくはそのまま地面に倒れ、避けた。

 今の攻撃、避けていなければ『えぐり取られていた』かもしれない。


「スピカ、現実から目を背けるな!」


 ぼくはスピカを抱き起こし、大声で言い聞かせた。

 スピカはかつて同じ神殿で修行した仲間を信用しきっているみたいだった。

 そんな相手が攻撃してくるなんて信じられない。

 現実を受け入れられないんだ。

 だけど。


「あのアルネヤって子はきみを攻撃した。わかるだろ、今のはまともに喰らえば致命傷かもしれなかったんだぞ。これが……現実なんだ」

「勇者、さま……!」


 スピカはハッとしたように目を見開いた。

 ぼくの言葉でやっと状況を受け止め始めたようだ。


「へぇ、スピカの相方にしてはなかなか『わかってる』奴じゃない。あんたが"ニセ勇者"?」

「……そうだ、ぼくが"ニセ勇者"のニセ。名前は覚えなくても良い」

「怖い顔。そんなにスピカに攻撃したのを怒ってるのかしら? その"落ちこぼれ"がそんなに大切?」

「怒っている? かもね、きみは礼儀を知らないな。いきなり攻撃してくるなんて」


 ぼくは立ち上がり、ナイフ"黒水星(ブルズアイ)"を抜いた。

 アルネヤはそれを見て言う。


「そのナイフ……スピカが小さな頃からずっと大事に持ってた……。へぇ、そうなんだ。あんたたち、仲が良いのね。昔っからそうだった。スピカ……あんたは独りじゃなにも出来ないくせに、いつも周りから好かれてた。あたしのほうが優秀だったのに、独りでなんでも出来たのに……みんなも、大神官様もいつもあんたのことを気にかけてた。スピカ、スピカって……!」

「嫉妬してるのかい? でも、個人的感情が動機じゃないんだろ。なんでアイナをさらった?」

「なんで? そんなのあたしだってわからないわよ」

「わからないだって?」 


 おかしな話だ。

 自分の行動の理由もわからないなんて。

 "記憶喪失"のぼくじゃあるまいし。


「"あいつ"の考えなんて、あたしにはわからない。理解できない……"勇者マサト"の考えなんて」

「勇者マサト……?」

「あたしはあいつの指示で、邪魔してくる敵がいたら追い払ってるだけ。あたしは……"ハーレムギルド"の"仲間"じゃないから」


 勇者、そして巫女。

 コルネリウスさんはぼくらの前に12組旅立ったと言った。

 巫女アルネヤ、そして勇者マサト。

 どうやらマサトと"ハーレムギルド"ってヤツらのほうが、今回のアイナ誘拐に強く関わっているらしい。


「なるほど。きみとその"マサト"ってヤツは、そんなに良い関係じゃないらしいね」

「……あんたに、何がわかる」

「何も。だけどきみは孤独を感じている。そうだろ? だからスピカに怒りをぶつけてるんだ。かっこ悪いな」

「言うな――っ!」


 アルネヤは激昂し、"機械腕"をぼくに向かって伸ばした。

 軌道は単純だ。速度もそれほどじゃない。

 ぼくは低くかがんで走り、避けた。


「――っ!」


 その直後、何かを感じたぼくは思いっきり地面を蹴って転がった。

 ズドドドドド!

 さっきまで立っていた地面が激しくはじけ飛んだ。

 最初の不意打ち攻撃と同じだ。


「これは……」


 攻撃の跡には、地面に突き刺さった"光の針"が残されていた。

 その針は数秒立つと光の粒子になって空中に消えていった。


「へぇ、よく避けたわね」


 アルネヤは腕を組んで感心していた。


「今の攻撃をかわすなんて、抜け目のない奴。つくづくスピカには似合わない……」

「最初に"針"の攻撃は一回見てるんだ。警戒して当然だろ……?」

「なかなか良い観察眼だけど、わかってても避けきれない攻撃っていうのもあるのよ」


 アルネヤが指をパチンと鳴らすと、ぼくの頭上を取り囲むように大量の"羽音"が聞こえはじめた。

 ブブブブブ……ブブブ……!

 この羽音は……。

 ぼくは上空を見上げる。

 そこには浮かんでいた。無数の、大量の……。


「"蜂"……?」

「そう、これがあたしの"B(ビー)・ファミリア"」

 

 B・ファミリア。アルネヤは"蜂"のような機械をそう呼んだ。

 機械、そう、機械だ。ホンモノの虫じゃない。

 一つ一つが握りこぶし大からそれ以下の……"飛行砲台"だ。

 上空、あらゆる方位からその"尾"に光の針を格納し――。


「――ぼくを、狙っている」

「この"全方位全距離攻撃(オールレンジアタック)"からは逃れられない……終わりよ、"ニセ勇者"!」


 アルネヤの声と共に、B・ファミリアから針が一斉に発射されようとしていた。

 ――絶体絶命だ。

 



次回は本日3/15の23時です。

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