第七十六話
「さーて、とは言ったものの、どこに行こうかね」
マオの城に来たのはこれで何度目かになるのだが、こうして歩き回る機会があったわけではない。
「俺がこの城で行ったヵ所と言えば、マオとリンの部屋……あとはそこに行くために必要な廊下くらいのもんなんだよな」
まぁこういう城自体、普通の日常生活では来られるものではないし、とりあえず歩き回ってみよう。
きっとそれだけでも楽しいはずだ。
それから数分後。
「…………」
俺は廊下にチョコンと置いてあった椅子に腰かけ、茫然と眼の前の光景を眺めていた。
「…………」
あんまり人気がなかったから、なるべく人が居そうな階層に行こうと思い、なにやら騒がしかった階に降りてきたら……すごいものを発見してしまった。
魔物だ。
モンスターだ。
オークやら、ミノタウロスやら、骸骨の騎士やら……物語の中でしか出てこないであろう、ある種伝説的な存在が、箒や雑巾をもって廊下を行ったり来たりしている。
大掃除だ。
要するに大掃除中だ。
オークもミノタウロスも骸骨騎士も、全員メイド服を着て掃除しているところが適度にシュールで面白い。
「あ……へぇ、ゴブリンってリアルで見るとああいう感じなんだ」
それからさらに数分後。
マオが魔王であるという事を俺が再認識した頃になって――何だかんだいっても、やはりあいつは凄い人物なのだという事に気が付いた頃になって、
「さて、そろそろ次の場所でも行くか」
言って立ち上がり、俺は背伸びをして歩きだす。
「次は地下室でも見てみようかな……魔王城の地下室ってなんかすご――っ!?」
と、俺は思わず言葉を打ち切るしかなかった。
なぜならば、
「な、なんだこれ!?」
突如地面に円形の魔法陣が浮かび、その魔法陣が描かれた床が俺の体を飲み込み始めていたからである。
「くそっ!」
突如の事態に俺はジタバタともがくが、体を飲み込む速度は凄まじく、もうすでに胸元付近までが飲み込まれてしまっている。
何だ。
一体何が起きている!?
「だ――っ!」
誰か!
そう叫ぼうとしたところで、俺の体は完全に飲み込まれた。




