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3.0「俺はプロメテウスなんだよ」


   第三話




「赦してくれ……赦してくれ……! あんたの言うとおりにやってきた、ワシはあんたの指示で……!」


 薄暗い部屋の中。

 その真ん中でうずくまり、額に床をつけて必死に謝罪をしている男がいた。

 男の名はハイゼンベルグ。

 "柱の街"の裏通りで、賭博王と呼ばれた男だ。

 そしてこの謝罪方法は"土下座"という。

 部屋の奥に座す一人の少年、必死に謝罪しているその相手がハイゼンベルグに教えたものだ。

 彼の故郷では、これが誠意を示すための最も適切な謝罪の方式だという。


「ワシはあんたにずっと協力してきたじゃないか……! 助けてくれ、頼む、赦して! ワシを倒したあの小僧、イカサマしてたんだ!」


「お前、何か勘違いしてんじゃないのか?」


 ハイゼンベルグを見下ろす少年は、冷たい声を投げつけた。


「勘違い? な、何を……?」

「俺はな。ハイゼンベルグ、お前が負けたことに怒ってるわけじゃない。酒場の奴らが俺に報告した内容について聞いてんだよ」

「酒場の奴らが、何を報告したって……?」

「お前――あの"ハーフエルフ"の娘に手を付けようとしたんだってな。俺は『無傷で連れてこい』と指示したはずだが?」

「ひっ――!?」

「"ハーフエルフ"、虐げられる存在。あの娘こそ俺たちの仲間にふさわしい。『最期に』教えてやるよ、ハイゼンベルグ。俺の過去を少しだけな」


 少年の座るソファの両隣には美しい少女が二人、寄り添うように座っている。

 彼女らには人間とは違う特徴があった。

 頭部から動物のものに類似した耳が露出していたり。

 腰からは尻尾が生えていたり。

 それらは少女たちが"獣人(セリアンスロープ)"であることを示している。

 "獣人"とは人に似ているが異なる種族、"亜人(デミヒューマン)"の一種。

 人間社会では差別されてきた存在だ。


「俺は、この娘たちと同じだった。人間の社会から排斥され、迫害を受けてきた。人間扱いされなかった。虐げられ続けてきた」


 少年は少女の顎を優しく撫でる。

 少女たちはゴロゴロを満足げに喉を鳴らした。


「その理由はわかる。以前の俺はクソみたいな存在だった。勉強も運動もできない社会のゴミ。だがここでは違う。俺は"祝福"されたんだ。今ではこの世界で最強の俺に勝てる奴はいない。わかったんだよ、ハイゼンベルグ……人が不幸になるのは、生まれてくる世界を選べないからだってな。お前もそう思わないか?」

「なんなんだ、何を言って……?」

「わからないだろうな。お前は自分のイカサマの"才能"で成り上がってきた成功者だ。人を虐げてきた側の人間だからな。お前に俺の気持ちはわからないだろう……一生な。だがそれでいいんだ。お前は生まれてくる場所を間違えなかった、幸運な奴ってことだ」


 少年はニヤニヤと笑みを浮かべた。

 黒髪で、10代半ばの若者。ハイゼンベルグは思い出す。

 少しだけ自分を倒したあの少年、ニセに似ている。

 もしかしたら出身地や人種が同じなのかもしれない。

 しかし眼の前の少年とニセには決定的な違いがある。

 その眼の中には"野望"と"怒り"が満ちている。

 "虚無"ではない。


「俺は生まれてくる世界を間違えた。そして俺と一緒にいるコイツらも同じだ。生まれる場所を間違え、虐げられてきた奴らだ。ただ耳や尻尾がついてるからって、くだらない理由で差別を受けた。俺が『救ってやる』まではクソみたいな人生を生きてきた不幸な奴隷どもだ。それが俺の仲間だ。この意味わかるか?」


 そして少年は判決を下す裁判官のように断言した。


「お前は俺の"仲間"じゃない。だから赦す理由(わけ)がない」

「っ――!」


 ハイゼンベルグの背筋に冷たいものが走った。

 彼は立ち上がり、全力で走りはじめた。

 逃げねば。

 殺される。


「"簡易詠唱(インスタントスペル)・クイックブラスト"」


 少年が一本指を前に突き出すと、その尖端から一筋の光が走った。

 光がハイゼンベルグの背中をかすめた。

 ハイゼンベルグの服に火がついたが、肉体に傷はない。

 彼は思った。


(やった、外れた――)


「と――思っただろ?」


 まるで思考を読み取ったかのように、少年が答えた。

 火がつき、燃えはじめたハイゼンベルグの上着。

 その火はすぐに炎となり、ハイゼンベルグの服に燃え移り始める。


「な、なんだ、この火は……消えない!」

「なあハイゼンベルグ、"プロメテウス"って知ってるか?」

「なっ……!?」

「知るわけないよな。俺の世界の神話に出てくる火の神のことだ。そいつは天界から火を持ち出し、人間に与えた。人はその火で武器をつくり、戦争を始めた。神々はプロメテウスを責め、虐げた……泣けるよな。だってそうだろ、火こそが人間の"叡智(えいち)"だったってわけだ。そいつがいなけりゃ、俺達は今頃裸で暮らす猿の一種だったってのに」


 すでにハイゼンベルグは話を聞いていない。

 彼は全身にまわる炎に苦しみもがき、のたうち回っていた。


「プロメテウスは正しいことをした。ただ世界のほうが間違ってたんだ。この意味わかるか、その火は"プロメテウスの火"だ。決して消えはしない、俺の"怒り"がこもってる。そして人類に叡智を与える存在ってのを、なんて呼ぶか知ってるか?」


 ――勇者だ。


「俺はプロメテウスなんだよ。ここが俺の世界。この力こそが俺の本当の力なんだ。俺はこの力と、俺の元いた世界から持ってきた"叡智"でこの世界を変える。正しい姿にな」


 ハイゼンベルグの身体は既に焼け焦げ、物言わぬ躯と化していた。


「虐げられてきた者たちが、今度は虐げてきた奴らを従える。奴隷商人とその買い手どもが奴隷になる。奴隷が王や貴族になる。これが真の"平等"と"平和"だろ、ハイゼンベルグ? 全部この世界にはなかったもの、俺がこの世界に授けるべき叡智だ。俺はこの"祝福(チカラ)"で俺や俺の仲間を虐げてきた奴らに復讐する。そして奴隷たちと共にこの世界で成り上がる。俺こそが――」


 ――"ホンモノ"の勇者だ。


「よし、そろそろ始めるとするか」


 少年は立ち上がり、仲間たちを集めはじめた。

 皆年若い少女だ。だが人間ではない。

 多くが"亜人"や差別される立場の出身者だった。


「ハイゼンベルグの奴が言っていた"ニセ勇者"って野郎が邪魔してこようが関係ない。俺たちの目的は一つだ、"ハーフエルフ"を救い、俺たちの仲間にすること。わかってるはずだ、お前たちは俺に救われた」


「はい!」

「わたしたちはあなたに救われました!」

「どこまでもついていきます!」

「奴隷だったわたしをあなたが救ってくれました!」


 少女たちは口々にそう言った。

 皆、少年に心酔していた。

 少年は満足げに笑みを浮かべて号令した。


「行くぞ――俺たち"ハーレムギルド"の力を証明してやれ!」


 少女たちは揃って答えた。


「はい――勇者マサト様!」




      3.0「俺はプロメテウスなんだよ」


以前からあらすじやタグなどで敵がチートキャラってこの作品を説明していますが。

ついにチートキャラを登場させました。彼が一人目の"正規勇者"です。

今後はしばらく彼や"ハーレムギルド"との戦いをお楽しみください。


次回は明日3/13の23時更新予定です。




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