第十話
第十話
結果。
県薬剤師会長の多田が告発したルンルン薬局チェーン社長の餡祖に対しては咎めなし。ただし、処方箋受け入れ枚数に比して薬剤師が少ないという指摘あるも餡祖は即日他の店舗から薬剤師を回したりパート増員すると確約、県薬務はこれを受け厳重注意、適宜経過観察、監視強化に留めた。
逆に告発者の多田が在宅指導の不正請求により告発を受けた。
まずその二か月前に門前の病院、多田の親戚が院長をしている私立の整形外科病院が監査を受けて告発された。名目は保険点数の不正請求、看護師水増しなど。
よくあることでこれはあまり話題にはならなかった。だが数千万円の点数返還要求を受け病院側は苦慮したはずだ。きちんとこれはしておかないと今度は保険指定病院を取り消されてしまうので当然即時恭順の意向を示し返還したはずだ。
次に多田薬局が監査を受けた。
薬子があらかじめ証言、証拠をあげておいたため、官による査察はスムーズにいった。
これは在宅の服薬指導点数を水増ししていたことによる。これにのみならず、薬剤師の資格もない医療事務員が患者の自宅に伺って薬を渡すだけで指導点数を稼いでいたことによる。患者やその家族には指導料の名目ではなく、薬の配達料と説明していたため特に悪質だと認定された。在宅指導は最低でも五百(著者注;平成二十七年二月現在での点数です)麻薬加算などあればプラス百点。老人保健なら患者の負担は一割なので五百円、残り四千五百円は保険から。つまり合計五千円が売り上げになる。これを患者の薬を渡すだけで服薬指導もしていないのに、点数計算をしていたのだ。また配達していた事務員の聞き取りに対しても配達料金の徴収だと思い込んでいたため悪質度はもっと上がった。保険点数を稼ぐためには何でもしていたというわけだ。対象患者は老人保養施設も含めると月間数百人にあがった。
開局薬剤師で初の摘発のため、これは全国紙に掲載された。それも県薬剤師会長の経営ということで実名もきっちり載った。当然多田の名前は地に落ちた。
そもそもの始まりは多田がルンルン薬局の餡祖をねたんでの告発だったがかえって墓穴を掘ったわけだ。
薬子は多田が薬子の個人情報を承諾なしによその薬局にFAXで丸ごと流されたことで激怒したが、こういう形で意趣返しもできたということだ。新聞掲載後に多田の個人情報が週刊誌に続報という形でさらされ薬子はこの雑誌を発売当日早朝に買い求めておおいに溜飲を下げた。
マスコミに悪者というレッテルを貼られてしまったらもうとことんまでやられる。いわば多田の性格、多田薬局の悪評、多田家の家庭の崩壊までおもしろおかしく報道された。世間は一旦キバを向くととことんまでやられてしまう。
何もしてないくせに、過去数十年にわたって不正請求してきたことにより、彼女は億を稼いでいたのだ。平気な顔で平然と要職について。
こういったことが公にされると今までゆるやかでおおらかだったはずの田舎でもまったくの裏返しになる。
多田薬局はA県頓挫市の地域全体に泥を塗ったとして白い目でみられたのだ。多田薬局に雇われていた勤務薬剤師は即日やめ、多田は閉店せざるをえなかった。
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最初の新聞報道から一カ月ももたず、多田薬局は二店舗とも閉鎖閉店した。
あとをついだのはルンルン薬局の餡祖だった。
いきなり多田の独占状態であった地域を取れたのだ。餡祖はうれしかっただろう。しかももともと二十店舗ももっていたので人員にも余裕がある。多田薬局の看板をルンルン薬局のかわいい看板に変えてあとは居抜きでレイアウトもそのままにすぐに営業をはじめた。
増員もして医師の在宅治療にも同行し、患者の居住家内での服薬指導もきっちりこなした。
この勝負は餡祖の勝ちであった。
告発者の多田会長の負けだった。
数年後、多田は自殺したと薬子は聞いた。
ある告発・完




