第五十六話
「お、おはよう……ミーニャ」
なんだ。
何も悪い事はしていないはずなのに流れるこの汗は。
「ふぇ……お兄ちゃん?」
ミーニャはまだ寝ぼけているのか、二次元幼女が困った時に出す様な声を上げて、ぼんやりとこちらを見ている。
そしてそんな彼女を見つめるは、妹の手を握りながら一緒の布団に入っている兄。
念のために言っておくが、俺がミーニャの手を握っているのはやましい気持ちからではない。
彼女が寝ぼけて掴んでいる俺の服から、手を外させようとするためであるという点を忘れないでほしい。
って、誰に言い訳しているんだ俺は。
というか、何を焦っているんだ俺は。
「……ん」
っ――まずい。
ミーニャの意識が覚醒しつつあるのか、彼女の瞳がどんどん開いて――
「あ、お兄ちゃん! おはよう!」
「…………」
はい?
「昨日、夜トイレに行った後に、お兄ちゃんの部屋に来たの忘れてたよ! ビックリしちゃった!」
「…………」
なんだ。
俺の眼の前にはいつも通りの反応を示すミーニャが居た。
「でもまだ眠いね……もう少し寝る……よ、おやすみ……」
おまけにまた眠ってしまった。
俺に手を握られたまま。
俺の布団で俺と一緒に寝ながら。
「…………」
なんだろう。
つまり勝手に意識してパニックに陥っていたのは、俺だけだったということだろうか。
いや、まぁ見る限りそういう事なんだけどさ。
「虚しい……」
何が虚しいって、妹であるミーニャが布団に居ただけで、テンパって色々な想像をしてしまった俺が虚しい。
よく考えてみれば、別にパニックに陥る様なことは何もない。
「…………」
この世界で出来た妹が、初めて甘えてきただけの事だ。
完全に意識し過ぎだったな。
「何だか騒いでたら疲れたし」
朝からこれだと先が思いやられるが、俺は隣でスゥスゥと寝息を立てるミーニャを見て思う。
「俺ももう一人眠りするかな」




