第七十二話
「にわかに信じがたい能力じゃが……我の結界が容易く壊された以上は、信じざるをえないようじゃな」
「ふん! ようやく信じたの?」
「おぬしの口伝だけならともかく、証人がこうして二人も居るのなら信じる他ないのじゃ」
「なっ! ど、どういう意味よ!」
と、何やらやかましいやり取りを続ける二人を見ながら、俺はこのやり取りの発端について思いを巡らせる。
それはエリスが自分の能力について詳しく説明し出したところから始まったのだ。
『あたしの固有魔法は、どんな魔法も打ち消せる魔法なの! 正確に言うなら、あたしの魔力には微力だけど魔法を打ち消す作用があって、それをこのあたしが作りだした特別な魔法で集めて外に放出して……って、何よその胡散臭そうな眼は!』
一応エリスはしっかりとした説明をし始めてはくれたのだが、その説明を聞くマオの眼は終始半開きの不信感全開といた様子だった。
その理由は簡単。何でもマオ曰く、
『魔法を打ち消せる魔力を集めて、魔法を打ち消す魔法を使うじゃと? 何なのじゃその滅茶苦茶で矛盾しまくっている説明は……全く信憑性がないのじゃ。論外なのじゃ』
あとのやり取りも単純極まるもので、基本的にはこの様なものだった。
『それが出来るから、あたしは凄いって言ってるでしょ!』
『だから、そんな事は理論上不可能だと言っているのじゃ!』
俺とミーニャが間に入るまで続けられたこの会話。
この益体もない会話の間、俺が思っていた事はただ一つ。
うむ、やはり語尾に「のじゃ」をつけて喋る狐っ娘はかわいい。
あと着ている服も以前と違って、巫女服みたいだし……やはり狐には巫女だな。
何てことはない。
俺は俺で益体もない事を考え、ひたすらに時間を潰していたのだ――会話が一応一段落した今の今まで。
「まぁ本当に仕方がなくじゃが、納得はしたのじゃ」
マオは難しそうな顔しながら、今も文句を言い続けるエリスをスルーして俺とミーニャへ話しかける。
「それでじゃな……物は相談なのじゃが、こやつを我のところで少しだけ預からせてはくれないかの?」
「エリスちゃんを?」
「嫌よ! あんた魔王なんでしょ? あたしの事を解剖したり洗脳したり――」
「うっさいのじゃ! おぬしは黙っていろなのじゃ!」
そんな二人を苦笑いしながら見て、ミーニャは続ける。
「いくらお師匠さまの頼みとはいえ、まだこの世界に来たばかりのエリスちゃんを、一人で魔王城にやるのは心配なんだよ……」
「そういうと思ったのじゃ」
と、俺の方だけを見てくるマオ。
……うん。
なんだかこのパターンは凄く先が見えるのだが。
「どうなのじゃ?」
「展開は読めたけどさ、ちゃんと声にだして問いかけるくらいしようよ!」
この日、かつてクビになった場所で、また働くことが決定したのだった。




