第九十五話
鬼だ何だと罵られる覚悟で、俺はリゼットに頼み込んだつもりだったのだが、彼女はすんなりと認めてくれた――お兄様がどうしてもと言うならば、と。
「いつかお礼しよう、絶対にお礼しよう」
そう言えばこいつは強くなりたいから俺について来ているはずだ。
一回本気で戦ってみたりするのもいいかもしれない……あまり気は進まないが、これだけ俺のために何かをされてばかりだと、さすがに心が痛い。
だが今は心を痛めておくだけにとどめておくとしよう。
なにせ、今からリゼットは俺が予め伝えておいたことを、さらにオークへと伝達してくれるのだから。
「…………」
何だか緊張するな。
以前も思った疑問だが、恰好を変えるだけで本当にオークに話が通じるのだろうか。
俺は緊張しながらリゼットとその周りを囲むオークの方へ目を向けると、ちょうど彼女がオークに向けて話し始めるところだった。
「緊張の瞬間だな」
俺が見守っている間にも、リゼットはビックリするほど要領よくオークに俺が言いたい事を伝えていく。
その間、彼女の話を聞いているオークも、先ほどまでの喧噪が嘘だったかのように黙っいる。
「これはもしかすると、もしかするのかもしれない」
さっきまで猛りくるっていた奴らが、急に静かになって一心不乱にリゼットの話を聞いている。
この状況、俺じゃなくても期待するというものだ。
「という訳なのですが、わかりましたか?」
む、どうやらリゼットの話が終わったようだ。
結果は――。
「ぶもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
えーと。
これはどういうことだ?
オーク達は再びリゼットを取り囲んで猛り狂い始めた。
……つまりこれは。
「お、お兄様!」
つまりこれは。
「ぶもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「全然だめじゃねぇかぁあああああああああああああああああっ!」
俺はオークの叫びに負けじと声を張り上げ、ミーニャに会うべく即刻引き返すのだった。
もちろんリゼットを救出するのも忘れない。
余談だが、救出する際についつい暴れている奴らをはっ倒してしまったのは勘弁してほしい。




