第八十五話
「つまりなんじゃ、もっとやり甲斐のある仕事をくれと?」
なんだろう。
マオに思っていることをありのままに話したら、現状に満足していない新入社員……もしくは、口ばっかりで役に立たないアルバイトみたいになってしまった。
なんだか俺がした話をかいつまんで纏められ過ぎた感はあるが、言いたい事は大方伝わったようなので、とりあえずはこの辺りで妥協しておくか。
何せ――。
「マオ姉さん、お兄さん……どうして開けてくれないんですか?」
そんな声と共に聞こえてくる扉をドンドンと叩く音。
そう、奴が居るのだ。
あのダメ狐ことリンが、この扉の向こうには居るのだ。
奴が来たら間違いなく普通に話すことは不可能だ。
俺が真面目に話したかったから、エリスにリンを足止めしてくれと頼んでおいたのだが、結果はご覧の通り。
「お兄さん……マオ姉さんを凌辱する気ですか?」
「あ、あんたバカじゃないの!? よくそんな恥ずかしいこと言えるわね!」
「……はぁ」
そう、結果はご覧の通り。
足止めどころか、エリスまでついて来てしまっているのだ。
もっとも、何とか奴らを振り切り、マオの部屋に転がり込む事に成功した今となっては、それほど気にする事ではないのかもしれないが、向こうは魔法を無効化する貧乳娘と、魔王クラスの魔法をポンポン行使するダメ狐。
いくらこちらにも魔王が付いているからといって、決して油断の出来る状況ではないだろう。
よって、奴らがこの部屋に侵入してくる前に、眼の前の魔王ことマオと話をつける必要があるのだ。
「何を溜息ついているのじゃ」
「溜息吐きたくもなるだろ、あれ」
「まぁそう言うでない。リンはともかく、エリスは比較的まともじゃからな。一緒になって騒ぎを起こすことはないじゃろ……多分」
「多分、ね」
「多分、じゃ」
部屋の中でマオと互いに顔を見合わせたのち、俺たちはゆっくりと頷く――お互いにお互いの苦労(主にリンに対する)を理解できるっていい事だな。
「それで話の続きじゃが……」
「ん、あぁ。エリスと一緒に居るだけでお金もらうのアレだから、とにかくなんか仕事くれ。あくまで体裁だから、金銭は要求しないから」
「我はそんなにせこくないのじゃ! ……でもわかったのじゃ、そこまで言うのなら、しっかりとした仕事を準備するのじゃ」
「…………」
「そんな顔をしなくても、安心して任せるのじゃ」
「……まぁ、信用してるよ」
俺がそう言った途端。
背後で扉が吹き飛ぶ音が聞こえたのだった。




