品種改良は美味しさより天災への備えが大事
適当が加速中です。
俺様王が即位した年、冷害により農作物が大打撃を受けました。
「農作物の品種改良が急務です。冷害に強い作物の研究に取り組みましょう」
すばやい対策発表に、さすが王妃様だと民は喜んだ。
「そのとおりだな」と俺様
「全国的な取り組みにしなければ」と堅物
「なんとかなるよ」とチャラ男
「学園でも研究を行います」とロリコン
今年は備蓄食糧あったから大丈夫でしたが、なければ暴動になっていたでしょう。
対策をとることは妥当といえます。
「うーん。遺伝子組換えは、この時代では無理か。科学的チートは断念ね!」
また、ヒロインさんはわけのわからんことを・・・
そして再び悪役公爵領からとんでもないニュースが飛び込んできた。
悪役領でも品種改良に取り組んでください、という訴えに対して
「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない」
と悪役令嬢さんが言って取り合わないというのです。
唖然とさせられる話ですが、さすがにないでしょう〜
彼女を嫌っている四人の攻略対象者たちですら信じませんでした。
「なんだ、その話は(笑)」
「彼女の性格を良く表しています」
「でも、言いそうだよね」
「その話の創作者は文化勲章ものですね」
唯一ヒロインさんだけが、
「この非常事態に、なに某王妃のモノマネやってんのよ! 笑えないっての!」
とお怒りでした。
さらに悪役公爵領から信じられない情報が入ってきた。
悪役領では品種改良そっちのけで『バカイモ』の大量生産に取り組むというのである。
この芋は、人の頭の2倍サイズのバカでかい芋である。どんな調理をしても食えたものにならなず、バカみたいにまずいのだ。
ゆえに『バカイモ』と呼ばれている。
だがこの芋からどういう訳か、甘味料がごくごくごく少量採れる。しかし採算はまったくとれないので、誰も手がけてない。
南の海の向こうにある大陸のさらに南にある土地で作られる、砂糖を輸入したほうがはるかにましなのだ。
悪役令嬢さんはこのバカイモ甘味でお菓子を作ると意気込んでいるらしい。
20年後
この国はまたもや冷害に悩まされていた。
品種改良により多少寒さに強い農作物ができていたが、今回の冷害には無力であった。冷害は三年続いており、備蓄も無くなっていた。
王都で暴動が勃発する、その寸前。奇跡が起こった。
悪役公爵領から食糧が全国へと配給されたのだ! 配給された食糧はなんと例の『バカイモ』であった。
実はこのバカイモ。バカだけあって、寒さにも恐るべき耐性をもった作物であったのだ。
あまりにもの不味さのため、きちんと育てる農家など皆無であった。だが悪役公爵領ではお菓子作りのため大量生産が行われており、この芋に関しては大量に在庫を抱えていたのだ。
ちなみにバカイモ甘味事業は、大量生産・大量加工の効率化によって、少しではあったが利益を出すまでになっているそうだ。
悪役令嬢さんの話では、
「数百年後は機械化と分業化で、さらに利益を出す有力事業となるでしょう」
とのことだ。
ともかく甘味に加工されるはずだったバカイモをそのまま出荷したのだ。不味かろうが、なんだろうが、食わねば生きていけない。人々は歴史上はじめてこのクソ不味い芋に感謝することになった。