教育改革ほど重要なものはないが、どうするのが正しいかは誰も知らない
悪役令嬢さん、結婚したんですね。おめでとうございます。
「ありがとうございます」
ご主人はどのような方なのですか?
「質実剛健の立派な方です。私のことも大切にしてくれます」
頬を赤く染める彼女はたいへん可愛らしい。
「それより幼馴染さん。ヒロインさんが教育改革を推進するようですが、どのような内容なのでしょう?」
そうです。ヒロインさんは教育改革を発表しました。
これまで貴族と一部の金持ちのみが、16〜18才まで学園で教育を受けていました。それを全国民が7〜12才まで小学校に、13〜15才まで中学校に通うのです。そして、貴族と平民の成績上位半数が16〜18才まで高等学校で学びます。
現在小・中・高とどのようなカリキュラムにするか詰めています。
広く教育をいきどとけ、あらゆる面で人材を底上げしようという画期的な試みとなることでしょう。全国民が通えるようにするため、地方にもたくさん学校が作られることになります。
話をすると、悪役令嬢さんは何か考え出しました。
それからしばらく後、激震がはしります。
悪役公爵領では学校を作らないというのです。
「王妃様とは違う改革を実施します」
と王都に通達してきました。
「どういうことだ!」
「私的な教道場まで破壊するとは・・・」
「理解できないよね」
「時代を逆行しているといえましょう」
そのとおり。
公爵領では学校を作らないばかりか、私塾を全て廃止し
「平民、農奴に学などいらないでしょう。労働に専念させなさい!」
とのことです。
ただ公爵領の中心部に『大学』と呼ばれる学校を一ヶ所だけ作るそうです。
しかし、全ての人々に教育を、という理想は穢されてしまいました。
「もうほっときゃいいわ! 悪役公爵領だけ文明から取り残された蛮族地になるだけよ!」
ヒロインさんもお冠です。
20年後
学校建設やそこで働く教員たちへの給金の支払いで国庫や地方貴族の財政が痛手を受けています。致命的というには程遠い、チクリという程度ですが、それゆえ止めるわけにはいかず将来に不安を感じます。
また優秀な民の育成はできているのですが、『就職浪人』と呼ばれる若者が増えています。新たなポストなど毎年簡単に増やせるわけがありませんし、高等学校の卒業者はいまさら農作業などしたくないと思うからです。
また、役人や第三次産業への人材需要多過のせいで『ワーキングプア』という以前では考えられなかった社会問題が発生しています。
悪役公爵領を除いて・・・
そう。悪役公爵領では学校建設が行われてません。したがって、建設費用も教員への給金も発生しないため財政的打撃は皆無です。
あるのは廃止した私塾の教師を集めて作った『大学』が一つあるだけです。
悪役領ではどうしても学問を修めたいものは、ここに入るしかありません。
この大学、年齢制限はありませんが毎年定員制をとっており、入学するために熾烈な試験が課せられます。競争率が高いため『大学受験戦争』とまで呼ばれています。
そこで選ばれた一部のものが入学後さらに切磋琢磨するために、この大学の卒業生たちはとてつもなく優秀でした。
彼らは今『パワーエリート』と呼ばれて、あらゆる分野で引っ張りだこになっています。