第六十話
とは言ったものの。
ここから出る手段など本当にあるのだろうか。
「なぁ、ミーニャ」
「な、なに……お兄ちゃん」
「何でそんなにビクビクしてるんだよ――まぁいいや、この部屋の出口って本当に一つしかないの?」
「う、うん……えへへ」
「…………」
なんだろう。
ミーニャの態度が不審すぎてやばい。
まぁそれはおいおい問いただすとして、やはりこの部屋の出口は一つ――すなわち、俺たちが入ってきたあの扉しかなさそうだ。
そうなると、当然この部屋から出る方法は一つしかない。
「あの扉を開けるしかないんだよな、やっぱり」
でも現状、それが出来ないから悩んでるわけで……待てよ。
「この部屋って防音だったりしないよな?」
「し、しないよ」
俺が聞くと、あいも変わらず全体的に不審なミーニャはぎこちない笑みを返す。
本当に何なのだろう、こいつは。
まさか知られてはならない何かを隠して居たりするのではあるまいな――例えば、自分だけしか通れない秘密の抜け穴とか。
「…………」
「えっと、どうしたの……お、お兄ちゃん?」
怪しい、実に怪しい。
だがしかし、こいつが俺にそんな隠し事をするとは思えないので、それは除外してもいいだろう。
と、俺がそんな事を考えながらミーニャを見ていると、彼女は居心地悪そうに言う。
「どうして防音かどうか聞いたの?」
「ん、あぁ……防音じゃないなら、リゼットとリンが帰ってきたら、あいつらに助けを求めればいいだけの話かなって」
別に急ぎの用事があるわけでもないし、ここには話し相手もいる。
俺が挙げた戦法は十分に実用性が――
「お、お兄ちゃん……実はね」
「ん?」
何とも気まずそうな笑顔でミーニャは言う、この後の運命を決定づける一言を。
「実は……」
「実は?」
「トイレ……行きたくなっちゃたんだよ」
「…………」
「…………」
俺が挙げた戦法はまるで役に立たなかった。




