第七十一話
マオの話を聞いてから数分後、俺たちは炬燵の代わりに置かれた卓袱台を囲んでお茶をしていた――余談だが、座っている順番は時計回りに俺、ミーニャ、マオ、エリスといった並びである。
これはさらに余談なのだが、どうしてこの家には炬燵や卓袱台などといった、やたらと日本的なものが多いのだろうか。
仮に全てミーニャが召喚魔法で取り寄せているにしても、いささか多すぎる気がする。
まぁそれは置いておいてだ。
どうやらマオがここに来た理由をまとめてみると、こういうことらしい。
あの地下室に張られていた結界――つまり魔王であるマオがほぼ全力を出して作りだした、最高傑作ともいえる結界が、エリスの能力関連で消失たのをいち早く感じ取ったマオ。
あとは言うまでもないかもしれないが、彼女は結界が消失した理由を確かめるために急いでここに来たらしいのだ。
「…………」
まぁ、急ぎ過ぎた結果として俺のチョップを食らわせてしまった訳だが――タイミングが悪かったとはいえ、あの件に関しては本当に申し訳ないと思う。
「それでミーニャよ。一息ついたところで我の結界が消滅した理由を、ちゃんと教えて欲しいのじゃ」
マオが『ちゃんと』と言ったのは、俺の右隣りに居るエリスにある。
「ちゃんとって何よ! だから、あたしが実力で消したって言ってるじゃない!」
この通りである。
何がこの通りって……要するにエリスがぎゃぎゃあ騒ぎまくっているのだ。
「だから、おぬしの返答では根本がわからないと言っているのじゃ!」
「根本って何よ? バカじゃないの、バーカ!」
「……むぅ」
わかる、わかるぞマオ。
俺は可愛らしい狐耳をヘコリと垂らし、狐尻尾を力なく振っている――言いかえれば、もううんざりという感じが伝わってくるかのように尻尾を振っているマオを見て、うんうんとひとり頷く。
「何よその態度、子供のくせに!」
「だから我は子供ではないと言っているのじゃ!」
「どっちにしろ、あんたが分からず屋なのは確かね!」
「なんじゃと?」
「あたしのこの力――アンチマジックを信じないなんて、それこそ信じられないわ!」
「アンチ、マジック……じゃと?」
「ふん、何驚いた顔してんよ? 今更驚いても遅いんだからね!」
いやエリスよ……遅いも何も、さっきまでのお前は実力がどうの言っているだけで、何が凄いのか――すなわちどういう能力を使って結界を消滅させたのか言っていなかっただろ。
そして案の定、結界が消えた理由――エリスの口からアンチマジックという単語を聞いたマオの表情は、いっきに真剣な物へと変えるのだった。




