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2.1「わたくし、忠告いたしましたわ」

 やっぱり"落ちこぼれ"なんかじゃないよ。

 きみは――




      2.1「わたくし、忠告いたしましたわ」




 ―― 前 言 撤 回 。

 スピカはやっぱりとてつもないドジだった。

 どうしてこうなった。

 

「どうしてこうなった」

「勇者さまぁー、ごめんなさああああああい!!」


 ぼくとスピカは昼間の大通りを全力疾走していた。

 後を追いかけるのは屈強な男たち。

 どうしてこんなことになったのか。

 ことの発端は数分前に遡る。


 ぼくとスピカは手に入れたお金を使って冒険者ランクの"検定試験"を受けにユージーンさんの家を出た。

 柱の街の中枢施設"迷宮機関(ラビュリントス)"本部を訪れようとしていた時。

 大通りで二人の男が口論をしていた。

 通りを歩く人々は彼らを避けて歩いていた。もちろんそれが賢いし正解だ。

 だけどスピカは――


「冒険者同士、仲良くしなきゃめーですよ!」


 関係ない争い事に首を突っ込んだ。


「通りの真ん中で皆さん迷惑しているんです、どうしてこんな事になったんですか?」


 スピカは最初両方の言い分を聞いて仲裁しようとしていた。

 しかしその言い分というのがあまりにもくだらなかった。


「こいつがオレをハゲって言ったんだ! オレのほうが髪が多いのに!」

「オメーは残り少ない毛を長く伸ばして多く見せかけてるだけだろうが! オイラは潔く薄毛のままでも堂々としてんのによぉー!」

「前々から気に入らなかったんだテメーは! 内心オレのことハゲって見下してたんだろうがよ!」

「オメーだってオイラを薄毛だってバカにしたじゃねえか!」


 売り言葉に買い言葉。

 彼らの争いはエスカレートした。

 最初は「まあまあ」とか「お二人とも気にするほどじゃないですよ」とか。

 そういう優しい言葉を選んでなだめようとしていたスピカだけど。

 長時間にわたるくだらないやりとりに――ついにキレた。


「もうっ、いい加減にしてください! 二人ともハゲてますよ! この際どっちがハゲかなんて争わないで、ハゲ同士仲良くしてください!」


 あー。

 スピカ。きみは男のプライドってヤツをご存じない?

 ハゲてる男にハゲっていうのはね、禁句なんだよ。


「このアマ!」

「さっきから関係ない癖に首突っ込んできて何様だ!」


「ひえぇー! わ、わかりました! こうなったらわたしの術式で落ち着かせてあげます!」


 スピカの腕輪が光ったと思うと、背丈ほどの巨大な杖が出現した。

 "残響器(クリロノミア)アークトゥルス"だ。

 スピカはその杖で男二人の頭をポンポンと順に軽く叩いた。

 すると……。


 はらり。


 彼らの頭頂部に残された残り少ない生命が。

 すべて、こぼれ落ちた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


 男たちは叫んだ。

 涙を流し叫んだ。

 柱の街全体を揺るがすほどに叫んだ。


「あれー……?」


 スピカは首をかしげた。


「おかしいですね……心を落ち着かせる術式のはずだったんですけど……失敗しちゃいました、テヘペロッ! なーんて、赦していただけたり、しませんよ、ね……?」

「ゴルアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

「赦さねえええええええええええええええええええええええ!!!!!!」


 凄まじい剣幕でスピカに襲いかかる二人。

 その勢いにスピカは逃げ出した。ぼくの手をひっつかんで。

 ぼくは途中くらいから他人のフリをしていたがここで失敗した。


「ひ、ひえええええええええええごめんなさあああああああああああああああああああい!!!!!!!」

「なんでぼくまで……」

 

 こうしてぼくとスピカは追われる身となったのだった。

 やれやれ、ちょっとすごいと思ったらすぐコレだよ。


「逃げ切れそうにないな……二人には申し訳ないけど、死なない程度にボコるか……?」

「わたしのせいでこうなったんですから、勇者さまにそんな危ないことさせられませんよ! ここはわたしが!」


 スピカは足をとめて振り返った。

 手を前にかざし小声で何かをつぶやくと、手のひらに小さな光の球体が出現した。


「"簡易詠唱(インスタントスペル)・マナバレット"!」


 簡単な魔術なら杖無しでもできるらしい。


「このくらいならちょっとシビれるだけで済みます! あとで謝りますから、当たってくださーい!」


 スピカはそう叫ぶと、目をつぶって"マナバレット"を発射した。

 え、狙いは定めないのか……?


 するとスピカの発射した光の弾は明後日の方向に飛んでいき、通りの店の屋上に集まっていた鳥の群れをかすめた。

 鳥たちは驚いて一気にバサバサと飛び立った。

 舞い散る羽。そしてフンが――男たちのノーガードの頭部に大量に降り注いだ。


 べちゃべちゃべちゃべちゃ。


 嘘だろ?

 こんなおもしろ――もとい、不幸な偶然が積み重なるなんてありえるのか?


 男たちはさらに怒り狂って、ジリジリとぼくらに距離を詰めてくる。

 ぼくはというと男たちにかまっている暇はなかった。

 "マナバレット"の反動でコケて丸見えになったスピカのスカートの中身を観察するのに忙しかった。

 水色と白のストライプ――いわゆるひとつの"しまぱん"だ。

 なんてファッションセンスが良いんだ。きみは"わかってる"。

 うんうん、思わず頷いてしまったじゃないか。


 なんて……してる間に。


「おいこのガキども。よくもオレたちをコケにしてくれたな」

「オイラ赦さねえ……ぜってぇよぉー!」


 ぼくは男にがっしり身柄を拘束されていた。

 まずいな……普通にピンチだ。


 ぼくは悩んでいた。

 確かに道の真ん中で口論していた二人には問題がある。

 だけどここまでの騒ぎになった責任の一端はぼくら――というか主にスピカが担っているのも事実だ。

 だから悩む。


 状況を打開するのは簡単だ。この二人を適当にボコればいい。

 だけど"傷つけずに"それをやるのは難しい。

 彼らが根っから悪いヤツなら遠慮はしないけど、今回は……そうでもない。


「うーん……困ったな」

「勇者さま、いま助けに!」

「スピカ、ここは戦いよりも交渉を選んでみたらどうかな」

「交渉……ですか?」

「きみにだって非はある。真摯(しんし)に謝ってみればきっと分かり合えるよ。同じ人間なんだから……たぶん、おそらく、そうなればいいな、できたらいいな……」

「あやふや! 勇者さま、最後のほう願望入ってるじゃないですかぁ!」

「大丈夫、ハゲてるからって頭が硬いとは限らないよ」

「勇者さまもハゲって言っちゃってるじゃないですかぁー!!」

「おっと、口が滑った。ハゲだけにツルっとね」

「勇者さま!!?」

「これはもうしわ"毛無い"なんてね……ふふふ」

「勇者さま、キャラが定まってません!」

「もうこんな目に合うのはこりごりだよ……"毛根"だけに、ね」

「勇者さまー! 帰ってきてください―!」


 見よ、これがぼくの全力のハゲネタだ。

 これでスピカよりもぼくに敵意が向くはずだ。

 二人同時に無傷で無力化するのは難しそうだけど――試してみるか、自分の力を。


「――そこの二人、いい加減にしなさい!」


 そこに突然、大通りに響き渡る声。

 見ると、白い騎士の衣装を着た若い女の子が仁王立ちしていた。

 プラチナブロンドの髪をシニヨンにして纏めている、真面目そうな顔つきの美少女だ。

 険しい顔と、切れ長の眼でぼくらを睨みつけていた。

 彼女を見た街の住人がざわつき始める。


「おい、あれって……」

「そうだ、あの白い騎士服、"迷宮機関"の治安維持部隊……通称"迷宮騎士団(ナイツ・オブ・メイズ)"の……」

「それってエリートしかなれないってアレかよ」

「なんであんな若い娘が」

「聞いたことがある。弱冠15歳にして"迷宮機関"屈指の剣士と称されるほどの天才少女――」


「"(つばさ)ある(つるぎ)"ローレンシア・フラズグズル・スヴァンフヴィート!」


「名前長っ!?」

「ロ、ローレ……なんだって?」

「名付け親は人間の短期記憶が7±2くらいの容量しかないって知らないのかよ!」


 街の人々は関係ないポイントで混乱していた。

 もう状況がグチャグチャじゃないか。


 そんな人々を尻目に、少女は堂々と腰に手を当てて宣言した。


「この街で無益な争いごとは許しませんわ。このわたくし、ローレンシア・フウラズグズル・スヴァンフヴィードがいる限り!」


「ああ? すっこんでな貧乳! 名前長すぎんだよ!」

「ペチャパイの癖に薄毛をバカにすんのかよ!」


「あ、あら。わたくし最近耳が悪くなったのかしら。何か著しく事実に反する発言が聞こえたような……」


「ひんにゅー!」

「ぺったんこ!」

更地(さらち)!」

「永遠に交わらないのが平行線なんだよぉ!」


「それは違うよ」


 ぼくは思わず口を挟んだ。


「そうですわ! 違いますわよ! そこのあなた、言ってやってくださいな!」


 騎士の女の子はぼくを指差してそう言った。


「なんだクソガキ、何が違うってんだよ!」

「非ユークリッド幾何学では平行線が交わることもある」

「どうでもいいですわよ! 否定するところそこですの!?」


 彼らの言うとおり彼女の胸部装甲はちょっとばかし……控えめ、だった。

 服の上から膨らみが確認できない程度には関東平野って感じだった。

 だけどそれはそれで需要があるはずだ。ハゲと同列に扱うのは間違ってる。


 いかんいかん……ついぼくもハゲをバカにするような思考を。

 ハゲをバカにするなんて最低だ、悪人のやることだ。

 確か聖書にも、ハゲをバカにした子どもたちが神の呪いで死んだっていう記述があったようななかったような。

 ハゲをバカにすることは、太古の昔から語り継がれる大罪なんだ。


「ふ、ふふふふふ……わたくし、もう堪忍袋の緒が切れました。容赦しませんわよ」


 神はともかく、目の前の女の子をキレさせるには彼らの挑発は十分効いたようだ。

 彼女が手を前に突き出すと、腕輪が光りを放ち始める。


(つばさ)(さず)かり(ほこ)()け、我に仇為(あだな)(てき)()て――"グラジオラス・フリューゲル"!!」


 翼のように舞い散る光と共に、彼女の手に細い刺突剣(レイピア)が出現した。

 彼女は大きく弓を引くように剣を構え、真っ直ぐに男たちを見る。


「忠告しておきます。人質をはなしなさい。そのほうが――手加減できますわよ」

「はっ、誰がテメーの言うことなんか――」


 ――ヒュ。


 風が通り抜ける音がした。

 次の瞬間。

 どさり、どさりと男二人の巨体が次々と力無く倒れた。

 外傷はない。なのに意識を完全に奪われていた。

 そしていつの間にか、ぼくらの背後にその少女が出現していた。


「わたくし、忠告いたしましたわ」


 凄まじい早業(はやわざ)だ。 

 目で追うことすらできなかった。

 いつのまにか"風が吹き抜けた"みたいに二人が倒されていた。


「この二人は乱暴者でわたくしたちも手を焼いていましたの。巻き込まれて災難でしたわね」


 彼女はぼくに手を差し伸べる。

 手を握り返した瞬間理解した――隙がない。

 強い。

 それも普通じゃない、これまで見てきた冒険者とは別次元のレベルでだ。


「きみは一体……」

「わたくしは"迷宮機関"の所属の"迷宮騎士(ナイト・オブ・メイズ)"ローレンシアですわ。長いのでどうぞラウラとお呼びください」


 ラウラはニッコリと笑って言った。


「お会いしたかったですわ――ニセ勇者様」



次回は明日3/6の21時に投稿します。

ブクマ、評価などしてくださった方、ありがとうございます。

何らかの形で読んでくださっていることがわかると、こちらとしてもとても嬉しいです。

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