第八十二話
「…………」
「…………」
早朝。
食事も取らない内から、俺はマオに呼ばれて、彼女の部屋へと赴いていた。
わざわざ俺の部屋まで迎えに来た猫耳のメイドさんに案内されてやってきたのは、昨日とはまた違うマオの部屋――いったいこいつは何個自室を持っているのだろうか。
まぁそれもこれも魔王というステータス故なのだろうが。
「…………」
「…………」
にしても、先ほどから流れているこの重苦しい空気は何なのだろう。
俺がマオの部屋にやってきたら、彼女は俺に席を勧め、俺が座っている対面に自らも腰掛けたのち彼女は無言になった。
そしてその状況が今もなお続いているのだ。
と、俺が短い過去回想を終えたところで、ようやくマオが口を開く。
「えーとじゃな……」
「何をそんなに言いづらそうなしてるんだよ?」
「いや、うむ……なのじゃ」
うん。
マオがこれだけ言い渋るって事は、相当重要な事なのだろうが、なんだかトンデモなく嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
「ではお言葉に甘えて言わせてもらうのじゃ」
そしてマオは言う。
俺の顔をじっと見つめ、真剣な眼差しで。
「昨夜遅くに我の部屋にリンがやってきての……こう言ったのじゃ――『お兄さんに身も心も汚されてしまいました』とな」
「うん、なるほど……だが最初に一つだけ言わせてくれ、俺は断じて――」
「わかっておる、リンがそういう事を言う時は120%妄言だという事をはわかっているのじゃ」
さすが姉。
妹の事は何でもわかるという事か。
だとすると、リンはどうしてそんな事を言ったかという事だが、いつものノリでマオにも妄言を言ったという事だろうか。
「という訳でじゃ、リンは我が思っている以上におぬしが気にいっているようじゃからの……そろそろ結婚の話でも――」
「なんで!? 話し飛びすぎだろ! なんかものすごい何かを飛ばしたよね!?」
だいたい何が『という訳』なのだろう。
だがしかし、俺の考えて居る事などお構いなしに話は進んでいく。




