第七十話
「う、む……我はいったい?」
「あ、起きたか。さっきは悪気がないとはいえ本当に申し訳ない」
「ふん、あんた最悪ね! こんな子供にいきなり暴力振るうなんて……おまけに気絶させて、あたしなんかよりよっぽど悪魔ね」
「もとはと言えばお前のせいだろうが! だいたいこいつは子供じゃない!」
そもそもエリスが俺にミカンの皮をぶつけてこなければ、こんな惨事は発生しなかったのだ。
まぁチョップにはそんなに力を込めて居なかったし、偶然クリーンヒットしただけでこの狐っ娘――すなわちマオも無事でよかった。
と、俺はリビングにある座布団を二つ並べて作った簡易布団に寝転がっているマオを見る。
「…………」
まだ目覚めたばかりで意識がハッキリしていないのか、それを象徴するかのようにピクピクと動くモフモフ狐尻尾と狐耳がいつもより三割増しくらいで可愛く見える。
やはりマオが魔王だなんて信じられないな。
どっちかっていうと、愛玩どうぶ――
「ぐはっ!?」
「何にやけてるのよ、変態!」
「にやけてないだろ別に! この凶暴女め!」
「何ですって!?」
「何だよ!」
と、言いあいになったところで、流しからゲアラブアの天日干しを持ったミーニャが戻ってくる。
「お師匠さま、ごめんなさいなんだよ」
「うむ……なんだかよくわからない内に気絶していたようじゃが、おぬしの兄から詫びの言葉はもらったしの、別に気にしていないのじゃ」
マオはそう言うと、頭に生える耳と耳の間を少しさすさすした後、リンが来ている巫女服のようなものの黒統一バージョンの裾などを正しながら座布団に上へと正座する。
外見は子供でもこの大人な対応。
いつかリンもこうなるのだろうか……だとしたら、にわかに信じられない。
「時にミーニャよ、我が今日きたのは何故だかわかるかの?」
「今日来た理由? わからないんだよ……それにミーニャたちは諸事情で地下室に監禁されていて――」
「その地下室の事が要件なのじゃ」
言って、地下室の結界を張った張本人であるマオは、エリスを横目でチラリと見たあと語りだすのだった。
今日ここに来た理由を――あまりにも急いでいたがために室内に転移し、偶然俺のチョップを弱点部位に直撃させてしまった理由を。




