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派遣薬剤師、藤原薬子の忘備録  作者: ふじたごうらこ
第三章・袋詰薬剤師
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第七話

◎ 第七話


 勤務二日目。

 張名には薬のヒートを取る時、何かの拍子に処方箋や紙類を取る時、薬袋を取り出す時にどういうわけか指をぺろっとなめるくせがあった。粉薬が一包で一gに最初から分けて包装されている粉薬を取り出して数を数えるときにぺろっと指をなめてからするのだ。それからまたぺろっと。これを最初見た時は非常識だと感じた。不衛生だし生理的な嫌悪感も感じるではないか。

 薬子は遠慮がちに、窓一枚隔ててまっている患者に聞こえないように小さい声で注意した。

「あのう、張名さん。生理的にそれはどうかと思います。やめていただけませんか」

 薬子はつい昨日ここで仕事をはじめたばかりだ。今日が二日目で朝の開局からはじめてまだ一時間もたっていない。

 その時、夏野ははっとした様子で息をとめてこちらをみていたのがわかった。張名は無言で頭を下げた。その時はわかってくれたのだと思ったが五分後にはまたやったのだ。薬子は頭に来てはっきりと「やめてください」 と言った。

 この人はもう五十歳である。年齢と薬剤師としての経験は張名の方が薬子よりもそうとう上である。しかも三百床ある病院の薬局長までしていた男である。だから信じられなかった。

 紙類、たとえば新聞をめくるとき年配の人は無意識にでも自分の指をぺろっとなめてつばをつけて、めくりやすいようにする人はいるかもしれない。だが「清潔」 が当たり前の医療機関である薬局の薬剤師が薬のヒートや患者に渡す薬袋に自分のつばを なすりつけるというのはいかがなものであろうか。

 薬子は過去今まで結構な人数の薬剤師に会っている。尊敬できる人もいれば、なんとなくソリがあわない、という人もいた。だが張名のようにゆびに自分のツバをつけて調剤する薬剤師に会ったのは初めてだった。そういえば昨日のお昼に張名は隅っこで弁当を食べていたが一口ずつ食べる前に箸を舐めてからおかずをつつくという仕草をしていた。彼はそういうのが癖になっているのだろう。張名は無表情に薬の数を数えている。返事がないので薬子は重ねて張名に言った。

「昨日仕事をパートではじめたばかりの私が正直とても言いにくいですが……張名さん、あのう調剤するときは」

「わかりましたから!」

 張名は薬子の言葉を途中でさえぎって強い調子で返答した。だから薬子は黙ったが頭にきた。大体昨日の抗生物質の疑義照会だって自分のミスも認めず薬子のしたことに礼も言わず反省も言わず弁解だけは言った。

 ちょっと……ナニコイツ……!









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