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第三話

ある日国内最大手の主要全国七新聞社の朝刊トップにゼット製薬の論文捏造に関する記事がでかでかと出た。各チャンネルのニュースのトップにも報道された。


 ゼット製薬の「アマクナーレ」 にデータ捏造疑惑!

 会社ぐるみの詐欺的販売か。

 ゼット製薬の最大販売数を誇る「アマクナーレ」 データ捏造疑惑。

「アマクナーレ」 三十本近い論文に不正疑惑。


 大きな活字で文面が踊る。

 そして日を追って騒ぎが大きくなった。大学研究機関の金銭傍受疑惑、政治家の献金疑惑。そしてとどめがゼット製薬一押しのある抗悪性腫瘍剤「シンドクナール」 のデータ改竄だった。

 ゼット製薬広報は最初全否定するも、やがて最初の創薬の研究事業に厚生労働省の科学臨床研究費補助金に莫大な金額を拠出されていたこともあり、検察も乗り出して当事者を拘束しての事情聴取もおきてきた。

 そしてゼット製薬の息がかからぬ他の機関による簡易的な臨床実験により、「アマクナーレ」 には血糖降下作用はあっても脳梗塞予防には全く関与しないということが確立され、世間の風当たりは最高潮になった。

 ゼット製薬の発売されている医薬品全部が取引停止となり、それどころか事態を重く見た一部の病院との契約も無期限で打ち切りとなった。株価は半額近くまで下がり、それによる自殺者も出た。政治献金を長年受け取ってきた政治家は大臣職を退き責任をとった。


 記事のトップニュースをにぎわせて一カ月ほどたってからゼット製薬から公式な通告がなされた。一連の事件を会社自身で調査していたが、その結果ゼット製薬の主要機関であるゼット製薬ニュービジョン創薬研究センター主幹の皆川珠洲絵みなかわすずえなる人物が捏造をしていたというものだ。

 皆川は取り調べを受けてすべて自分の考えでやったことを自供し、ゼット製薬から退職勧告を受け辞表を出して研究センターを去った。が誰も皆川一人でやったことだとは信じてない。彼女は逮捕前日に辞表を出し、その逮捕日の朝すでにやめたはずの本社内にある研究センターの資料室で自殺したという。


 隠密薬剤師藤原薬子は事の真偽を探ってくれ、と史眼に依頼されたが、これは検察側もまた血税から補助金を拠出した厚生労働省も捜査がいきづまり、迷宮入りうやむやにされることを恐れてのことだろう。

 事実ゼット製薬は国内最大手と言うこともあり、発売前の治験事業も各都道府県の主要な病院に依頼していたし、発売後も医師会、糖尿病医学会、薬学会、看護学会、内分泌研究学会すべてにつながりがあった。その関係の複雑さは海外に業務提携しているゼール製薬も加わり混沌としている。

 また医師の処方箋がなくとも売れるコンビニによく置いてある栄養剤もゼット製薬はシェアトップを誇る。特許もたくさんある。だから株価が半減しても絶対に倒産はなかった。ゼット製薬は一職員の皆川にすべてを押しつけて逆風に耐えていた。

 この時期を耐え忍ぶといずれは取引も再開されるであろう、日本人には薬は不可欠なもので脳梗塞の予防にはならなくとも血糖降下剤としての「アマクナーレ」 には欠点はないものと信じていたからだ。


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 自殺した皆川珠洲絵は「アマクナーレ」 の市販準備からマーケティングの責任者として辣腕を振るい、売上げ年間三千億円を達成するまで担当した。彼女の当時の肩書は『アマクナーレマーケティング部長』。ゼット製薬の企業カラーである『ブルーと白』 のスーツに身を包み、ゼット製薬のゆるきゃらである「アマクナーレ」 カプセルをかわいくデザインしたピンク色のバッジをいつもつけていた。その恰好で足しげく各研究機関や大学病院に通っていたのである。

 年齢は三十歳。

 国立T大薬学部卒。

 二十代で医学博士号、次いで薬学博士号をとり、海外でも二年間国費留学して成果をあげた。次々に創薬分野で画期的な成果をあげて賞もいくつかとっている。ラボ実地の臨床実験の現場にも強く、かつ語学堪能で弁もたつ非のうちどころのないきりっとした美女だった。

 海外で実績をあげたあと、今度はゼット製薬の広報に見込まれ来てくれと頼まれたという。果たして彼女はゼット製薬でいきなり広報に入り最初からアマクナーレの販促にかかわって誰もが認める販売実績をあげていったのである。皆川珠洲絵はいわば創薬分野かつ製薬広報分野での才媛だったのだ。






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