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君為、世壊 page.6

 〜†塚本薫†〜




 午前の間に幾つかのお店を歩いた私達は、お昼ご飯を食べる為にレストランに来ていました。冷房が効いていて涼しいです。

 四人掛け用のテーブルに私と来栖さんは向かい合うように座り、注文した品が来るのを待ってます。

 私から向かって左側は一面ガラスで、外を行き交う人々の姿が見えます。逆に言えば、昼食中の場面を見ず知らずの人たちに見られてしまうと言うことになりますが。



「あら?」


 大きなガラスの壁越しに外を眺めていた来栖さんが首を傾げました。

 どうしたのかと尋ねると、来栖さんは黙ってガラス越しに外を指差します。私がその指が示す方を目で追うと、そこには女性二人と男性が一人。

 女性二人は金色に染めた頭髪、肌の露出が多い服を着ていて、女性が男性に話しかけているようです。

 女性が壁になっていたり、通行人が沢山通るため、男性がどんな方なのかは見えません。

 しかし、どうやらあれは“逆なん”というもののようですね。身長が高めな女性がかなり積極的に言い寄っているようですが。

 それにしても、あれがどうしたのでしょうか。

 ……まさか、来栖さんも興味があるとか。

 ……いえいえ、まさかそんな筈は。

 ……でも、来栖さん綺麗ですし。

 ……それもあり、ですかね?


「あり……だと思います」

「え?」

「あ、いえ。……なんでもないです。ところであの方々がどうかしたんですか」


 来栖さんが本当に逆なんというものに興味があるのか、誘導尋問のような質問をしようと、私のイタズラ心にちょっと火がつきました。

 いえ、まあ、直接聞けば良いんですけど……来栖さんにそんなこと出来ません。



「うん。ほら、あの絡まれている男性」


 男性? まさか、来栖さんの好みの方でしょうか。

 もう一度目を向けます。

 でもやはり、見えません。

 私がそう伝えると、来栖さんは隣の席をぽんぽんと叩いて、そこへ座るよう促されたので、私は立ち上がって来栖さんの隣に座り、もう一度外に視線を向けました。

 今度はちゃんと見えました。

 そして、その視線の先には……ユウイさんでした。

 困った顔をしているユウイさんでした。



「あれ、ユッくんだよね」


 ……えっ? き、聞き間違いでしょうか。今、来栖さんがユウイさんの事を愛称で呼んでいた気がします。

 渾名とは違います、愛称です。どちらも同じ意味だった気がしますが、今のは絶対、愛称です。

 すごく自然に愛称で呼んでいました。

 いつの間にそんなに仲良くなったんでしょうか……。


「あ、の……ユッくん、と言うのは……」


 突然の事で動揺してしまったのか、つい口に出して聞いてしまっていました。


「ん? ああ、うん。ほら、今まで私達の傭兵団に機械を弄れるのって私だけだったでしょ。だから、ユッくんが機械を扱えるって聞いたら嬉しくって。機械好き同士仲良くなろうって思ってね」


 なるほど。そうゆう事でしたか。

 確かにこれまで来栖さんが機械の話をしても、私を含め皆さん首を傾げていました。

 ユウイさんが機械好きかどうかは知りませんが、仲良くやって欲しいです。

 私がそんな事を思っていると、来栖さんがニコニコという擬音語が文字で見えそうな笑顔で私を見てきました。



「安心した?」


 満面の笑みです。


「あの、言っている意味が良く分からないんですが」

「ふふふ、薫ちゃん可愛い」

「あの、来栖さん……頭をなでなでしないでください」

「大丈夫、向こうも脈あり、だよ。話してるとよく薫ちゃんの事とか聞かれるから。頑張って!」

「ですから来栖さん――」

「あ! 薫ちゃん、あれ見てっ」


 何やら変な誤解をされたまま話も遮られ、少しむすっとしながら来栖さんの指差す方……つまり、ユウイさんのいる方へ視線を向けると、なんと、佐野さんが加わっていました。


 加わっている、と言うと語弊がありますね。佐野さんは二人の女性を完全に無視し、ユウイさんだけに話しかけています。

 以前、佐野さんがああいったケバ……派手な化粧や格好をしている女性が嫌いだと言う話は聞いたことがありますが、凄いですね。なんだか二人の女性の姿がだんだん透けてきたような気がします。


 ユウイさんはと言うと、やはり困っていたのか、佐野さんが来たことでほっとしているようでした。

 いまだ何かを騒いでいるらしい二人の女性を無視しながら、不意に佐野さんがこちらを指差し、ユウイさんに何かを言うと、ふたりがこちらに向かって来ます。




「よお」


 店員さん! 不審者がいます、憲兵を呼んでくださいっ! と叫びたくなるような、不審者の様な笑顔の佐野さんがやって来ました。

 私達と向かい合うようにふたりが席に座ります。

 窓側に来栖さんと佐野さん。廊下側には私とユウイさんが、それぞれ向かい合うような形です。



「お前ら食べたいもんがあったら遠慮なく頼めよ。支払いは俺が持つからよ」


 私と来栖さんが既に頼んでいた伝票を取りながら、佐野さんがそんな事を言い出しました。

 いきなりどうしたのでしょうか。天変地異でも起こるんじゃないですかね。ですが、ここはただで食べられるという事で、私は遠慮なくパフェを追加する事にしました。大きなやつです。


「どんな気まぐれですか、雄真さん?」

「新入りが初任務から生還したんだ。当たり前だろ」


 あれ、おかしいですね。私の時は何もなかったような……。



「ユウイ。この街の兵は、もう見たか?」

「え? あー、はい。街を巡回しているのなら何度か」

「そうか。一応、伝えておくわ。この街では揉め事を起こすな。そして巻き込まれるな。面倒臭くなるかもしれないからな」

「……強硬派、ですか?」

「なんだ、知ってんのか」

「ええ、話だけなら。……有名ですからね」


 ユウイさんは小さな声でそう言って苦笑する。

 この国には大雑把に言ってしまえば、戦争をしたい人と、したくない人がいます。

 戦争をしたい人を強硬派。したくない人を穏健派と呼んでいるのですが、その強硬派の方々は何かと他国民の方に突っ掛かっています。

 特に、私達の今居るアレルテリア国はヴァルトハイト国とは過去に大喧嘩をしたので、強硬派はヴァルトハイト国の人には一層厳しい目を向けているのです。



「お前の場合は髪も黒いし、顔立ちもどちらかと言えばアルター人よりだから、名前を聞かれた時は何か適当な姓を名乗っておけば大丈夫だろ。そうだな、塚本ユウイとかで良いんじゃねえか」


 そう言って、相変わらずの不審者顔でニヤリと笑いました。

 ちょっとだけイラッと来ましたが、無視です。あの笑顔は、こちらが反応するのを楽しみにしている笑顔です。


 私達のいるアレルテリア国では結婚をするとどちらかの姓に統一され、夫婦は同じ姓を名乗ります。

 つまり、今の佐野さんの言葉は“私とユウイさんで夫婦の振りでもしろ”と言う意味となります。もちろん、佐野さんがそういった理由はユウイさんの為でもなんでもありません。

 私が反応をして慌てるの楽しむためです。ですがその手には乗りません。私の心は常にクールなのです。顔が少し熱くなったのは、きっとこのレストランが暑いからです。そうです。

 ひとまず、こうゆう場合は無視が一番です。



「もう、雄真さん! そんな事言うと二人とも変に意識しちゃうじゃないですか。ねっ、薫ちゃん?」


 どうして私に振るんですか、来栖さん。

 そもそも、何も言わずにいた方が絶対意識とかしない筈なのに、絶対わざとやってますよね。

 たまに、ですが、来栖さんは佐野さんに味方して私をからかうのです。それも最近はその頻度が少々増えているような気がします。

 特にユウイさん絡みになると。


 ここは一度、私も怒るのだとお二人に知らしめる必要がありますね。

 私は両手でバンッとテーブルを叩き、その勢いで立ち上がりした。


「帰りますっ!」


 そう言って、私はレストランから出て行きました。

 途中、佐野さんが愉快そうに笑っている声が聞こえて来ました。

 むう……。

 あの不審者にはいったい何をすれば、ひとあわ吹かせられるのでしょうか。


 そんな事を考えながら歩いていた時、私は重大な事に気が付きました。

 ……帰り道が、わかりません。



 私は慌てて周囲を確認しました。

 なにか見覚えのある建物があればいいと思ったのですが、ずっと来栖さんの後を付いて歩いていたので、建物なんてまったく眼中にありませんでした。

 一瞬、脳裏に私を馬鹿にするように笑う佐野さんの顔が浮かび、いらっとしましたが、深呼吸をしてなんとか気を落ち着けました。


 とりあえず適当に歩き続けてみましょう。

 私は止めた足を動かし、バスに帰れることを祈りながら、街をさまよいはじめました。



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