第九十七話
「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「早くそっち押さえて!」
「そんないきなり言われたって困るんだよ!」
翌日、まだみんなが寝静まっている早朝。
俺とミーニャは誰にも(特にマオに)ばれないように家を出た。
やってきた場所はマオの城――昨日も寄ったオークが居る件の場所である。
何をしにやってきたのか。
その答えは簡単である。
「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「もう、うるさいんだよ! そういう子は取りあえずこれで口を塞いで――」
「ぶ、ぶひぃいいいいっ――――もごご……もごっ」
誘拐である。
別の言い方をするならば、拉致ともいう。
マイルドな言い方をするならば、御同行いただいている。
誰に?
もちろんオークにだ。
「もういいよ、お兄ちゃん。拘束魔法を三重にかけたから、そうそう脱出できないと思う。念ために目隠しもしたし」
「お、おう」
何でもいいけど、ものすごく物騒な台詞だな。
まるで犯罪者のようだ。
「ようだっていうか、殆ど犯罪者だよ。お師匠さまには秘密なわけだし」
「確かに……というか、勝手に心を読むなよ!」
「えへへ~」
「……はぁ」
まったくこいつは。
俺は呆れつつも続ける。
「それで? 今度こそ大丈夫なんだろうな?」
「オークに意思伝達できるか?」
「あぁ」
俺が頷くのを見ると、ミーニャは自信満々そうかつ愛くるしい笑顔で答える。
「大丈夫だよ! 今度こそ絶対に大丈夫!」
「…………」
とか言って、また何かとんでもない事件が起きる気がしないでもないが、とりあえず今のところは――。
「信じるよ、じゃあ任せたぞ」
「うん!」
妹と共にオーク達を『穏便』に黙らせ、その首領らしきこのオークを誘拐するのだった。




