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派遣薬剤師、藤原薬子の忘備録  作者: ふじたごうらこ
第三章・袋詰薬剤師
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第十二話

◎ 第十二話


 ものすごい急展開だった。

 厚生労働省に対して張名春彦なる薬剤師が本物の薬剤師免許をもっているか問い合わせてきたのは何とQ県警だという。

 史眼が言った。

「薬子よ、奇遇だったな。ニセ薬剤師と少しの期間とはいえ一緒に働いたんだ。貴重な体験ができて楽しかっただろ?」

「いえ全然」

「今午後七時か。張名に対してQ県警から任意聴取を求められているところだろうよ」

 ……薬子の睨んだ通り、この張名春彦はニセモノの薬剤師だったのだ。五十歳になるまで誰にもあやしまれずにずっと薬剤師として勤務してきた大ベテランのニセ薬剤師だったのだ!


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 発端はQ県にある張名がいた精神病院で入院患者が調剤過誤で死亡したことだ。死亡したのは半年前で張名がやめる直前の話。

 残された遺族が病院側の説明に全く納得せず訴えたのだ。

 責任者である張名が引責して退職したこと、裁判にせず和解にして賠償金を支払ったことで病院側はケリをつけたと思ったらしい。が遺族は全く納得していなかった。

 遺族にも医療職がいて当時の責任者の張名の対応ぶりをきいて不審を抱いたのがその始まりだったという。重篤な調剤過誤により大事な家族が急死した。その医学的な説明を求めるために院長と遺族同席の上で張名の説明を聞いたのだがどうにもわけのわからぬ間抜けぶりで怒った遺族が警察に訴えたわけだ。

 だが遺族からの被害届を受理したQ県警は念のために厚生労働省への問い合わせをした。それで事態は急展開した。張名春彦なる人物が薬剤師ではなかったからだ。

 遺族は驚愕した。当時の張名が当該病院の薬局長だとして応対したからだ。

 そして長年張名を雇用してきた病院もその事実を知らなかったらしく非常に驚いたらしい。


 ということは張名は最初の最初から薬剤師免許をもたないまま、新卒の薬剤師として就職しそのまま実に二十年間超、Q県の精神病院に勤務しつづけていたことになる。


 翌日もう張名というニセ薬剤師の存在は新聞にでかでかと出た。

 ニセ医者はたまに出るがニセ薬剤師が新聞をにぎわすのはおそらくはじめてではないだろうか。しかも張名は五十歳。

 その年になるまで薬剤師としてやっていけたのだから世間が驚いたのも無理はなかった。おまけに実家の父親も薬剤師、そして妻も薬剤師、子供も薬科大学にいる薬剤師の卵だった。

 妻も張名はニセ薬剤師だと知らずに長年一緒に住んでいたのだ。息子も父親がニセ薬剤師であるのも知らなかったのだ。遠縁だといわれる現勤務先の悶悶薬局の悶悶社長ですら知らなかった。

 なぜ、それができたのか?

 そしてまたなぜ、そんなことをしたのか?


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 張名春彦は薬剤師法違反によって逮捕された。

 彼の自供によると最初のきっかけは父親が薬剤師であったことだという。それとニセでもいいから薬剤師になれ、という父親の提案だという。







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