第六話
第六話
ルンルン薬局に派遣されてからもう二か月たった。
雪は溶け、普通の道路になったので車の運転が楽になった。
仕事に慣れてきたころ、薬子は餡祖を告発した県薬会長の多田の経営する調剤薬局へも足を運んだ。もちろん勤務後なので薬局も閉店している。ルンルン系列の店舗と全く違った南部にあるので夜の八時ごろに到着した。
二店舗しかないとはいえ、両方とも小さい規模ではあるがこちらは整形外科専門病院の目の前。立地を見る限り競合店はいない。もう一店舗の方は個人開業医の目の前にあってこれも独占状態だという。
本店の局内にはもう誰もいなく、シャッターが下りていた。シャッターにも大きく「多田薬局」 とある。
二階建て。誰もいない駐車場には、多田薬局とドアと後方のガラスに書かれたバンが五台も置いてある。配達はもとより、在宅指導も積極的にしているようだ。
「日中の様子はわからないけれど、これだったら何もよそをうらやむこともないし、それともよほどルンルンの餡祖社長のやりかたが眼にあまるのだろうか」
薬子は首をかしげた。
翌日の午後。
薬子は大木管理薬剤師に実家の親が倒れてしまい急用ができた、と虚偽の申請をしてルンルン薬局の仕事を一週間、ずる休みをした。そして多田薬局にもう一度行ったのである。めざすは本店。多田薬局長に会うのだ。
まずは行く前に薬剤師募集をしてないか問合せをする。幸い頓挫市内のハローワーク内を検索してみると若干名募集とあったのでその紹介状をもっていくことにする。ハローワークの紹介状をもらったと告げると、果たして多田薬局長は本日面接OKだといってきた。
薬子は多田薬局本店に午後四時に到着。
この時間帯になると病院の診察もほぼピークをすぎ、閑散としてくるのだろう。それでも駐車場には患者らしき自家用車が三台ほど止まっている。多田薬局と書かれたバンは五台ともない。どこかへ在宅指導へでもいっているのだろう。
薬子は黒いリクルートスーツを着て多田薬局に入る。自動ドアを開けると医療事務員たちが笑顔を向けてきた。
「あのう、私は藤原薬子と申します。多田先生をお願いいたします」
「私が多田です」
間髪いれずに投薬台にいる熟年女性が返答した。前には八十歳代前後のの女性患者がいる。投薬内容の説明をしている最中だった。
「ちょっとそこで待ってていただけるかしら?」
「はい」
多田薬剤師は患者に向かった。
「あの、それでこっちの薬は血圧を下げます。岡村さん、こっちの薬はね、血の塊をなくしますのでね、でも、納豆とか食べ過ぎないでね」
「納豆はわしはあんまり食べんけ、大丈夫じゃ」
「薬の袋に書いてある飲むときと飲む量を見てね。それと忘れないでね」
「うんうん」
「他に質問はないかなあ」
「ないない」
「じゃあ、薬代は千四百円になります」
「うんうん」
多田の説明も手慣れていて無駄はなかった。ちょうどそのおばあちゃんで患者が途切れるらしく、あとは「まかせるわ」 ともう一人の女性に向かって行った後、奥の部屋に薬子を導く。
ルンルンと違い小規模な感じは否めないがそれでも調剤室内は薬棚には各種の薬が目いっぱい突っ込まれ、散薬台も沢山の散薬調剤をしたのが白い粉末薬で汚れていた。電子計量計の数字が読み取れないくらいだ。
「まあ、汚いこと。すぐに掃除しないといけないのに」
薬子は潔癖症でもあったから、多田が注意しないのを不思議に思う。……おおざっぱなタイプの薬剤師なのかしらね、彼女は?
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」