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派遣薬剤師、藤原薬子の忘備録  作者: ふじたごうらこ
第三章・袋詰薬剤師
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第三話

◎ 第三話


 さて薬子は翌朝から悶悶薬局に入った。パートなので九時から五時までという約束だ。時給もはずんでくれた。九時から勤務だからといって九時ちょうどに職場にはいるのは単なるバカである。薬子はどの職場でも早めに入っていく。薬局裏口から入室するとすぐ横にタイムカードの打刻機がある。薬子の姿を見ると夏野がとんできて「おはよーございまーす、藤原先生のカードはこっち、くつはこっちで脱いでくださーい、ロッカーはあっちでーすそれと社長はあとから来まーす」 といってきた。彼女は片手で掃除機を持ち、もう片手は雑巾を手にもっている。朝の掃除をしているのだ。薬子の方をしっかり向いて明るくにこにこしている。この子とはうまく仕事をやっていけそうだと感じた。

 今日は天気もよく、日差しも明るい。寒いがからっとした天気だ。薬局の待合室は採光もよく感じがよかった。OTCも少しだけおいてあるが、熱さましのシートや痛み止め、湿布など最低限の基本的なものしか置いてない。窓越しに水位病院の駐車場が見え、すでに四台、患者のだろう、止まっている。自転車も子供用とあわせ数台ある。

 調剤室の隣にある細長いロッカーにはすでに薬子の名前が記載されていて、白衣も新品でちゃんと置いてくれている。机はみな共同のようだが、「これ社長からでーす」と夏野から渡された封筒に薬子専用の調剤印とペンが入っていた。

 きのう面接したにもかかわらず、こういう手まわしよく準備をしてくれる職場はよい職場だ。薬子は悶悶社長と夏野事務員に好感をもった。そして精いっぱい働かせてもらおうと思った。


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 ロッカーから一歩でるとそこはもう調剤室だ。狭いながらもぎっしりと薬がつめこまれている。すみに机が一台置いてあってそこにはPCがある。その前にすでに張名はすわっていて何やら操作していた。薬子はすぐにそばによって管理薬剤師兼上司になる張名にあいさつした。

「今日からお世話になります、改めまして藤原です。よろしくお願いします」

「あ……どうも」

 張名は小さい声でもごもごと言った。聞き取れないぐらい小さい声だ。目線もあわせてくれない。薬子はどうせすぐやめるんだろうとか思われているのかと感じた。残念に思うが薬剤師の男性で大人しくて口下手な人はいくらでもいるから特に気にしなかった。


 だが張名の次の言葉を待っていたが何も言わず彼は黙ってPCをのぞきこんでいるだけだ。何をしているんだろうと見なくてもわかった。彼は昨日の処方箋の整理と服薬指導事項を書き込んでいるのだ。どこの調剤薬局でも処方箋の受け入れをして調剤した後薬剤師が患者に薬を渡す時の説明が義務付けている。その指導記録もあとに残るようにまた次回来局した時につなげて話すことができるようにしないといけない。 

 彼は昨日忙しかったが残業ができなかったか何かで今朝指導記録を書きこんでいるのだろう。ここの記録簿というのは紙製ではなくPC上に記録を残して言っているのだ。いわばペーパーレスになっているのだろう。そこへ夏野が小さなメモ用紙を渡してきた。

「あ、服薬指導記録用の藤原先生のパスワードもあります。これです」

 見れば自分の誕生日がそのまま四ケタのパスワードになっている。

「藤原先生もう一台、指導記録用のパソコンが私の事務机の上にあるんです。張名さんが使っているときはこっちで記録をお願いします」

 夏野がてきぱきと教えてくれた。その間も張名は黙々と指導記録を書きこんでいる。というかゆっくりと考えながら一文字一文字をうちこんでいるのだ。

「パソコンの文字操作に慣れてない人なのかな? まだこちらの薬局にきて半年だというし」

 薬子は疑問に思ったがそこへ患者が早速赤ちゃんを抱いてやってきた。時計を見るとまだ八時四十分だ。九時から開始とはきいていたが水位医師は早い目に診察をされるのだろうか。早く薬局に来ておいてよかったと思った。

 すかさず夏野が「おはよーございまーす」 といって水位病院からの処方箋とお薬手帳を受け取った。

 常連の患者らしく「子供がまた熱をだしたので座薬をお願いします」 と夏野に言っている。

 結局早めに入室したのに、オリエンテーションというか管理薬剤師から処方箋の流れも医薬品の配置も教えてもらえないうちに時間切れで本番突入になってしまった。が、小さい調剤薬局はこんなものかもしれない。新人教育とか研修とかいうものはもっと店舗をたくさん抱えている大手のところがやるものかもしれない。薬子は張名ののっそりとした印象のまま、あいさつしている薬子の顔も見ず会釈だけですまされ会話もなかったのが気になった。だがそれは序の口だったのがすぐにわかった。










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