2.4「人間とニセモノの違いって何なんだろう」
「これで取り調べは終わりよ、あなたの疑いは晴れました」
メリルさんは資料をまとめて立ち上がった。
「待ってよ」
ぼくは彼女を呼び止める。
「テストの"不正疑惑"に対してこんな取り調べをする必要があったのか、それが気になるんだ。それに、不正っていったっていろいろあるのにそれを考慮していないみたいだった。字が読めない人間が高得点を取るには、例えば答案を事前に盗み出していたりね……」
「……何が、言いたいのかしら?」
「この取り調べ、本当は別の意図があったんじゃないのかい? テストの不正を追求するにはどこか不自然だ。本当はぼく自身に対して別の何かを調べていたんじゃないかと思って」
「……そうね。あなたはシロだと思うから教えておくわ。だけど――」
メリルさんは指を立てて唇に触れ、ウインクした。
「今から話すことは口外厳禁よ」
「その仕草エロくない? オトナの魅力ってヤツかな?」
「バカね」
べしっ。
メリルさんがぼくの頭をはたいた。
「"ニセモノ"を探してたの」
「ニセモノならここにいるけど」
「ニセ勇者のことではないわ。噂になってるのよ、"柱の街"に"ミノタウロス"が紛れ込んでるって」
「"ミノタウロス"が……?」
ぼくは思い出した。
"ネリヤ神殿"にミノタウロスが侵入してきていたことを。
ぼくはその顛末をメリルさんに話した。
「大神官コルネリウス様からも報告を受けたけど、やはり第十階層にミノタウロス達が侵入し始めているようね。"迷宮機関"も調査を始めているけど、どこかキナ臭いわ」
「それで、"ニセモノ"ってのは?」
「この"柱の街"にはあなたも経験したように厳しい入場審査があるわ。冒険者として登録された信頼できるミノタウロス以外は入ることはできない」
ミノタウロスも条件を満たせば冒険者登録できるってのは初耳だけど。
まあそれはいい。
メリルさんは続けた。
「噂になっているのは、"人の姿をしたミノタウロス"の存在よ」
「人の姿をした……ミノタウロス……?」
「"迷宮機関"はすでに第十階層に不正に侵入していたミノタウロスを何体か捕縛したわ。彼らは末端にすぎず、重要な情報を引き出すことはできなかったけど、三つの事実がわかった」
メリルさんは指を三本立てて。
「一つ、第九階層の王"マイナロス"は人間との戦争に備えミノタウロス達の軍備を増強している。二つ、マイナロスは第十階層に複数のスパイを送り込んだ。三つ、スパイのうち一体は人間と全く同じ姿で"柱の街"に紛れ込んでいる」
「それが"ニセモノ"ってわけか……」
「話せるのはここまでよ。これでいい?」
「ああ、よくわかったよ。つまり怪しい人間には個別の取り調べが入るってわけだ……最後に一つだけ聞いていいかな?」
「ええ」
「学科試験の不正疑惑が晴れても、ぼくがミノタウロスかもしれないって疑惑が晴れたわけじゃない。なのにどうしてこんな情報をぼくに話したんだい?」
「あなたがシロだという確信があったから」
「その根拠は?」
「簡単なことよ」
彼女はイタズラっぽくウインクして言った。
「あなたが牛肉を美味しそうに食べてたからよ。ミノタウロスは牛肉を食べない。これで納得したかしら――ニセくん?」
2.4「人間とニセモノの違いって何なんだろう」
取り調べが終わり、ぼくは試験会場に戻った。
学科試験が終わると、一時間の昼休憩を挟んで実技試験だ。
さっきの取り調べで昼休憩がまるまる潰れた。
幸い、昼食にはありつけたから良いけど。
実技試験の会場にはラウラが待っていた。
「待ちくたびれましたわ」
「ごめんごめん、取り調べが長引いちゃってさ」
「それで、疑いは晴れましたの?」
「ばっちりね」
「ま、まあわたくしは最初から信じていましたけどね!」
「そりゃどうも」
会場にはすでに他の【戦士タイプ】の受験者が集まっていた。
もうすぐ実技試験が始まる。
「ねえラウラ、試験が始まる前に聞きたいんだけどさ」
「なんですの?」
「人間と"ニセモノ"の違いって何なんだろう。もし人間と"それ以外"で、姿が全く同じなら。どうやって違いを見分ける?」
「――っ!?」
ラウラは一瞬目を大きく開けて、少しして平静を取り戻した。
「ニセモノが何を意味しているのかはわかりませんが、人間と"亜人"の違いならば知っていますわ」
「それでいいよ、教えて欲しい」
「それは『他者に共感する力』ですわ」
「共感?」
「"亜人"にもいろいろあります。エルフは"妖精"寄りの亜人。ミノタウロスは"怪物"寄りの亜人。人間も亜人も知能は同程度ですから、知能テストをしても見分けることはできないですわ」
前に戦ったミノタウロスを思い出す。
確かに、頭の悪そうな喋り方はしていたけど知能は低くなさそうだった。
「つまり――人間に決定的に特徴的なのは"共感"するってことなんだね」
「ええ、エルフもミノタウロスも、人間と比べると他者に共感する能力は欠如しています。それが決定的なちがいですのよ」
「なるほどね……」
そうこうしているうちに実技試験が開始される時間となった。
「おっと、時間だ。そろそろ行ってくるよ、ラウラ」
「ええ、わたくしはここでお待ちしていますわ。幸運を、ニセ様」
「あー……タイミングを逃すところだった。ラウラ、その"様"ってヤツは無しで」
「しかしあなたは……」
「スピカの友だちは自分の友だちだって、きみが言ったんだろ。だったらぼくにとってのきみも同じさ」
「……そう、ですわね」
ラウラはどこか嬉しそうな、だけど悲しそうな顔で言った。
「がんばってくださいな、ニセ」
次回は3/9の21時です。
なんか最近ほのぼのしてますが次回あたりからガンガン戦い始めると思います。
(3/25追記)感想でご指摘頂いた部分を若干反映しました。
とはいえそれでも不自然なところは拭えませんが。
ご了承ください。




