第八十九話
「それでどうして私なのでしょう?」
俺は思わず『本当かよ』と疑ってしまうようなオークとのコミュニケーション方法をミーニャから聞きだした後、とある人物を連れてマオの城へと戻ってきた。
そのとある人物こそが、先ほどの声の主。
リゼットだ。
「いや、まぁ細かい理由を説明するとちょっとアレだけど……とにかくお前にしかできない事なんだ」
「それはわかりましたが、やはり理由は気になります」
「…………」
ダメだ、言えない。
ミーニャから聞いた理由をリゼットに言うのは、何だかダメな気がする。
まぁ別にヤバイ単語が飛び出してくるわけでもないのだが、さすがに女の子にこういう話題はあんまり良くないよな。
だがしかし。
その一方で、そんなことをリゼットに頼もうとしているわけで――。
「……はぁ」
なんか俺って駄目かもしれない。
というか、最近やたらと溜息が多い。
この世界に来てからというもの、溜息を吐かない日というのがまずなくなった。裏を返せば、それほど毎日が充実していると取れなくもないのだが……。
まぁその辺りは実に微妙なラインだろう。
「とにかくリゼット、なんやかんやあったせいで今日は遅い。お前をわざわざ呼んだ要件は明日済ませるとして、今日は晩御飯でも食べに行くか」
「はい、実は先ほどからお腹が空いていて……それに魔王の城で出される料理、非常に興味があります」
「…………」
「どうしたんですか、お兄様?」
「あ、いや……うん」
まぁとりあえず晩飯だ。




