まさか! もしくは、やっぱり! 悪役令嬢軍の怪進撃
「悪役令嬢、いきますわ」
東方軍は王弟大公を大将に、悪役令嬢さんを参謀として出兵です。
ヒロインさんの近代化?とやらは失敗しだったようですが、東方軍は大丈夫なのでしょうか?
「大丈夫ですわ。幼馴染さん」
連合国軍は準備不足な状態で勢いだけで攻めてきている。東方軍だけでも対抗できるということです。
「俺様とヒロインさんが横槍を入れてこなければ、ですけど」
そこは堅物がなんとかするでしょう。そんな気がします。
「ならば憂いはありません」
そして決戦場に到着。両軍しばらくにらみ合いが続いてます。
布陣は早い者勝ちとはいえ敵軍は高台を確保してこちらを見据えています。
「心配ありません。準備は整いました」
敵が高さの利を活かして攻め込んできます。
東方軍の兵たちはその勢いのついた攻めを受け止め・・・持ちこたえました。
持ちこたえることができたのは、短時間で堀と柵を造ることができたからでした。
どちらもたいしたものではありません。柵など荷車や木材を組み合わせただけです。しかし、よく見るとあらかじめつなぎ合わせの部分がきちんと固定できるような形になっていますね〜
堀はそれほど深くはありませんが、敵の勢いを殺すことはできるでしょう。転倒する者もいます。兵たちが農作業器具を使い、泥まみれになって作りました。僕も手伝いました。
おそらく、剣を鍛えたり馬に乗ったりと華麗な戦いを想定していた新生王国軍の兵たちではできなかったでしょう。
兵農一体の効果なのでしょうか?
敵は高地の有利な布陣であったのが裏目に出たのか、ズルズルと戦いを引き延ばし消耗していきます。おそらく敵将は「あと少し、あと少し」と思っているでしょう。
でもこっちはまだ揺らぎません。
そしてついに敵の限界が訪れた。
「大公閣下!」
「うむ。 レギオン隊を出せ!」
悪役令嬢さんに王弟大公が応えます。
整然と並んだ特大の長い槍を持つ兵たちが突き進みます。
敵の手が届かないところからの攻撃。敵が密集して対抗しようとすれば、武器を投げつけます。そして武器・人員の素早い補充。
華やかさなし。個の技量不要。英雄・勇者など現れる余地なし。地味に堅実に、そして効率よく敵を破っていきます。
そして、追撃戦です。
戦う最中、気づいたことがあります。
一つ、農作業で鍛えられたからでしょうか、東方軍の兵たちは他の王国軍が苦戦した体当たりにも対抗しています。
「かっこよく戦うだけの兵と、泥臭い戦いも厭わぬ兵の覚悟と準備の差ですわ」
ごもっとも。
もう一つ、身分制度をそのまま軍に導入しているため、無用の混乱が起こらない。
新生王国軍では優秀ならば平民でも隊長・指揮官になれました。でも失敗すると部下の貴族が文句を言うわ、従わないわとなります。東方軍は一度や二度貴族が失敗しても、平民たちは貴族に従うのは当たり前と刷り込まれているので、内心文句があっても従います。
「統制を乱す要因は前もって検討済みですわ」
さすがです。
さらに一つ、貴族の指揮官は国が滅べば没落です。対して平民指揮官は国が滅んでもまた平民のまま生きられるでしょう。
「危機感の強い指揮官と逃げ道のある指揮官。どちらが必死になるかは明らかでしょう」
返す言葉もありません。
こうして悪役東方軍は連合国軍を叩き出し、国家滅亡の危機を救ったのでした。